BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 ひとりの似合う男です

第2回 女帝は君臨する

第3回 「あきれさせたい」人々

第4回
「結婚」より「ゲージツ」

糸井 ゲージツと結婚は合わない?
橋本 すごくイヤミなことを言えば、
真面目な結婚生活送ってる芸術家って、
誰がいるんだって。
篠原 俺が「幸せな結婚」とか
「ホーム」を欲しがるようになったら、
ゲージツやめたほうがいいと思う。
だけど俺には、
やっぱりゲージツのほうが魅力あるんだ。
女は好きよ。
鉄とかガラスなんて窯で焼くと千四百度くらいになって、
燃費はかかるし、ヤケドやケガはするわ。
その点、女は優しいし、心地いいぞ。
こんな形してんだな、なんて思いながら、
まだ飽きないんだから。
ただ、あとがなあ……。
糸井 クマさんちの
一人で徘徊する猫みたいで
ありさえすればいいんでしょ。
篠原 そうそう。
でもあまりそれを強要してもな。
「じゃあ私は猫なの?」
なんて言われて。
俺は夜もぶっ通しでゲージツに走っちゃうだろ。
すると、
「私はいてもしょうがないのね」
ってなるんだよ。
橋本 俺とクマさんは
二十四時間の割り振りがまったくできないのよ。
いつもアドリブで生きてるみたいなさ。
糸井 要するに、一度にいろいろなことは
できないっていう話ね。
結婚は一つの事業だし、
ゲージツや人をあきれさせることも
すごいエネルギー使うことだし。
橋本 結婚はパック旅行だから、
いろんなものをオプションで組み込んで、
ギュウギュウ詰めにするのは無理なんだよ。
糸井 免税店にはぜったいに行かなきゃならないし。
忙しいよね。
橋本 シングルに対応するものは「ダブル」じゃなくて、
「世間並の結婚」てやつでね。
「自分たちの結婚」をすりゃいいんだけど、
みんな、それができないから
世間並のノウハウに合わせて、
自分たちの結婚じゃないものをしてるわけでさ。
それは単なる能なしだよ。
結婚ってさ、“好きな人と生活すること”でしょう。
だけど、相手のことをあまり好きじゃないまま、
見切り発車みたいに結婚しちゃった、
というパターンが多いんだろうな。
ほら、
「言葉をマスターするまで
外国に行かないって言ってたら、
一生、海外旅行には行けないよ」
って、パック旅行に連れてかれちゃうみたいなもので。
糸井 見切り発車ねえ……。
橋本 それで、結婚したら
ダブルしなきゃいけない義務感が鬱陶しくて、
その義務感がヤだから、
サンドイッチみたいに間に子どもつくるか、みたいなさ。
それが今の人の普通の結婚観じゃないの。
糸井 一般の男って、女房に求めるのは究極のところ、
「お母さん」だよね。
お母さんをしたくない女の人もいっぱいいるはずで、
「私はお母さんじゃない」
って拒否されたら男はおしまいだね。
橋本 でも女の側も、
お母さん以外のやり方ができる人がいないんだよ。
俺、人間なんて結局、
ああしろこうしろなんて言わなくても、
人間同士の関係でほんとうに愛情があれば、
最終的には符節は合うんだと思うのね。
よく役割分担決めてる夫婦がいるじゃない。
「夫がやることはこう」「妻はこう」だとか。
それは共同体の集会所に
生活ルールを張り出すのと同じで、
愛情がないからルールがあるんだろうってもんでさ。
それを“わかり合える結婚”とか何とか
勘違いしてるけど。
もし愛情があって結婚したのなら、
わかり合わなくたっていいんだって。
そもそも、わかり合った段階で
人は結婚するんでしょ。
篠原 俺は違ってたな。
橋本 だから、わかり合っていないのに、
子どもができたとか、
見切り発車みたいな形で結婚した人は
別れるわけだ。
でもそうじゃなく、
わかり合った段階で結婚したんなら、
途中いろいろあっても、
最後の最後まで悪くするってことはないと思う。
でもたいていの人は、
なりゆきに任せるだけの大胆さがないんじゃないの。
糸井 ……なんか妙な説得力あるね。
橋本 人は説得力に惚れるのよ。(笑)
糸井 シングルをやってくための秘訣ってあるのかね。
橋本 シングルへの願望がある人って、
「ずーっと一人でいられる覚悟をしなくちゃいけない」
っていうヘンな信仰があるよね。
「一生、自分を愛する人が
現れないという前提に立って……」みたいな。
俺、よくそんなメチャクチャなこと考えるなと思ってさ。
シングルやる秘訣って、
いい加減じゃなくちゃいけないんだよ。
糸井 二人とも、説明してないもんね。
篠原 気がつくと、こうなってたんだ。
橋本 俺だって、結婚しちゃうかもしれないもん。
三年先のことなんかわかりゃしないし。
この「わかりゃしないし」というところで
生きていくだけの度胸がないから、
余分なことを考えるんだよ。
篠原 先のことはわからねえな。
俺なんか、二ヵ月先にカネがあるかどうかもわからん。
二千万円の仕事で、
三カ月かかってやっと作品つくるだろ。
材料費、運送費、人を雇った費用を引いて
収支決算してみるとな、
やっと再来月くらいまでやっていけるか、
くらいしか残らねえんだ。
でも、それ慣れてるから怖かねえんだよ。
それに好き放題やってるわけだからさ。
橋本 クリエーティブは儲からないね。
俺、このあいだ生命保険、解約したよ。
篠原 俺はおととし解約した。
このトシになってどうすんだ、
これから大事なのにって経理に叱られたけど、
運転資金がないからしょうがないもん。
ゼニが足りねえからコマーシャルやテレビに出て、
体まで売ってるしな。
糸井 クマさんはともかく、
橋本くんは子どもほしいとは思わない?
橋本 それはない。
だって子どもが不幸だよ。
俺にガンガンやられるから。
どっちかというと、
世界は俺の子どもで満ち満ちてるという感じに近いね。
そういう意味じゃあ、俺、すごく父性的なのよ。
糸井 話聞いてると、いわゆる
社会常識の枠の外にいる人たちなんだけど、
他者には理解されてるよね。
橋本 だから俺、平民じゃないと思うよ。
王朝の人だね。
「王権神授説」みたいなもので、
私の治世が正しければ、
天は許してくださるという……。
篠原 そうきたか。
じゃ、俺は路上の人だね。
道端には強いタイプだ。
橋本 どっちにしろ、シングルで
あっけらかんとしてる人は
自分に対するマネージメント能力が非常にあるんだよ。
人にまかせられないから、シングルなんで。
糸井 なんか今、淋しい、オレ……。
篠原 胃弱だから淋しい。(笑)
糸井 そういう豪快な人たちの仲間に入りたがってるね。
橋本 そして、豪快な仲間に入り損ねた男は
「ホーム」に入る。
糸井 ほっといてくれよ。
それなりに楽しくやってるつもりなんだからさ。(笑)

〈終〉

2000-08-10-THU

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