BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


天気が教えてくれること
(全4回)


今日、あなたは誰かと天気の話をしましたか?
日々の快・不快に始まり、
世紀の民族大移動まで、私たちは
気象条件に追い立てられて、生きている!

構成:福永妙子
写真:外山ひとみ
(婦人公論1999年10月22日号から転載)


木村尚三郎
東京大学名誉教授
(西洋史学・
中世ヨーロッパ史)。
評論家。
1930年東京生まれ。
中世と対話しながら、
現代文明を
鋭くえぐる著書多数。
『歴史の発見』
『ヨーロッパとの対話』
『成熟の時代』
『美しい「農」の時代』
など。
食料・農業・
農村基本問題調査会会長。

根本順吉
気象研究家。
1919年東京生まれ。
41年、
気象技術官養成所卒業、
中央気象台で
天気予報業務に従事。
60年代には、
世界に先駆けて
異常気象を指摘する。
75年に退官後は
フリーの
気象研究家として活動。
著書に
『世紀末の気象』
『超異常気象』
『地球に何がおきているか』
など。
糸井重里
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は
多岐にわたる。
当座談会の司会を担当。


婦人公論井戸端会議担当編集者
打田いづみさんのコメント

先日、渋谷ですれ違ったサラリーマン氏の汗が、
背中のみならず
ズボンのお尻一面に広がっているのを目撃したとき、
思いました。
「明日から、ここはスペインってことで……」

