糸井 住居の問題は、大きいですよね。
だって流されちゃったんだから。
西條 ええ、それについてもプランがあって。
糸井 ぜひ、聞かせてください。
西條 原型は
初めて南三陸町に入ったその日に、
できたんですけど‥‥。
糸井 そんなに早いタイミングで?
西條 まず、現地の人たちの生活って、
やはり景気が悪かったんです、もともと。
糸井 ええ。
西條 津波でやられた地域は
とりわけ良くなかったんですけれども、
そこが壊滅させられたんです。
糸井 うん、うん。
西條 でも、不景気なのに
どうして生活してこれたかというと、
「持ち家」だったから。
糸井 なるほど‥‥。
西條 家があったから、年金だけでも生きていける。
家賃を取られたら、
多くの人は、生きていけないです。
糸井 そうでしょうね。
西條 でも、その「家」が
今回の津波で、やられてしまったがために
彼らの不安というのは、
ものすごく、大きいんですよ。
糸井 どうやって生きていけばいいのか、と。
西條

そして、南三陸町をはじめ
被災地の海岸線100キロくらいを
見ていて思ったのは、
「津波は止められない」ということです。


防波堤自体が破壊されてますから、
「防御」の発想では、もう無理だろうと。


それに「必ず想定外の高さの津波がくる」
ということも
「想定」しておかなければならない。

糸井 なるほど、はい。
西條

海岸線をずっとみていて思ったのは
津波は、海岸からの距離ではなく
「高さ」がすべてなんです。


津波の届いたところは壊滅、
届かないところは、まったく無傷で
天国と地獄のように分かれている。


であるならば、
たとえば仙台平野みたいな場所だったら、
平城みたいに定間隔に
土塁を組んで、そこに鉄筋を打って‥‥。

糸井 うん。
西條 津波が届かないようにして
さらに
万が一それを超えてきても
大丈夫なように
その上に、
流線型の建物を、海に向けて建てる。
糸井 流線型?
西條 そうです、船のようなかたちの、
流線型の建物です。
糸井 つまり‥‥。
西條 津波を「いなす」んです。
糸井 はぁー‥‥。
西條 津波って、すごいパワーですけれども
所詮は「水」ですから、
うまくエネルギーを分散させられるような
流線型に設計してやれば、
そんなに酷くは、やられないはずなんです。

で、そういう建物を定間隔に建てるんです、
一箇所に集めずに。

で、緊急時には、
いちばん近いところに逃げ込むようにする。
糸井 それって、公共の施設を想定してます?
西條 マンションです、居住用の。
糸井 ああ‥‥。
西條 つまり、みんなが「一戸建て」だったから、
全滅しちゃったんです。

鉄筋コンクリート製のマンションなら
あるていど、残る場合が多いんです。
糸井 うん、そうですね。
西條 オーシャンビューみたいなデザインだと
やられてしまうんです、津波に。
糸井 そうかぁ、これまでの価値観は
どれだけ海に面してるか‥‥だったもんなぁ。
それは災害用の価値観じゃない。
西條 たとえば、自治体によっては
海岸に住めない法律を
作ろうとしてたりするんですけど、
それは、ちがうと思う。

やっぱりみんな、住みたいんです。

安全性を考えてのことですけど
「住んでいた場所にもういちど住みたい」
という人の気持ちを、
後回しにしちゃってるんですね。
糸井 住みたい、住みたくないについては
地域ごとに
バラつきがあったりするんじゃないですか?
西條 安全が確保できれば、みんな住みたいはず。
糸井 なるほど。
西條 ですから、
津波が来るということを前提として、
それでも安全な都市設計を
考え出さなければ、ならないんです。

海岸に住ませない‥‥というのは
観念論というか、
現実の人間の心というものを
まったく無視した政策なんですよね。
糸井 うん、なるほど。
西條

「もう故郷に住むことができない」と
希望を失った人の中には
失意のあまり
自殺される人も出てくるかもしれない。


また、人間は必ず
便利なところに降りていきます。

海岸で働く人はどうするのかとか
工場はどうするのかとか、あるわけです。

糸井 たしかに、そうですね。
西條 リアス式のところなら、
高台を削って、その上に建てるマンションと
組み合わせればよいと思います。

で、このプランのいいところは
ガレキを全部、
除去する必要がないんです。
糸井 つまり‥‥。
西條 マンションを立てる部分のガレキだけ、
ピンポイントで除去すればいい。

