糸井 もう、今日はどんどん聞きたいんですけど、
他には、どんなプロジェクトが?
西條 「重機免許の無料取得」とか‥‥。
糸井 重機。
西條 これも、おもしろい展開だったんですが‥‥
南三陸町で
個人避難宅の支援の方法を作った次の日、
陸前高田市でも、やろうと思ったんです。
糸井 ええ、ええ。
西條

でも、陸前高田は
地域のネットワークが強くて、
孤立している個人避難宅の支援というよりも
雇用創出のほうが重要だと。

でも、みんながそう言ってるわりには
具体的なプランがなかったんです。

糸井 ほう。
西條

ぼくは「重機の免許の無料取得」という
プロジェクトのプランを
すでに考えていたんで、説明したんです。

‥‥現地って、ガレキの山ですから。

糸井 それは‥‥すごくいい。
西條 避難所暮らしの人は、時間がありますから
いまのうちに
重機の免許を取ってもらう。

すると、町を作り直すときに
重機免許があれば、
自分たちの手で復興することができる。
糸井 うん、うん、うん。
西條 これってようするに、
「地元に住み続けることができる」んです。
糸井 一石何鳥だかわかりませんね。
西條

しかも、運のいいことに、
陸前高田には壊滅地域の少し上に
重機免許の取れる
自動車学校があったんですよ。

岩手県でも4つしかないんですけど、
そのうちのひとつが。

糸井 へーーーっ!
西條 で、「じゃあ、連れて行ってください」と
移動している10分ぐらいの間に、
高校の先輩から
電話がかかってきて、
ぼくらのプロジェクトのことを知った企業から
500万の支援金を送りたい、と。
糸井 ほう!
西條 とてもいいタイミングだったので
「陸前高田で重機免許のプロジェクトを
 やろうとしてるんですけど、
 そのお金、使わせてください!」
と、お願いして。
糸井 はー‥‥。
西條 自動車学校に着いたら、
社長さんに、すぐ、説明をしました。

そしたら、
月イチくらいしかなかった重機の授業を、
フル回転で
やってくださることになりました。

数時間で、ぜんぶ決まっちゃったんです。
糸井 ‥‥すごいなぁ。
西條

決定権のある人と人がつながったときの
スピードというのはすごいものがあります。

合議の何十倍もはやいので、
有事では、こっちの方が機能しますね。


で、重機免許って「3万円」といった金額で、
数日あれば取得できるんですよ。

糸井 そうなんですか!
西條 生活費ならすぐになくなっちゃいますが、
同じ3万円でも、重機免許を取れば
年収300万円稼ぐことだって、できるわけです。
糸井 つまり、自立につながる。
西條 これも、モデルケースができあがったら
あとは
みんながマネしてくれればいいんですよ。
糸井 そこでも「方法をつくる」という
西條さんのやり方が、ベースなんですね。
西條 さらに「職業訓練校」の制度も、
導入することになったんです。
糸井 ほう、ほう。
西條 2008年のリーマンショックのときに
できた制度なんですが、
職業訓練生は10万円、もらえるんです。
糸井 なるほど。
西條

これ、極端な話、
避難所に職業訓練校を作っちゃったら?

みんなが、10万円もらえますよね。
避難しながら、スキルアップもできる。

ただ、何となく暮らしているよりも
生活に張りが出てくると思うんです。

糸井 そうでしょう、そうでしょう。
西條 あるいは
「ボランティア訓練校」みたいなのを
作っちゃえば、
ボランティア活動をしてる人も、
10万円、もらえる。
糸井 だって、そこに「訓練校」があるんだもんね。
西條

前年度年収が
300万円の以上の人は
受けられないなどの規定があるんですが、

被災地は特区とするとか、
罹災証明書を提示すればいいとか、
方策はあります。

柿沢未途議員や、
小泉龍司議員などが動いてくださっていますが、
志ある政治家のみなさんには
ぜひ、動いていただきたいですね。

糸井 うん、うん。
西條

で、さっきの重機免許の取得プロジェクトと
連動させることで
支援金も工面できるようになるんですよ。
訓練校の制度のほうから。

それで8月から
「震災対策特別訓練コース」の開校が
決まったんです。

糸井 ‥‥そういうアイデアって、
西條さんが、一人で考えてるんですか?
西條 ほとんどがそうですが、
この訓練校のアイデアについて言えば
加藤さんというですね、
岩手出身で
福島在住の方が原型を考えていて、
この重機免許プロジェクトに
重ねていったんです。
糸井 その加藤さんは、
そもそも、
そういう関係の人だったんですか?
西條

