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今回のCDは、家族がテーマです。
谷川さんが家族について語られることは、
とっても意味深いように思うんですが。 |
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ぼくはひとりっ子だったから、わりと
大家族にあこがれていたようなところがあるんです。
でも、実際は
先行きに不安があるっていうことで(笑)、
ふたりしか子どもをつくんなかったんだけど。
実を言うと、ぼくは、結婚する前から
西部劇に出てくる開拓者の家族に
人間の、ある生き方の原形みたいなものを
見てたとこがあるんだよね。
だから「家族」っていうのは、ぼくにとって常に
一種の理想のイメージみたいなものだったんです。
昔の文士とか詩人っていうのは
「家庭は諸悪の根源だ」とかさ、
家族関係やつきあいをぜんぶほったらかしにして
「ひとりで生きるべきだ!」みたいな人が
多かったんだけどね。
ぼくは最初っからわりとちゃんと人並みに
結婚して子どもをうんで、
家族をだいじにしてすごしたいっていうふうに
ずっと思ってたんですよ。
詩人でそんなことを公言する人なんて
あんまりいなかったんです。
いわゆるマイホーム主義のハシリ
みたいなかんじね。 |
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谷川さんは、なんでもハシリですね。
ジーンズのハシリで‥‥。 |
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それを言うなら、
うちの父と母とぼくの3人家族は、
核家族のハシリですよ。
昭和の初期で、そのころは子どもが
2、3人なんていうのがあたりまえで。
ひとりっ子なんてのは、めずらしかったんだから。
親戚づきあいもあまりしないし、
おじいちゃんとおばあちゃんも、
いっしょに住んでなかったし。
だからなのか、ちゃんとした家族を見ると
すごい感動してたんです。
家族が人間の原点であり、
アメリカの開拓者のような
理想の家族の形があるとも考えている。
‥‥その人間がなんで家族をまっとうできないか、
っていうのが
私の後半生の主要なテーマではないでしょうか(笑)。 |
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でも、とてもすてきな、
立派な家族をおもちです。 |
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うん(笑)、結果的に、
家族ばらばらにはなっちゃったけど、
子どもふたりはちゃんとしてるから、
よかったと思ってます。 |
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そして、何にもかえがたい、
家族についての結晶が
このCDにはつまっています。
もう、何度泣いたことか。
まさに「入魂の」というかんじがします。 |
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自分では入魂しているつもりはないけれども、
なにしろ、家族の歴史っていうと
自分の全生涯ですよね。
あかんぼのときから家族のなかにいて、
自分でも家族をつくって、それを壊して(笑)、
またそれモドキをつくったりして、というような
すごい長い歴史があるから、
たまってるものは、すごい重いだろうと思います。
詩を声にして出すときに、そういうものが
やっぱり出てくるのかもしれない。
ほかにも「泣いた」って言ってくれた人が
たくさんいるんですよね。
これはちょっと私、責任感じてしまいます。
詩を書いている人間って、詩が大切です。
だけど、もし
人生でいちばん大切にしているものは何かって
訊かれたら、ぼくはどうも、
「詩」ってたぶん言わないと思いますね。
男はやっぱり仕事が大切って言いがちなんだけど、
やっぱり家庭が大事だって、いうふうに
ずっと思ってた人なんですよ。
家庭がなくなってからは「女が大事」っていうように
ちょっと変わったんですけどね(笑)。 |