第6回 給食を測ろう。
糸井 | 内部被曝のデータを集めるために、 早野さんが「給食を測ろうよ」って提案したのは、 ぼくはやっぱりアイデアだと思うんです。 みんなが、内部被曝を気にしているのに データがないっていうとき、 「学校の給食を1食分ミキサーにかけて その放射線量を量って記録しよう」っていうのは、 ほかの誰も言ってなかったわけじゃないですか。 あの震災後のどうしようもない困難な状況でも、 アイデアというものが道を拓いていくんだなと ちょっと感動したのを覚えています。 |
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早野 | ありがとうございます。 ただ、全部がぼくのアイデアというわけではなくて、 「陰膳検査」というやり方自体は、 じつは1950年代からあったんです。 |
糸井 | あ、そうでしたか。それは知らなかった。 |
早野 | 陰膳検査というのは、 日本人の食生活を記録するための検査なんですが、 ひとつの都道府県で、何家族かを選んで 一食分、余計につくってもらうんです。 で、その一食を検査して毎年記録していく。 それを見ると、たとえば東京オリンピックの年には けっこう放射能で汚染されたものを 食べていたりするんです。 どうしてかなと思って調べてみると 大気圏内核実験の影響だったり。 |
糸井 | はー。そういう検査が昔から。 |
早野 | 1950年代の終わりくらいからあって、 ずっと毎年計測してきたんです。 ただ、それが震災の前に、 事業仕分けで止まってたんですね。 |
糸井 | ああ、そうなんだ。事業仕分けかぁ。 |
早野 | それで、震災のあと、その陰膳検査を 大々的に日本全国でやったらどうなるか、 ぼくは知りたいと思ったんです。 それと同じときに、たくさんの人たちが、 「子どもたちの食べものは大丈夫なのか?」 ということを知りたがっていた。 しかし、陰膳検査というのは、 対象となるサンプル数が決して多くはないので、 それをもって大勢の子どもたちの内部被曝が どうなのかということは、 なかなか断定しづらい。 そこで、給食がいいなと思ったんです。 小学生がみんな食べているわけですから、 地域の給食センターの一食分を測れば 大勢の子どもたちの食事を測ることになる。 これを、福島を中心にして、 あちこちでやれば実態がよくわかるなと。 |
糸井 | なるほど。 |
早野 | どうして自分がそんなふうに考えたかというと、 やっぱり、ふだんの研究のときから、 ぼくはコストパフォーマンスっていうのを すごく気にしているんですよ。 ぼくらがふだん使ってる研究費って みなさんの税金がもとになってたりするので、 そうなると、やっぱりいかに効率よく 予算をやりくりするかと考えてしまう。 給食の検査も、まずぼくは前提として、 「ゲルマニウム検出器」っていう、 いちばん精度の高い検出器で測ろう っていう提案をしてたんです。 ところがゲルマニウム検出器っていうのは 1台1千万円くらいするんです。 それで全国の食事を測るのは無理だよねと。 となると、いちばん効率がいいのは給食。 子どもたちの内部被曝の様子を 全国的なレベルで測定するとしたら、 それがもっとも早くて確実なやり方だと思って。 |
糸井 | じゃあ、やっぱり、たどり着いた考えなんですね。 「思いついたぞ」なんだ。 |
早野 | そうですね。 思いついたぞって。とにかくやろうよって。 それで、まずはツイートしてみました。 そしたら、けっこう反応がよかったんです。 で、7月ごろだったかな、 文科省の担当者の方に提案したんです。 そしたら、やりたくないって言われたんです。 「そんなもの測って、 もしもセシウムが出たらどうするんですか?」 って言われた。 |
糸井 | それはまた、いかにもお役人が言いそうな‥‥。 |
早野 | おっしゃるとおりです。 でも、本当にそう言われたんですよ。 |
糸井 | だって、早野さんは、 出たら出たでそういう事実が大事なんだ、 って考えて提案されてるわけでしょう? |
早野 | はい。 「そのために測るんでしょう?」と。 出たら、どうすればいいかという対策を、 はじめてきちんと考えられるわけで。 |
糸井 | うん。そこが道の分かれるところですよね。 |
早野 | とにかく測ってみないとわかんないですから。 正直言って、ぼくはその当時は、 ときどき出ても不思議ではないと思ってました。 ものすごく高い数値が 検出されるとは思ってませんでしたが、 まったく出ないということではないだろうと。 でも、とにかくそれがわからない状態で、 いつまでもみんなで不安だ不安だって 言ってもしょうがないから、 とにかく測ろうよっていうことを 提案したんですが、拒絶されたんですよ。 |
糸井 | それで、どうなさったんですか。 |
早野 | これは下から持ち上げていくんじゃ ダメだなと思いました。 いつも、いろんな提案をするときは、 現場から、下から提案して、 トップへ上げてもらって説得するんですけど、 この場合はむしろ上から攻めたほうがいいなと。 それで、当時の文科副大臣の 森裕子さんのところへ持って行くんです。 といっても、つてがあるわけでもないので、 彼女の事務所へ提案のFAXを送りました。 そしたら、来てくださいと言われて。 |
糸井 | 正面から突破したんですね。 |