よくわからないんですが(笑)、
プロジェクトの宮城支部を立ち上げたとき、
ふらっとやって来たんです。

で、お話をしてみたら、
すごくおもしろい発想をお持ちの方で。
それなら、ぜひやりましょうと。

他にも、
レンタカー会社で余っている車を活用して
自宅避難宅エリア10宅ぐらいで、
「カーシェアリング」するプロジェクトも
考えています。

実際、被災地は、車がないために
買い物にも行けなくて困っている人も
たくさんいるので。

糸井 いいですね。
西條

あと、
「船を集めて
 漁師さんに送ろうプロジェクト」。


漁師さんって
いくつか船を持っているので
余っている船って
全国にけっこうあるんですよ。


要らない船を集めてマッチングしたら
輸送が難しい場合、
被災地の漁師さんに行ってもらって、
船に乗って帰ってきてもらう(笑)。

糸井 今日、ずっと西條さんのお話を聞いていて
何がおもしろいって
ぜんぶ、実現できそうなアイデアなんです。

あ、それはいい考えだけどね‥‥みたいな
「特別賞」じゃなくて、
金賞、銀賞のアイディアが出てくるんです。

そのリアリティに、感動しますね。
西條 実現可能性のないものは
「方法」として意味がありませんから。
糸井 そうですよね。
西條 目的を達成する手段が「方法」ですから
目的を達成できなかったら、
どんなにきれいでも、
それは、まったく意味をなさないんです。
糸井 それだけうまく回るんだったら
たとえば
「そういうことを考える会社です」
みたいになっても
おかしくはないと思うんですけど‥‥。
西條

できなくはないと思うのですが、
ぼくらのプロジェクトは
「団体」ではないので。


それぞれのプロジェクトが、
あるていど軌道に乗ってきたら、
国の基金を使って事業化して、
被災地に渡して
地元の人たちの仕事にしてもらうのは
よいかなと。

糸井 なるほど。

‥‥西條さんたちのプロジェクトは
ある種の芸術活動だと思えばいいのかなぁ?
西條 ぼくは「市民意志機能」と言ってます。

市民の意志機能体なんです。

つまり「機能しさえすればいい」んです。
被災者支援、被災地の復興のために。
糸井 パワー、つまり権力を増やすことに
頼らずに
機能するところが、新しいですよね。

つまり、まず県会議員になって‥‥
というような、古いやり方じゃない。
西條 いままでのパワー理論は
上が下を統率するという構造でしたけど
ぼくらは、横のラインで動いてるんです。

ぼくなんか、ただの一教員に過ぎないのに
これまでであれば
国がやるような大規模なプロジェクトを
動かすことになってます。

それも、一銭ももらえないのに、
みんなが、
何とかしたいという気持ちで、動いている。
糸井 その気持ちが、エネルギーですね。
西條 そもそも「エネルギー」の定義は、
「物事を動かす源」ってことですから
モノである必要も、お金である必要も
じつは、ないんですよね。
糸井 なるほど。
西條 被災地を何とかしたいという思いこそが
とても、重要だと思います。
糸井 その思いは、冷ましちゃいけないね。
西條 そうですね。
どんどん実現できてる確信もあるし。
糸井 実現できていくと、
どんどん、おもしろくなるでしょう。
西條 はい。
やっぱり「がんばり」だけでは、無理です。

「これならいけるぞ」という勝算や
希望がなければ‥‥やはり。
糸井 成功すると、愉快になってくる。
で、愉快性がないと、続きませんよね。
西條 つい先日、ぼくの師匠である
池田清彦先生も、同じことおっしゃってました。

大変な日々の中でも「楽しみ」のようなものを
見出すのが大事なことだよって。
糸井 うん、うん。
西條 プロジェクトの運営は
フェイスブックを中心に行っていて、
これが、ぼくらのような
動きながら拡張する運動体に、ぴったりなんですね。

だからホームページから登録してもらったら、
必ずフェイスブックのグループ
参加してもらっているんです。

で、たまにスタッフがやってる
「ふんばろう」のフェイスブックのページを
見に行くと、
みんな、真剣ながらも
何か楽しそうにやってるんですよね、
和気あいあいと。
糸井 それを見て
「大丈夫だな」って思えたでしょう?
西條 はい、これなら続けられると思いました。
悲壮感とか切迫感だけでは、続けられないです。
糸井 これまで「運動」というものは
脅迫的に、脅すようにして始めることが
すごく多かったですよね。
西條 ええ。
糸井 でも、西條さんたちのプロジェクトのように
自分たちもやりたかったことを
いいかたちで
実現させていってるのを見るのは、
うれしいし、楽しいですよ。
西條 そうですね、おかげさまで
いろいろ、うまく回っていると思うんですが、
あとひとつ、大事なのが‥‥。
糸井 家?
西條 そう、住居の問題があるんです。

<つづきます>

2011-06-23-THU