第4回 パック歴30年
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糸井 |
お化粧するとき、「これがいちばん大事」っていう
基本の道具は何ですか? |
大 |
人それぞれだと思う。
口紅が重要だと言う人もいれば、
マスカラが大事な人もいるし。 |
石田 |
一般論で言うと、顔の印象に
いちばん大きな影響を与えるっていう意味では、
眉と口のメイクですね。 |
糸井 |
眉かぁ……。
眉といえば、うちの娘は16歳のとき、
初めて自分の眉をいじってね。
男の子に間違えられるくらい、
何もかまわない女の子だったから、
「あいつの心境に何があったんだろう」って、
僕、ワクワクしました。
ピンクの灯りが見える、
ちょっとした日常の“詩”でした。
あ、話が横道にそれちゃいました。 |
大 |
いや、いい話ですね。
それで……、肌は3番目くらい? |
石田 |
化粧品を一品しか使えないときに
選ぶものとしては、
日本人はファンデーションが2番、3番を
争ってますね。
欧米人の普段の場でのメイキャップでは、
素肌にポイントメイクというパターンが
多いようです。 |
大 |
今、化粧品はニーズ別に細分化されて
たくさん出てるけど、
使う側が情報に振り回されて、
自分なりの方法を編み出せていない。
それがすごく残念。
まあ、何にしても、元気づけてくれたり、
慰めてくれたりするんですよ、お化粧は。
同じ道具で同じ時間かけても、
そのことに気づいている人のほうが
絶対きれいになれます。 |
糸井 |
個人的にはどうですか。
「これだけは」っていう
アイテムみたいなものってあります……? |
大 |
僕はやっぱり頬紅かな。
つけると頭の回転と舌の回転がよくなる。 |
石田 |
私は香りですね。
つけ忘れると、
大事なものを家に忘れてきたような気がして、
一日中だめです。糸井さんは? |
糸井 |
僕ねぇ、そういうの無頓着だから……
あっ、髪の毛立てないとだめ。
家にいるときは洗いっぱなしでも、
出かけるときは、どんなに寝ぼけまなこでも
立てていきます。
僕にもあったんだ、大発見(笑)。
化粧品じゃないけど。 |
石田 |
ということは、常に立ちやすいように
髪を切り揃えているわけですよね。 |
大 |
そういうふうに自分に手をかけることって、
大事ですよ。 |
石田 |
大さんは、毎日のスキンケアも
手を抜かずにやってらっしゃるんでしょう。 |
大 |
肌や毛穴の汚れをきれいに洗って清潔にする、
そして整える、保護する。
簡単に言えば
その3つをしっかりやるということね。
10分くらいでできるじゃない。
あとは、その日その日で
肌が要求していることを加えます。
洗顔したあと顔をよく見て、触って、
「今日はもう少し、これを付け足さなきゃ」とか。 |
糸井 |
体と食べ物の関係と同じだな。
体が酢の物ほしがってる、とか。 |
大 |
やってしまえば、何でもないことでしょう。
夜は家内と一緒にパックしたりしますが、
朝のパックは、
21、22歳の頃からずっと続けています。 |
糸井 |
毎日? |
大 |
そう。
ベッドから7歩歩かなきゃいけないところに
目覚まし時計とパックを置いてて、
朝、目覚まし時計を止めると同時に
パックをつかむの。
あとは、ベランダに出たり、
朝、新聞を取りに行ったりするときでも、
1年中必ずサンスクリーンはつけますね。 |
糸井 |
はぁ……。 |
大 |
そういうことに神経を使うのも、
理由があるんです。
一つは、こういう仕事をしてるから、
写真を取られたり、みんなの前に出ることも多い。
雑誌に原稿も書きますが、書くだけで終わらず、
僕自身も見られてる。
僕の記事を一所懸命に読んでくれる読者の期待に
応えるためにも、
自分できちんと実践しておきたい
というのがあるのね。 |
糸井 |
さすが、だ。 |
大 |
それともう一つ。
朝刊を取りにいく頃は、
ちょうど近所のおじいちゃんおばあちゃんが
散歩してる時間なの。それで
「あっ、ヒロユキちゃん、今日は家にいるの?」
って、ちょっとのつもりの立ち話が長引く。
そのとき、サンスクリーンをぬってないと、
新聞かざして
朝日が顔に当たらないようにしながら、
「早く話を終わりにして」と
つい思っちゃうでしょう。
そんなふうに話を遮りたくなる自分がイヤなの。 |
石田 |
よくわかります。
私もお化粧しないで外に出ると、
気持ちが落ち着かない。
なんか不安で……。 |
大 |
おばあちゃんたちと話すことで嬉しくなったり、
昨日から引きずってた
ストレスが消えることもある。
向こうも僕としゃべるのが好きみたいだしね。
なのに、日焼けが怖くて
話を切り上げなきゃなんて、
相手に対しても悪いし、
それは結局、自分にも返ってくることでしょう。 パックにしてもそう。
一時期、しないときもあったんです。
それで寝不足の顔で仕事に行きますね。
すると僕にやさしい人は、
「大さん、
すごいスケジュールで疲れてるんだろうな」
って思って、
「無理しないで」
と言ってくれる。
でもね、
そう言わせることはいけないことでしょう。
その人たちは僕を待ってて、
僕の力を借りようとしている。
なのに僕を少しでも休ませてあげようなんて、
嬉しいけれど、それはよくないもんね。 |
糸井 |
生き方がきれいにお化粧してますねぇ。 |
石田 |
でも、ときには面倒くさいと思うことは
ありません? |
大 |
母が病気で入院していて、
毎日4時間半しか眠れない日が
18週間続いたときがあったんです。
そういう状態でも何かをしながら
毎日パックはしてた。
連絡しなくちゃいけない電話があるとしたら、
かける前にパックを顔にぬっておく。
母のためのスープをつくる間にも、
パックはできるでしょ。 |
糸井 |
そうかそうか。 |
大 |
パックすると疲れた顔に見えないから、
母も安心なの。
一度だけ、パックしてたのに
「あなた、無理しなくていいのよ」
と言われたことがあって、「しまった!」。
その日は、頬紅をつけてなかったの(笑)。
母のお通夜の日は、さすがに不謹慎かと思って、
迷ったんです。
でも遺影見てたら、
「そんなこと考えないで早くしなさい」と
母に言われてる気がして、パックしましたよ。
よくみんな、「時間がないから」「忙しいから」を
言い訳にするけど、
そうやって放っておいて汚くなっていくのは、
ただの怠け者だと思う。 |
石田 |
時間じゃなく意志の問題……。 |
大 |
そうです。
やっぱりみんな、それぞれ旦那さんで苦労したり
親の介護で大変な思いしたりしてる。
でも、それがないみたいな顔ができてる人って、
自分にも手をかけている。
「この人、つらい人生だったのね」とか、
そういうふうに
女の人は思わせちゃだめだと思うの。
女の人には迷惑かもしれないけど、
女の人ってきれいな観音様みたいに
思いたがるところがあるんです、僕には。
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