糸井 | お母さんの毎日のたのしみは何だったんでしょうか。 |
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ハルノ | やっぱり、一杯やること。 酒タバコはすごく好きでした。 |
糸井 | だらだらとお酒飲んだりしてるの、大好きでしたよね。 |
ハルノ | ひどい時期は、俳句をつくりながら、 だらだらと、陽があがるまで、飲んでました。 |
糸井 | さわちゃん(=ハルノさんのこと)、 相手してたんでしょ? |
ハルノ | いちおう相手してたけど、 せいぜい朝の5時ぐらいに寝てました。 で、トイレかなんかで起きたとき、 母は8時頃でも、やってるんですよ。 |
糸井 | !! 夢の国の人みたいだね。 |
ハルノ | 死ぬ前日も、 寝る前の睡眠薬は、酒で飲み下してた。 水割りの焼酎(笑)。 |
「お母ちゃん」の遺影。 葬儀もこの写真が祭壇に置かれた。 |
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糸井 | それ、男だったら、荒れた‥‥ |
ハルノ | ええ、そうですね。 |
糸井 | 飲んだくれの荒くれ者だよねぇ。 いやぁ、あの、どっちにもだけど、 そのまま似るはずがないですね。 |
ハルノ | ないですね。 両方とも破滅的すぎる(笑)。 |
糸井 | 吉本さんのほうも、やっぱりおかしい‥‥ |
ハルノ | おかしいですよ。 ふたりともいないから、好き勝手言ってるけど(笑)。 |
糸井 | 吉本さんは、体が不自由なのに 自転車で全速力でこいで出かけて 「転んだら止まるから大丈夫」って言ってた。 それ、おかしいでしょ。 |
ハルノ | 結局、子どもらに助け起こされてました。 |
糸井 | そうそう、女子高生に助けられて。 |
ハルノ | あれ、ほんとうに危険でした。 |
糸井 | 吉本さんはその調子で生きてましたからねぇ。 ものすごく、精神の勝った人です。 |
ハルノ | うん、そうですね。 |
糸井 | 吉本さんのような「精神の勝った人」が からだからやってくる考えがあると知ったときには ものすごくうっとりしたでしょうね。 |
ハルノ | そうですね。うっとりして、 今度はそればっかり考えるように‥‥。 |
糸井 | 吉本家は、お父さんもお母さんも だめなバランスがみごとに取れています。 親って、だめなところを見せるチャンスは そうそうないから、いいと思います。 |
ハルノ | ええ。うちの親は、 だめ具合を、よく見せてくれてました。 |
糸井 | べつに「笑い」にもなってないし(笑)。 |
2010年の吉本隆明さん。 猫のシロミちゃんは、吉本さんがいなくなってしばらくは さみしそうにうろうろしていました(いまは元気)。 |
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ハルノ | この『dancyu』の原稿を書くのだって 最後はとてもたいへんで、 「クーラーが故障して書けない」なんていう 言いわけをしてましたよ。 「工事に来てもらうまではちょっと無理」 なんて言ってて、それは困ると編集部の方が言うと 「じゃあ、明日までに書く」 |
糸井 | クーラー全然関係ない。 |
ハルノ | 原稿を受け取る人が 手みやげに塩大福を持ってきてくれて、 渡す原稿はないのに 「じゃあ、それだけいただきます」 |
糸井 | 大福はその日が賞味期限だからね。 吉本さんの最後のほうの仕事は ほとんどが聞き書きで、 自分で書いてたのはあの原稿一本だけだもん。 よくつづくなぁ、と思ってました。 難しいことだけど‥‥年とると、きっと 孤独感は強くなって閉じていくから。 |
ハルノ | どんどん感覚が閉じられていきました。 だけど、こればっかりはこっちが どうしてもあげられないからねぇ。 |
糸井 | 見えなくって、歩けなくって、元気でいろ、って 難しいです。 吉本さんは、最後はもうご自身の感覚だけで、 いわば思考の中で、 行き来していたような感じはありました。 どんどん体がダメになってって たのしいことが減って生きる、というのは、 ぼくは正直、ちょっとつらいところがあります。 |
ハルノ | うーん‥‥でも、 それが父らしいのかもしれない。 |
糸井 | そうなんだよ。 吉本さんは、それを自分で選んでいるところがある。 |
ハルノ | そうですよね。 私はつくづくね、 人間は生きたなりに死ぬなぁ、と思いますよ、 母を見てても(笑)。 |
糸井 | 俺は最後はニッコニコして死にたいな。 |
ハルノ | 糸井さんらしくていいと思う(笑)。 |
糸井 | 今日はたのしかったです、どうもありがとう。 |
ハルノ | こちらこそ。また家に遊びにきてください。 |
(おしまい) 今日で、ハルノ宵子さんと糸井重里の対談は おしまいです。 もしよろしければ、感想などを postman@1101.comまでお寄せください。 ご愛読ありがとうございました。 2013-05-16-THU 画:ハルノ宵子 |