そうです、地球の平均表面気温は、
ここ600年間でも最高だとか!
いったいこの温暖化を前に、
私たちはどうすればいいのでしょうか。

根本先生の、異常気象のなんたるか、というお話から、
木村先生の、お天気と”愛の営み”の関係まで――。
残暑厳しき折、シエスタの前にご一読を。

第1回
世界中が暑い

糸井 この夏は暑くてクーラーが売れたとか、
熱帯夜で眠れなかったとか、
僕ら、暑いだの寒いだの、
天気を毎日のように話題にしますよね。
木村 日本のテレビは天気予報を
しょっちゅうやってますけど、
ヨーロッパではそんなことはない。
「お天気屋」なんていう言葉がありますが、
日本人は天気で気分が左右されやすいんでしょう。
花のニュースも日本独特です。
アヤメが咲いた、とか。
糸井 開花宣言とかね。
木村 自然とのかかわりの中で生きることが、
非常に強い民族ではあることは間違いないでしょうね。
根本 ただ、今は季節感がズレてるところがあります。
年賀状なんかそう。
元旦に出すけど、これから本格的な冬に入るのに、
何で「新春のお慶び」なの? 
私は20年来、年賀状は出さない。
そのかわり立春に相手に着くように
一年間の近況を書いて出してる。
みなさんもそうしなさいよ。
糸井 わかりました(笑)。
今のお話もそうだけど、僕たちは日常、
気候のことをたくさん口にするわりには、
「天気って何?」と、
ちゃんと考えたことがないような気がするんですよ。
根本 この頃、雷が鳴ったり、雨がたくさん降り続くと、
口癖のように出てくる言葉があります。
「天気が不安定だから」。
天気が不安定で集中豪雨になった、
雷雨になったと。
あれ、おかしいですよ。
不安定というのは、どんどん変わるわけだから、
雨が降り出してもすぐに止んで集中豪雨にはならない。
そうじゃなくて、そこで雨が降る仕組みが
腰を落ち着けて動かなくなったから、
つまり非常に安定しているために、何十ミリも雨が降る。
木村 不安定のまったく逆ですね。
根本 言葉を理解しないで、
ただなんとなくわかったような気がして、
いい加減な使い方をしてるんです。
だから、不安定だと雨が降るのかと思っちゃう。
糸井 そういうところ、ありますね。
根本 それから、われわれに
いろいろな情報を与えてくれるのは予報士ですわね。
だけど気象庁には専門の予報官がいるわけでしょう。
じゃあ、予報士は何?
糸井 「予報士の試験に通った」とか、
運転免許みたいに言ってますが、
予報官とどう違うんでしょう。
根本 役割分担の問題なんですよ。
たとえて言えば、予報官は医者で、予報士は看護婦。
注射や点滴を、看護婦さんは上手にやりますよね。
経過が順調なときはそれでいいんです。
だけど思わぬ形で大きな変化があったときは、
専門の医者が診断しなきゃいけない。
今、書店で気象関係の本といえば、半分以上が
予報士の試験問題の手引きだったりしますけど、
それを読んで試験に受かっても、予報はできないです。
毎日、同じ天気はないように、予報は日々、発見です。
だから経験的なものが必要だし、
それに基づいて、アッと気がついたりして
いろいろな予報ができるわけね。
ただ情報を受け継いで流すだけでは、
予報にならないんです。
糸井 根本先生は、お医者さんで言えば研究医ですか、
それとも臨床医?
根本 臨床医でしょう。
私は学者じゃないです。
言うなれば、現場で叩き上げてきた大工。
だけど、みんながやったことのない経験を
すごく積んでますよ。
天気図がありますね。
みなさんが目にするのは極東の、
日本付近だけのものでしょう。
私は北半球全体の天気図を2年間ぶっ続けで書いていて、
それやったの、日本では私だけです。
今は気象庁でも、ほとんどの予報官は
天気図を書きません。
全部コンピューター。
でも機械じゃ、細かい前線の変化は把握できないです。
今は情報化の時代で、家にいても
世界中のデータがわかるし、いい点もあるけど、
みんな、その情報を読みきれないのです。
糸井 じゃあ、臨床医としてのお話をしばらく伺いましょう。
最近の天気の傾向はいかがですか?
根本 私、5年前に
『超異常気象』(中公新書)という本を書きましてね。
ついでに説明しますと、異常気象というのは
「30年以上に1回の稀な気象」と定義されています。
それをはるかに越えた
何百年、何千年に1回くらいの現象を、
私は超異常気象と呼んで区別してるんです。
ところが今、私が懸念していた
超異常気象どころじゃない、
もっと大変なことが起こっている。
糸井 のっけからすごい話になりましたね。
「超異常」よりすごい……。
根本 今、世界中が暑いんです。
過去600年間の北半球の
平均表面気温の変化を書いたグラフがありますが、
1950年くらいから上がり出して、
ここ最近の高さは過去にはないんですよ。
糸井 この600年でいちばん高い!
根本 地球全体の上から下まで全部を平均した温度は、
ぜんぜん変わっていません。
成層圏なんかすごく下がってるけど、
地面から5キロくらいまでが
ものすごい勢いで上がっている。
木村 地球の温暖化現象ですね。
根本 1975年からは
10年間に0.27度くらい上がっていて、
そのくらいだったら、みなさんがよく言う
炭酸ガス排出による温室効果だと考えられます。
ところが、1990年以降は
10年間で0.77度も上がってる。
その前までの3倍ですよ。
この上昇率を見て恐ろしいと思わなかったら、
どうかしてます。
ところがみんな、そういう意識がぜんぜんない。
糸井 今が特殊な時期だと思いたくないんでしょうか。
根本 これまでの学説にあてはまりませんからね。
いまだに、石油かなんかをうんと使うための
温室効果だという考えが主流ですが、
世界でこの問題をいちばん長くやっている
キーリングという人がつくった
二酸化炭素濃度と
気温変化との関係を表したグラフ(下図参照)を
見てください。
気温が上がって1年か1年半遅れて、
炭酸ガスが増えてるでしょう。
糸井 本当だ。
それぞれのカーブが少しズレてます。
根本 これ見ると、炭酸ガスが原因で
温度が上がったとは言えないですよ。
糸井 逆ですよね。
根本 炭酸ガスは原因じゃなくて、結果なんです。
糸井 木村先生、ご存じでした?
木村 いやぁ、僕も知りませんでした。
だから今、ちょっと驚いてます。
根本 日本でこのデータを論文に引用しているのは
筑波大学の先生一人で、
他の専門家はまったく無視してます。
温暖化がもし全部、炭酸ガスによるもので
人間がやったことなら、それをストップすればいい。
だけど気温の上昇のほうが先なんです。
われわれは自然と仲良くしようとか何とか
言ってるでしょう。
それで環境を“コントロール”、制御するとか、
“モディフィケーション”、改変するとか言ってるけど、
こんなに温度が上がっているのを、
どうにかできますか? できないです。
糸井 大変だあ。
根本 ほんと、大変な話なんですよ。
 

第2回  歴史と天候

第3回  西を目指すとき

第4回  逃げ方を学べ!

2000-09-06-WED

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