糸井 | すごくおもしろい人というのは事実なんだけど、 吉本さんが冗談を言ったところは見たことないなぁ。 |
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ハルノ | 冗談は言わなかったです。 |
糸井 | ひとつも言ってないかもしれない。 ダジャレぐらいはあるかも‥‥ないかなぁ。 |
ハルノ | ないですね。 いわゆるおやじギャグは聞いたことがない。 |
糸井 | うん、ないですね。 人が言った冗談を、肯定でも否定でもなく、 「ああ、そうそう、そうですねぇ」 と言ってただけ(笑)。 だけど、冗談ともつかないことを言わないわけじゃない。 ぼくはなにかの話の流れで‥‥たしか 同窓会で会った友達が藤あや子さんのファンで、 という話だったと思うんですが、 「糸井さんとか、どうなんでしょうか、 藤あや子さんは」と、 なぜか吉本さんにけしかけられたことがありますよ。 |
ハルノ | お父ちゃん、藤あや子さんが好きだったんじゃないかな。 |
おそらく15年くらい前の吉本隆明さん。 藤あや子さんのことをこの頃に言っていたのかどうかはわからない。 |
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糸井 | お父ちゃんが好きだったんですか。じゃあ‥‥。 |
ハルノ | 色白美人で誰を思い浮かべるかといえば 藤あや子さんだったと思います。 |
糸井 | 吉本さん‥‥人のせいにして。 |
ハルノ | はははは。 |
糸井 | じゃあ、ぼくは分身として 攻めるべきだったのかもしれませんね。 かたや、少食のお母ちゃんが家にはいて。 |
ハルノ | 絶対君主的に君臨していました。 |
糸井 | お母さんは、ぼくが見てるところでは、 「そうかしらね」とか言って、 食べてみせたりしてました。 あれは「食べる芸」を見せてたんでしょうか。 |
ハルノ | そうでしょうね。 母はほんとうに単純な、 素材そのものの味がする食べものじゃないとだめでした。 だから、父との差が(笑)大変でした。 母は、お刺身がふた切れと白いごはんとお味噌汁。 お肉も、いいヒレ肉の真ん中あたりをふた切れ。 それをお醤油かお塩で出します。 |
糸井 | 女王様だからねぇ。 |
ハルノ | 煮物も、お砂糖やみりんが入ってたら 昔は甘いと怒られました。 |
糸井 | お菓子も食べなかったんだよね。 |
ハルノ | お菓子、食べなかったです。 歳とって若干壊れてきてから、 みたらし団子とか、少しは食べてくれるようになった。 |
糸井 | 一方、お父さんはどんどん油ものに行かれましたね。 |
ハルノ | 父は油もの、甘いもの、すごかった。 巣鴨の伊勢屋の塩大福が大好きでしたが、 亡くなる前の年あたりから、ひとつまるごとは 食べられなくなってきて、そのときは 「ああー」と思いました。 |
糸井 | さわちゃん(=ハルノさんのこと)は、 食の好みはあったの? |
ハルノ | うーん‥‥うちの母が料理をつくってた頃は やっぱり、食べることがつまらなかったです。 干物、ほうれん草、ごはん。 ほうれん草には、出汁はかかってなくて、 かつお節乗せてお醤油かけるだけ、とかね。 毎回ほんとにシンプルだったんで、 「食事は時間が来たら食べるもの」 って思ってた。 |
糸井 | 宿屋の朝ごはんみたいな感じだね。 |
ハルノ | だけど、我が家は外食が多かったんですよ。 私は外食が好きでした。 一家でしょっちゅう出歩いてましたよ。 チキンライス食べたり、浅草のセキネの肉まん‥‥。 |
糸井 | そのときは、お母さんは食べてたの? |
ハルノ | なにを食べてたんだろう? いま考えてたけど、全然わかんないですね。 |
糸井 | なにがあの人をつくってたんでしょうねぇ。 |
ハルノ | (笑)うーん、 ご本人はおそらく戦争時代のことを言うでしょうね。 とうもろこしの粉なんて食べられたもんじゃない、 いくら配給が来ても嫌だったと言ってました。 大人たちが食べものを隠し持って、 「あの人はじつは缶詰を持ってる」とか そういうことを見聞きして、その醜さが嫌で 食べ物が嫌いになったと言ってて‥‥。 その後結核になって療養所へ入っちゃって、 バターをひとかたまり食べさせられたりして 「食べろ食べろ」言われたことが 本人を食から離すことに拍車をかけた。 以上は母本人の分析です。 父はそうじゃなくて、ご存知の家族論の、 「幼少期の母親のおっぱいと関係してる」と 主張してました。 不安定な心でおばあちゃんがお母ちゃんに おっぱいあげてたことが原因だ、って。 |
糸井 | ああー‥‥、両方が自説をね。 |
ハルノ | 自説を述べられて。 |
糸井 | どっちがほんとうなのか知らないけど、 お母さんのほうは、 「私は歴史に翻弄された子女です」と。 |
ハルノ | 父とまったくかみあわない。 |
糸井 | ゆずらない。 お互い、そこまで固まった人たちは あんまりいないですからねぇ。 |
ハルノ | いないねぇ。 | (つづきます) 2013-05-15-WED 画:ハルノ宵子 |