早野 | はい。それで事務所へ行くことになったんですが、 その前に人々の反応を 確かめたほうがいいと思って ネット上で2日間、アンケートをとりました。 なぜかというと、この検査のやり方は、 必ずしも予防にならないんです。 つまり、子どもたちが食べたものと 同じものを調べるので、 もしもセシウムが検出されたとしても、 「昨日の給食にはセシウムが入ってました」 という形になってしまうんです。 |
糸井 | ああ、なるほど。 それを未然に防げるわけではない。 |
早野 | それでも、 私はこれをやることに意味があると思いますが、 みなさんはどう思いますか? っていうアンケートをとったんです。 そのほかにも、 給食からどのくらいの数値が検出されたら 学校給食を拒否したいかとか、 給食を食べているお子さんをお持ちか、 住んでいる県は、など、 簡単なプロフィールなども訊きました。 そしたら、2日間で7000件くらいの回答があって、 「測ったほうがいい」という方が 90パーセントを超えてたんですね。 もちろん、ネット上のみのアンケートですし、 偏りはありますが、 提案の材料にはなると思ったので、 それを持って副大臣のところへ行きました。 |
糸井 | それは、いつごろのことでした? |
早野 | 2011年の9月です。 最初に言いだしたのは6月ぐらいなんですけど、 文科省の下の役人さんたちと、 いろいろやってたりして、 ちょっと時間のロスがあったので、 きちんと提案できたのは 2011年の9月になってからです。 |
糸井 | ああ、そうでしたか。 想像よりずっと早かったです。 もっと後だったと思ってた。 |
早野 | 9月でした。副大臣に提案したところ、 国会でも質問が出るようになって、 最終的には2012年の 文科省の枠内で予算化されました。 また、そういった一連の動きというのは ずっとツイートしていましたから、 オープンになっていたんですね。 それもあってか、文科省の予算がつく前に 給食の検査をはじめられた教育委員会もあります。 いちばん最初にはじめたのは横須賀でしたが、 その後、横並びのようなかんじで 神奈川県内でも2011年の秋くらいから つぎつぎに給食の検査がスタートしました。 ただ、ぼくがもともと検査したかった 福島県内ではなかなかやってくれないんですよ。 |
糸井 | あー、知りたい人がいちばん多いはずなのに。 |
早野 | ええ。ぼくは、原発事故の影響を受けた 象徴的な場所として、 南相馬で検査したかったんです。 南相馬は事故のあった福島第一原発から 20キロちょっとしか離れてなくて、 計画的避難区域を含む町ですから。 それで、南相馬の櫻井(勝延)市長に、 経費はぼくが持つから測りましょうよ、 っていう提案のFAXをお送りしました。 それが2011年の10月です。 ところが、1ヵ月、返事がなかったんですよ。 |
糸井 | ほぅ。 |
早野 | それで11月に、たまたま別件で 南相馬の市役所に行くことがあったんで、 そのときに「私の提案、どうなってますか?」 って訊いたんです。そしたら、 市長は「知らない」とおっしゃるんです。 やっぱり、どこかで止まっていたようで。 で、もう一度、またFAXして、 あらためてOKをいただきまして、 2012年の1月から、私のポケットマネーで、 南相馬の小中学校、それから保育園の 給食の検査がはじまったんです。 |
糸井 | ほんとに、自腹で。 |
早野 | 基本的には。 ただ、そういった活動をツイートしたところ、 読んでくださっているみなさんが 「私もお金を出したい」って、 大勢手を挙げてくださったんです。 それで、東京大学基金というところに 特設ページがつくられまして、そこを通じて みなさんからのご寄付をいただけるようになりました。 それはありがたく内部被曝検査の様々な経費とか、 福島での活動の費用につかわせていただいています。 南相馬での給食検査にもつかわせていただきました。 (※2012年4月からは学校給食の検査には 文科省の予算が出るようになり、 2013年4月からは南相馬の幼稚園給食の検査には 南相馬市の予算がつかえるようになった) ちなみに、南相馬の給食を検査した結果ですが、 給食の食材のほとんどに 県外産のものをつかってましたから、 ほぼ数値は出ませんでした。 |
糸井 | いまはもう、測っても検出できないくらいだと うかがいました。 |
早野 | そうですね。 福島の給食はいまでもずっと測っています。 南相馬だけではなく、福島県内の26市町村で、 ゲルマニウム検出器をつかって測ってますが、 まぁ、1ベクレルくらい検出されることが 福島県全体で過去に10回ほどあったかな というくらいで、給食からはほとんど出てません。 |
糸井 | あの、なんといいますか、 早野さんのお話をうかがっていると、 すごいことをしているというよりも、 普通の人が、わいわいがやがやと やり取りしている感じがして、 おもしろいなぁと思うんです。 なんていうのかな、強い子や才能のある子が 隙もなくバリバリとやってるんじゃなくて、 ちょっと弱いところ、ぐちゃぐちゃしたところも きちんと混ざっているような気がして。 だから、いまの話も、総合すると、 「わかんないけど、 とにかくやってみたんだよ」と。 |
早野 | そうですね。やっちゃうんです。 |
糸井 | そのパターンですね。 思いついたら‥‥。 |
早野 | やっちゃうんです。 |
糸井 | 副大臣の話も、市長の話も、 あの手この手を考えているというよりも、 とにかく正面から。 |
早野 | やっちゃったんです。 とにかくFAXしちゃったんです。 で、結果的にはちゃんと届きましたから。 |
糸井 | そうですねぇ。 |
2013-06-24-MON