で、マンションを立てながら
残りの都市建設プラス
ガレキの除去を、同時に進めればいいんです。
糸井 ‥‥そっか。
西條 一軒一軒の家に数百万円を渡して
建てていくよりも
圧倒的に早いし、安いはずです。

だから国は設計プランを描いて、
地元の建築業者や
ゼネコンとかに任せればいいんですよ。
糸井 ‥‥そのアイディアは
南三陸町に入って、最初に思ったんだ。
西條 当日帰ってすぐ書いた「南三陸町レポート」
書いています。
これならいけるだろうと。
糸井 ‥‥すごいね。
西條 そういう「津波防災都市」が実現すれば、
世界の防災都市計画のモデルになるはず。
糸井 世界初だもんね。
西條 ええ。
糸井 なるほど、どこかで「復興」のイメージを
「ふるさとの田舎の風景」へのノスタルジーと、
ごっちゃにしちゃってるけど、
この場合、
「都市に似た田舎」が作られていいんだ。
西條 陸前高田市で、津波主被害地で初めての
フォーラムを開いたんですね。

みんな、
この土地に住めなくなるんじゃないかとか、
人がいなくなるんじゃないかといった
悲愴な感じだったんです。

でも僕が最後に、
この津波防災都市のビジョンを話したら、
唯一、歓声が上がったんですよ。

それはいけるぞ、 みたいな感じで。
糸井 へぇー、直感だ。住んでる人の。
西條 だからこのプランは、国が言うべきなんです。

こういうことをやりますから、
住まいのことは心配しなくてもいい、
家賃もかかりません。
もう一度、故郷に安全に住めますよ、と。

そんなふうに言われたら
「よし、生きていけるぞ」と思えますから。
糸井 ものすごく、リアリティがあるなぁ。
西條 そういう都市構想の計画のもとで
さっきの「重機免許の取得プロジェクト」と
「職業訓練校」を通して
フォークリフトを運転できるようになれば、
きちんと、仕事に就くこともできます。
糸井 見事につながっていきますね。
西條

今こそ、
「希望」となるビジョンが必要なんです。


これは誰が実現してもいいことで
今後、メディアに出る機会も
増えていくと思うので、
広く伝えていきたいです。

糸井 ただ、このプロジェクトは、
他と比べると
かなり大きな力が必要になりますね。
西條 ぼくらの力だけでは無理です。
実現するには国に動いてもらうしかない。

「ふんばろう」のプロジェクト全体は
そのための橋渡しでもあるんです。

つまり、
どんどん成功事例をつくっていければ‥‥。
糸井 しかも、実現できたら、
具体的な仕事がたくさん生まれますよね。
そこはボランティアじゃないし。
西條 はい、それに十分に実現可能なプランです。

たとえば、陸前高田市のような、
人口2万人の規模の都市なら
1000人入居できるマンションを
20棟作れば、済みます。
糸井 うん、うん。
西條 安全のため、
1階2階は商業区みたいにしてしまえば、
人の行き来も活発になるし、
経済的にも、いいことがあると思います。
糸井 つまり無数の駅ビルを作るプラン、だね。
西條 あ、そういうことです、宇宙戦艦ヤマト型の。
糸井 うん、うん(笑)。
西條 観光地としても
世界中から人を集められるかも知れない。
これが津波防災都市かぁ‥‥って。
糸井 これ、聞く人が聞いたら
ホラに聞こえるかもしれないけど
ぜんぶ「やりたいこと」で
しかも「やれること」ですもんね。
西條

はい、あとは、やるかどうかだけです。


建築業者でも、政治家でも、
自治体でもいいので、
とにかく「これはいける」と思ったかたは、
動いていただきたいですね。

糸井 えーと、我こそはという人がいたら
「ふんばろう」のホームページから
連絡すればいいんですかね。
西條

はい。周知、ありがとうございます。

<つづきます>

2011-06-24-FRI