第3回 その年齢のもつ奥行き
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糸井 |
一般的には、テレビや雑誌で
もてはやされるのって、
20代までの女性が多いですよね。
そればっかりを毎日見せつけられるから、
美しさの基準はそこにあるんじゃないかって
世の中誤解するけど、
本当はその先の年代が長くて、
そこで美しくいるために、
化粧の役割なんかもあるわけでしょう。 |
大 |
僕、この1ヵ月に7回、
スタジオメイクの撮影の仕事があったんですけど、
いちばん若いモデルさんで30歳でした。
あとは60歳を過ぎている吉行和子さん、
50代の稲葉賀惠さん、
それから壇ふみさんは40代かな。
そういう年齢の女性が、僕の仕事では多いんです。 |
糸井 |
いわゆるモデルさんて、
30歳までとか言うでしょう。 |
大 |
そうなんですね。
だけど18歳くらいで、シワもたるみもない代わりに
感覚的にも希薄なモデルにお化粧するより、
肌に衰えはきてても、
内側から何か美しいものが出ている人のほうが、
僕は好きなの。
でも聞くところによると、
何歳以上の人のメイクを担当するのは
イヤっていう人もいるんですって。 |
糸井 |
そりゃ、若いモデルのほうが簡単だもの。 |
大 |
うん、年齢の高い人の場合、やたら分厚く
ペンキみたいにぬればいいってものじゃないし、
じゃあ、ナチュラルにさらりとぬればいいかと言えば、
それでもない。
そこのとこ、すごく微妙なのね。
しっかりめでも、自然に見えるようなやり方って、
けっこう工夫が必要なの。 |
石田 |
さっきのナチュラルメイクの話ですよね。 |
大 |
そう、あの話ね。
で、1回ごとに、相手の方と対面して考える。
そういうことに時間がかかって、
ときどき汗が流れちゃったりするんです。
ある年齢以上の人のメイクはイヤという人は、
そういう作業を敬遠するんだと思う。
それでね、吉行さんとか稲葉さんとか、
ほんとに個性があって、
いろいろなさってこられた方だし、
僕なんて、太刀打ちできないところがありますよね。 |
糸井 |
実は、僕、吉行さんすごーく好き。 |
大 |
僕も。
だけど好きな人のお化粧するのって大変よ。
一種のビビリみたいなものが出て。
それでちょっと心配しながら
スタジオに入るんです。
8割の自信はあるけど、
2割くらいの不安があって。 |
糸井 |
大さんでも? |
大 |
はい。でも、相手も不安なのね。
で、メイクが終わる頃におっしゃるんです、
「私、心配してました」って。
何を心配してたかというと、
僕のテクニックのことじゃなくて、
「こんな年齢の私のメイクをするのは
イヤなんじゃないかしら」
って僕に気を遣ってらしたみたいなの。
僕、そういうのが美しいと思えちゃう。
たしかに若かりし頃にくらべれば、
衰えている部分はある。生物学的にね。
でも、それに対して
内気になっていたり、恥じらったり。
美に対する傲慢さがないって言うか……
そういうデリカシイが好き。
そんな、歳を重ねて
なお輝くものをもってる女の人が好きだから、
この仕事を続けていられるんだとよく思う。 |
糸井 |
ちょっとホロリときますね。 |
大 |
つまり共同作業してるのね。
ただ素材をカンバスとして
メイクするんであれば、
顔の整った若い人を相手にすればいい。
だけど、ある年齢以上の人だと、
一緒に乗り越えようとする何かがあるのね。
それは疲れるけど、楽しい作業でもある。
充実感があって。 |
石田 |
シワなんかは? |
大 |
隠さないです。
きれいに見えるようにはするけど。
疲れた顔をしていたら、
充実しているような顔に
もっていってあげたいと、
真剣に心から思うわよ。 |
糸井 |
そう、「充実しているような」ですよ。
そのひとこと。
いいなと思う人って、そこですね。 |
石田 |
女性の立場からすると、
大さんみたいな男性が増えたら、
ほんとにいいなあって思います。(笑) |
糸井 |
よく、25歳くらいの女性が、
