第6回 だめ具合を見せたふたり。

糸井 お母さんの毎日のたのしみは何だったんでしょうか。
ハルノ やっぱり、一杯やること。
酒タバコはすごく好きでした。
糸井 だらだらとお酒飲んだりしてるの、大好きでしたよね。
ハルノ ひどい時期は、俳句をつくりながら、
だらだらと、陽があがるまで、飲んでました。
糸井 さわちゃん(=ハルノさんのこと)、
相手してたんでしょ?
ハルノ いちおう相手してたけど、
せいぜい朝の5時ぐらいに寝てました。
で、トイレかなんかで起きたとき、
母は8時頃でも、やってるんですよ。
糸井 !!
夢の国の人みたいだね。
ハルノ 死ぬ前日も、
寝る前の睡眠薬は、酒で飲み下してた。
水割りの焼酎(笑)。
「お母ちゃん」の遺影。
葬儀もこの写真が祭壇に置かれた。
糸井 それ、男だったら、荒れた‥‥
ハルノ ええ、そうですね。
糸井 飲んだくれの荒くれ者だよねぇ。
いやぁ、あの、どっちにもだけど、
そのまま似るはずがないですね。
ハルノ ないですね。
両方とも破滅的すぎる(笑)。
糸井 吉本さんのほうも、やっぱりおかしい‥‥
ハルノ おかしいですよ。
ふたりともいないから、好き勝手言ってるけど(笑)。
糸井 吉本さんは、体が不自由なのに
自転車で全速力でこいで出かけて
「転んだら止まるから大丈夫」って言ってた。
それ、おかしいでしょ。
ハルノ 結局、子どもらに助け起こされてました。
糸井 そうそう、女子高生に助けられて。
ハルノ あれ、ほんとうに危険でした。
糸井 吉本さんはその調子で生きてましたからねぇ。
ものすごく、精神の勝った人です。
ハルノ うん、そうですね。
糸井 吉本さんのような「精神の勝った人」が
からだからやってくる考えがあると知ったときには
ものすごくうっとりしたでしょうね。
ハルノ そうですね。うっとりして、
今度はそればっかり考えるように‥‥。
糸井 吉本家は、お父さんもお母さんも
だめなバランスがみごとに取れています。
親って、だめなところを見せるチャンスは
そうそうないから、いいと思います。
ハルノ ええ。うちの親は、
だめ具合を、よく見せてくれてました。
糸井 べつに「笑い」にもなってないし(笑)。
2010年の吉本隆明さん。
猫のシロミちゃんは、吉本さんがいなくなってしばらくは
さみしそうにうろうろしていました(いまは元気)。
ハルノ この『dancyu』の原稿を書くのだって
最後はとてもたいへんで、
「クーラーが故障して書けない」なんていう
言いわけをしてましたよ。
「工事に来てもらうまではちょっと無理」
なんて言ってて、それは困ると編集部の方が言うと
「じゃあ、明日までに書く」
糸井 クーラー全然関係ない。
ハルノ 原稿を受け取る人が
手みやげに塩大福を持ってきてくれて、
渡す原稿はないのに
「じゃあ、それだけいただきます」
糸井 大福はその日が賞味期限だからね。
吉本さんの最後のほうの仕事は
ほとんどが聞き書きで、
自分で書いてたのはあの原稿一本だけだもん。
よくつづくなぁ、と思ってました。
難しいことだけど‥‥年とると、きっと
孤独感は強くなって閉じていくから。
ハルノ どんどん感覚が閉じられていきました。
だけど、こればっかりはこっちが
どうしてもあげられないからねぇ。
糸井 見えなくって、歩けなくって、元気でいろ、って
難しいです。
吉本さんは、最後はもうご自身の感覚だけで、
いわば思考の中で、
行き来していたような感じはありました。
どんどん体がダメになってって
たのしいことが減って生きる、というのは、
ぼくは正直、ちょっとつらいところがあります。
ハルノ うーん‥‥でも、
それが父らしいのかもしれない。
糸井 そうなんだよ。
吉本さんは、それを自分で選んでいるところがある。
ハルノ そうですよね。
私はつくづくね、
人間は生きたなりに死ぬなぁ、と思いますよ、
母を見てても(笑)。
糸井 俺は最後はニッコニコして死にたいな。
ハルノ 糸井さんらしくていいと思う(笑)。
糸井 今日はたのしかったです、どうもありがとう。
ハルノ こちらこそ。また家に遊びにきてください。
  (おしまい)

今日で、ハルノ宵子さんと糸井重里の対談は
おしまいです。
もしよろしければ、感想などを
postman@1101.comまでお寄せください。
ご愛読ありがとうございました。

2013-05-16-THU

画:ハルノ宵子