第1回
世界中が暑い
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糸井 |
この夏は暑くてクーラーが売れたとか、
熱帯夜で眠れなかったとか、
僕ら、暑いだの寒いだの、
天気を毎日のように話題にしますよね。 |
木村 |
日本のテレビは天気予報を
しょっちゅうやってますけど、
ヨーロッパではそんなことはない。
「お天気屋」なんていう言葉がありますが、
日本人は天気で気分が左右されやすいんでしょう。
花のニュースも日本独特です。
アヤメが咲いた、とか。 |
糸井 |
開花宣言とかね。 |
木村 |
自然とのかかわりの中で生きることが、
非常に強い民族ではあることは間違いないでしょうね。 |
根本 |
ただ、今は季節感がズレてるところがあります。
年賀状なんかそう。
元旦に出すけど、これから本格的な冬に入るのに、
何で「新春のお慶び」なの?
私は20年来、年賀状は出さない。
そのかわり立春に相手に着くように
一年間の近況を書いて出してる。
みなさんもそうしなさいよ。 |
糸井 |
わかりました(笑)。
今のお話もそうだけど、僕たちは日常、
気候のことをたくさん口にするわりには、
「天気って何?」と、
ちゃんと考えたことがないような気がするんですよ。 |
根本 |
この頃、雷が鳴ったり、雨がたくさん降り続くと、
口癖のように出てくる言葉があります。
「天気が不安定だから」。
天気が不安定で集中豪雨になった、
雷雨になったと。
あれ、おかしいですよ。
不安定というのは、どんどん変わるわけだから、
雨が降り出してもすぐに止んで集中豪雨にはならない。
そうじゃなくて、そこで雨が降る仕組みが
腰を落ち着けて動かなくなったから、
つまり非常に安定しているために、何十ミリも雨が降る。 |
木村 |
不安定のまったく逆ですね。 |
根本 |
言葉を理解しないで、
ただなんとなくわかったような気がして、
いい加減な使い方をしてるんです。
だから、不安定だと雨が降るのかと思っちゃう。 |
糸井 |
そういうところ、ありますね。 |
根本 |
それから、われわれに
いろいろな情報を与えてくれるのは予報士ですわね。
だけど気象庁には専門の予報官がいるわけでしょう。
じゃあ、予報士は何? |
糸井 |
「予報士の試験に通った」とか、
運転免許みたいに言ってますが、
予報官とどう違うんでしょう。 |
根本 |
役割分担の問題なんですよ。
たとえて言えば、予報官は医者で、予報士は看護婦。
注射や点滴を、看護婦さんは上手にやりますよね。
経過が順調なときはそれでいいんです。
だけど思わぬ形で大きな変化があったときは、
専門の医者が診断しなきゃいけない。
今、書店で気象関係の本といえば、半分以上が
予報士の試験問題の手引きだったりしますけど、
それを読んで試験に受かっても、予報はできないです。
毎日、同じ天気はないように、予報は日々、発見です。
だから経験的なものが必要だし、
それに基づいて、アッと気がついたりして
いろいろな予報ができるわけね。
ただ情報を受け継いで流すだけでは、
予報にならないんです。 |
糸井 |
根本先生は、お医者さんで言えば研究医ですか、
それとも臨床医? |
根本 |
臨床医でしょう。
私は学者じゃないです。
言うなれば、現場で叩き上げてきた大工。
だけど、みんながやったことのない経験を
すごく積んでますよ。
天気図がありますね。
みなさんが目にするのは極東の、
日本付近だけのものでしょう。
私は北半球全体の天気図を2年間ぶっ続けで書いていて、
それやったの、日本では私だけです。
今は気象庁でも、ほとんどの予報官は
天気図を書きません。
全部コンピューター。
でも機械じゃ、細かい前線の変化は把握できないです。
今は情報化の時代で、家にいても
世界中のデータがわかるし、いい点もあるけど、
みんな、その情報を読みきれないのです。 |
糸井 |
じゃあ、臨床医としてのお話をしばらく伺いましょう。
最近の天気の傾向はいかがですか? |
根本 |
私、5年前に
『超異常気象』(中公新書)という本を書きましてね。
ついでに説明しますと、異常気象というのは
「30年以上に1回の稀な気象」と定義されています。
それをはるかに越えた
何百年、何千年に1回くらいの現象を、
私は超異常気象と呼んで区別してるんです。
ところが今、私が懸念していた
超異常気象どころじゃない、
もっと大変なことが起こっている。 |
糸井 |
のっけからすごい話になりましたね。
「超異常」よりすごい……。 |
根本 |
今、世界中が暑いんです。
過去600年間の北半球の
平均表面気温の変化を書いたグラフがありますが、
1950年くらいから上がり出して、
ここ最近の高さは過去にはないんですよ。 |
糸井 |
この600年でいちばん高い! |
根本 |
地球全体の上から下まで全部を平均した温度は、
ぜんぜん変わっていません。
成層圏なんかすごく下がってるけど、
地面から5キロくらいまでが
ものすごい勢いで上がっている。 |
木村 |
地球の温暖化現象ですね。 |
根本 |
1975年からは
10年間に0.27度くらい上がっていて、
そのくらいだったら、みなさんがよく言う
炭酸ガス排出による温室効果だと考えられます。
ところが、1990年以降は
10年間で0.77度も上がってる。
その前までの3倍ですよ。
この上昇率を見て恐ろしいと思わなかったら、
どうかしてます。
ところがみんな、そういう意識がぜんぜんない。 |
糸井 |
今が特殊な時期だと思いたくないんでしょうか。 |
根本 |
これまでの学説にあてはまりませんからね。
いまだに、石油かなんかをうんと使うための
温室効果だという考えが主流ですが、
世界でこの問題をいちばん長くやっている
キーリングという人がつくった
二酸化炭素濃度と
気温変化との関係を表したグラフ(下図参照)を
見てください。
気温が上がって1年か1年半遅れて、
炭酸ガスが増えてるでしょう。 |
糸井 |
本当だ。
それぞれのカーブが少しズレてます。 |
根本 |
これ見ると、炭酸ガスが原因で
温度が上がったとは言えないですよ。 |
糸井 |
逆ですよね。 |
根本 |
炭酸ガスは原因じゃなくて、結果なんです。 |
糸井 |
木村先生、ご存じでした? |
木村 |
いやぁ、僕も知りませんでした。
だから今、ちょっと驚いてます。 |
根本 |
日本でこのデータを論文に引用しているのは
筑波大学の先生一人で、
他の専門家はまったく無視してます。
温暖化がもし全部、炭酸ガスによるもので
人間がやったことなら、それをストップすればいい。
だけど気温の上昇のほうが先なんです。
われわれは自然と仲良くしようとか何とか
言ってるでしょう。
それで環境を“コントロール”、制御するとか、
“モディフィケーション”、改変するとか言ってるけど、
こんなに温度が上がっているのを、
どうにかできますか? できないです。 |
糸井 |
大変だあ。 |
根本 |
ほんと、大変な話なんですよ。 |