「あたし、もうダメ」
とか言うじゃないですか。 |
石田 |
今、18歳で言ってますよ。 |
糸井 |
18ですか! |
石田 |
若い男性が年上の女性を見るときも
シビアですしね。 |
糸井 |
男は女の言う通りの美意識に
ひきずられるからなあ。
「私は終わっていく」という女の子の不安感が
そのまま伝染して、
「おばさん」なんて言い切っちゃうんですよ。
僕は若い女の子が「もうだめ」と言うとき、
「その意味で言えば、たしかにだめだよ」
と言っちゃうんです。
つまり、彼女たちの言ってるのは
生殖に適した年齢のことで、
健康に孕むことと美しさというものを
混同してるから、それは別だぜってね。
そこから先のほうが人生は長いし、
その長さを
今度は美しさを見つける時間だと考えたら、
楽しいと思うんですけどね。 |
大 |
苦しみもあるのよ、長距離マラソンみたいで。
どこかであきらめたり、
ダメ出ししたくなるときが、
必ず女の人にはあると思う。
ないとしたら、よほど無神経な人か天狗の人か、
どっちかでね。 |
糸井 |
そういえば、
ちょっと顔立ちのきれいな年とった人って、
若い頃のいちばんモテた時代のお化粧を
ずーっとしてませんか。
「そこにさえいれば大丈夫」っていうのは、
やっぱりサボってますよね。 |
石田 |
それは、ちょっと厳しい言い方ですね。
マスコミで流れているのは20代のメイクだし、
私たちにしてみれば、自分たちの情報が
ほとんどないのが実情なんですから。
美容カウンターに行くのも勇気がいるし。 |
糸井 |
どうすりゃいいんですかね。 |
石田 |
気持ちのもち方として、
若さに執着することはやめてもいいと思う。
私は資生堂が11年前からやっている
“サクセスフル・エイジング”という
キャンペーンの仕事にも携わっているんですが、
それ、年齢を意識しないとか
年齢を離れるということではなく、
そのとき、その年齢の自分にしかない美しさを
見つけて表現していくという考え方なんですね。
だから何も中高年女性だけの問題じゃない。
性別、年齢も関係ない。
それで、「人それぞれ、年それぞれの美しさ」と
私は言ってるんですけど。 |
大 |
かわいい、キレイなおばあちゃん、いるものね。
枯れてなお花の香りがするような人。 |
糸井 |
そういう美しさを引き出すための一つの手段が、
化粧なんだろうな。 |
大 |
お化粧って、
上にぬっていくものととらえている人は多いし、
広辞苑にも「外観を飾る」って書いてあります。
でも違うのね。
ぬったり、余分なものをとったりするうちに、
内側から出てくるものがある。
それこそが重要だと思う。 |
石田 |
私もそう思います。 |
糸井 |
あと、「きれい」って
人に1回でも2回でも言われると、
「私、今きれいなんだわ」という軸が
見えますよね。 |
石田 |
そう、周りの人がきちんと言ってあげることが
大事ですよ。
今、社交ダンスが盛んですよね。
温泉ホテルは不況ですから、
ダンスホールをつくって
ダンス好きのツアー客を呼び込んだりしています。
そういうとき中高年の女性たちは、
どの服を着ようか、どんなメイクをしようかって
ワクワクしながらそのホテルに行くんですね。
そういうふうに、自分が輝くだけでなく、
輝いている自分を
他の人に見てもらえる場をつくることも、
大切です。 |
糸井 |
うちの80歳の母親なんか、
旅行に行くとき、どんな服持っていこうかしら、
なんて嬉しそうに支度してて、
ばあさんなんだけど、かわいいもんなぁ。 |
大 |
主婦の人だったら、自分を見る子どもの目を、
鏡やカメラと思えばいいんじゃない? |
糸井 |
人に見てもらうというのは
社会とつながる、ということでもありますね。 |
石田 |
痴呆のお年よりが入院している病院で
お化粧の講習会を開くと、
参加した方の痴呆の症状が
だんだんと軽くなるんです。
同時に社会性が回復していく傾向も
見られるんですよ。
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