怪・その33

「地下へ向かう階段」



今から20年前、両親を連れて、
奥日光のとある施設へ遊びに行きました。

トイレをお借りしようと場所を伺うと、
スタッフの方が、
「地下へ行く階段の近くにあります」
と教えてくださいました。

そこは廊下を回り込んだ北側に位置しており、
廊下の角を曲がっただけで、
それまでの喧騒が嘘のように静かになり、
同時に空気感も変わったことをよく覚えています。

私は、避暑地だから涼しいんだろうと思い、
そのままトイレへ向かいました。

入り口でスリッパに履き替えたのですが、
ふと振り返ると地下へ向かう階段があり、
まるで暗闇へ通じるかのように、
降りた先は黒く大きな闇となっていてました。

そして、その階段脇に
なぜか鏡があるのです。

その時点でイヤな感じはしましたが、
向きを変えてトイレ内に入った途端に、
全身に鳥肌が立ちました。

階段脇の鏡とトイレ内の鏡が、
合わせ鏡になっているのです。

怖さを堪えて、
3つある個室の内一番奥の個室へ入りました。
トイレ内は完全に無音です。

しばらくすると、
誰かが隣の個室に入り、
ガチャ」と施錠した音が聞こえました。

何も隣に入らないで、真ん中を空けて、
入り口に近い方に入ればいいのに、と思いながらも、
誰がが来てくれた安心感すら感じました。

1分も経たない内に個室を出ると、
隣はおろか、
トイレ内に誰もいません。

恐ろしいことに、
入口のスリッパの数も減っておらず、
下足も私の分しかありません。

思い返してみれば、スリッパに履き替える音も、
トイレ内を歩く音も、衣擦れの音もしなかったのです。

でも、間違いなく、鍵をかける音はしたのです。

私は怖くなり、手も洗わず、
振り返りもせず家族のもとへ戻りました。

霊感のある後輩のアドバイスに従い、
ペットボトルや花瓶も含め、
部屋中の水気を退けましたが、
高熱が出てしばらくうなされる日々が続きました。

(n)

こわいね!
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