第4回
「結婚」より「ゲージツ」
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糸井 |
ゲージツと結婚は合わない? |
橋本 |
すごくイヤミなことを言えば、
真面目な結婚生活送ってる芸術家って、
誰がいるんだって。 |
篠原 |
俺が「幸せな結婚」とか
「ホーム」を欲しがるようになったら、
ゲージツやめたほうがいいと思う。
だけど俺には、
やっぱりゲージツのほうが魅力あるんだ。
女は好きよ。
鉄とかガラスなんて窯で焼くと千四百度くらいになって、
燃費はかかるし、ヤケドやケガはするわ。
その点、女は優しいし、心地いいぞ。
こんな形してんだな、なんて思いながら、
まだ飽きないんだから。
ただ、あとがなあ……。 |
糸井 |
クマさんちの
一人で徘徊する猫みたいで
ありさえすればいいんでしょ。 |
篠原 |
そうそう。
でもあまりそれを強要してもな。
「じゃあ私は猫なの?」
なんて言われて。
俺は夜もぶっ通しでゲージツに走っちゃうだろ。
すると、
「私はいてもしょうがないのね」
ってなるんだよ。 |
橋本 |
俺とクマさんは
二十四時間の割り振りがまったくできないのよ。
いつもアドリブで生きてるみたいなさ。 |
糸井 |
要するに、一度にいろいろなことは
できないっていう話ね。
結婚は一つの事業だし、
ゲージツや人をあきれさせることも
すごいエネルギー使うことだし。 |
橋本 |
結婚はパック旅行だから、
いろんなものをオプションで組み込んで、
ギュウギュウ詰めにするのは無理なんだよ。 |
糸井 |
免税店にはぜったいに行かなきゃならないし。
忙しいよね。 |
橋本 |
シングルに対応するものは「ダブル」じゃなくて、
「世間並の結婚」てやつでね。
「自分たちの結婚」をすりゃいいんだけど、
みんな、それができないから
世間並のノウハウに合わせて、
自分たちの結婚じゃないものをしてるわけでさ。
それは単なる能なしだよ。
結婚ってさ、“好きな人と生活すること”でしょう。
だけど、相手のことをあまり好きじゃないまま、
見切り発車みたいに結婚しちゃった、
というパターンが多いんだろうな。
ほら、
「言葉をマスターするまで
外国に行かないって言ってたら、
一生、海外旅行には行けないよ」
って、パック旅行に連れてかれちゃうみたいなもので。 |
糸井 |
見切り発車ねえ……。 |
橋本 |
それで、結婚したら
ダブルしなきゃいけない義務感が鬱陶しくて、
その義務感がヤだから、
サンドイッチみたいに間に子どもつくるか、みたいなさ。
それが今の人の普通の結婚観じゃないの。 |
糸井 |
一般の男って、女房に求めるのは究極のところ、
「お母さん」だよね。
お母さんをしたくない女の人もいっぱいいるはずで、
「私はお母さんじゃない」
って拒否されたら男はおしまいだね。 |
橋本 |
でも女の側も、
お母さん以外のやり方ができる人がいないんだよ。
俺、人間なんて結局、
ああしろこうしろなんて言わなくても、
人間同士の関係でほんとうに愛情があれば、
最終的には符節は合うんだと思うのね。
よく役割分担決めてる夫婦がいるじゃない。
「夫がやることはこう」「妻はこう」だとか。
それは共同体の集会所に
生活ルールを張り出すのと同じで、
愛情がないからルールがあるんだろうってもんでさ。
それを“わかり合える結婚”とか何とか
勘違いしてるけど。
もし愛情があって結婚したのなら、
わかり合わなくたっていいんだって。
そもそも、わかり合った段階で
人は結婚するんでしょ。 |
篠原 |
俺は違ってたな。 |
橋本 |
だから、わかり合っていないのに、
子どもができたとか、
見切り発車みたいな形で結婚した人は
別れるわけだ。
でもそうじゃなく、
わかり合った段階で結婚したんなら、
途中いろいろあっても、
最後の最後まで悪くするってことはないと思う。
でもたいていの人は、
なりゆきに任せるだけの大胆さがないんじゃないの。 |
糸井 |
……なんか妙な説得力あるね。 |
橋本 |
人は説得力に惚れるのよ。(笑) |
糸井 |
シングルをやってくための秘訣ってあるのかね。 |
橋本 |
シングルへの願望がある人って、
「ずーっと一人でいられる覚悟をしなくちゃいけない」
っていうヘンな信仰があるよね。
「一生、自分を愛する人が
現れないという前提に立って……」みたいな。
俺、よくそんなメチャクチャなこと考えるなと思ってさ。
シングルやる秘訣って、
いい加減じゃなくちゃいけないんだよ。 |
糸井 |
二人とも、説明してないもんね。 |
篠原 |
気がつくと、こうなってたんだ。 |
橋本 |
俺だって、結婚しちゃうかもしれないもん。
三年先のことなんかわかりゃしないし。
この「わかりゃしないし」というところで
生きていくだけの度胸がないから、
余分なことを考えるんだよ。 |
篠原 |
先のことはわからねえな。
俺なんか、二ヵ月先にカネがあるかどうかもわからん。
二千万円の仕事で、
三カ月かかってやっと作品つくるだろ。
材料費、運送費、人を雇った費用を引いて
収支決算してみるとな、
やっと再来月くらいまでやっていけるか、
くらいしか残らねえんだ。
でも、それ慣れてるから怖かねえんだよ。
それに好き放題やってるわけだからさ。 |
橋本 |
クリエーティブは儲からないね。
俺、このあいだ生命保険、解約したよ。 |
篠原 |
俺はおととし解約した。
このトシになってどうすんだ、
これから大事なのにって経理に叱られたけど、
運転資金がないからしょうがないもん。
ゼニが足りねえからコマーシャルやテレビに出て、
体まで売ってるしな。 |
糸井 |
クマさんはともかく、
橋本くんは子どもほしいとは思わない? |
橋本 |
それはない。
だって子どもが不幸だよ。
俺にガンガンやられるから。
どっちかというと、
世界は俺の子どもで満ち満ちてるという感じに近いね。
そういう意味じゃあ、俺、すごく父性的なのよ。 |
糸井 |
話聞いてると、いわゆる
社会常識の枠の外にいる人たちなんだけど、
他者には理解されてるよね。 |
橋本 |
だから俺、平民じゃないと思うよ。
王朝の人だね。
「王権神授説」みたいなもので、
私の治世が正しければ、
天は許してくださるという……。 |
篠原 |
そうきたか。
じゃ、俺は路上の人だね。
道端には強いタイプだ。 |
橋本 |
どっちにしろ、シングルで
あっけらかんとしてる人は
自分に対するマネージメント能力が非常にあるんだよ。
人にまかせられないから、シングルなんで。 |
糸井 |
なんか今、淋しい、オレ……。 |
篠原 |
胃弱だから淋しい。(笑) |
糸井 |
そういう豪快な人たちの仲間に入りたがってるね。 |
橋本 |
そして、豪快な仲間に入り損ねた男は
「ホーム」に入る。 |
糸井 |
ほっといてくれよ。
それなりに楽しくやってるつもりなんだからさ。(笑)
〈終〉 |