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糸井 |
反対みたいなことは、なかったんですか?
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今村 |
ありましたよ。
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糸井 |
そうですか。
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今村 |
誰だって「大丈夫か?」と思いますよね。
でも、やはり最後は
大分県と別府市から「来てほしい」と言われて
きちんと
バックアップしてくれたことが
大きかったです。
つまり「お金の心配」が、当座なかった。
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糸井 |
当座。
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今村 |
ええ、当座。
でも、大学ってできたらおしまいじゃなく
続けていかなきゃいけないわけでしょう。
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糸井 |
ええ、そうですね。
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今村 |
「続くのか?」という心配はありました。
だって、あの山の上ですから。
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糸井 |
ハラハラしますよ。
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今村 |
「いつまでも学生が通って来てくれるのか?」と。
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糸井 |
だってそもそも、
その学生に会ったことないんですもんね。
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今村 |
立命館大学と言えば、
まあ、日本では知られていますけど、
海外ではほとんど知名度がない。
しかも、開学前、
学生募集のために海外を回っているときは
まだできてないんです、建物が。
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糸井 |
ああー‥‥(笑)。
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今村 |
だから「工事現場の写真」と、
分譲マンションのパンフレットみたいなね、
「ハトが空を
自由に飛び回ってるような絵」を持って
「ここに大学ができるんです」と(笑)。
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糸井 |
信用しづらい(笑)。
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今村 |
詐欺じゃないかって言われたことも‥‥。
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糸井 |
ある?
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今村 |
ありますね。
だから、一期生で入学してくれた学生たちは
本当に「フロンティア」ですよ。
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糸井 |
そうかそうか、そうですよね。
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今村 |
まだ見たことも、聞いたこともない、
行ったこともない大学に‥‥。
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糸井 |
まだ「建ってもいない大学」に。
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今村 |
しかも、海外から来てくれたんですから。
大したもんです、本当に。
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糸井 |
それも、東京とか京都とかならまだしも、
その国の教科書には
きっと「別府」なんて載ってないですよ。
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今村 |
アフリカから来たある学生は、
本気で「騙された」と思ったらしいです。
だって、別府の街には
温泉がえりのじいちゃん、ばあちゃんが
洗面器を持って歩いているんですよ。
通学バスは
小高い山の上へ向かって登っていくし‥‥。
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糸井 |
うん、うん(笑)。
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今村 |
つまり、
「ケニアの都会っ子から見れば別府は田舎」
なんですよ。
東京の摩天楼をイメージして来たのに。
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糸井 |
はー‥‥。
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今村 |
だから「本当に、よく来てくれたな」と。
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糸井 |
でも、そういうふうに学生が来てくれる
前の段階で、
今村さんは「特命社員」みたいにして
別府に住むわけですよね。
「大学をつくるから、別府行ってくれ」
と言われて。
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今村 |
ええ。
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糸井 |
それも、ぼくは実際に見たんですけど、
「薬屋の2階」なんですよ。
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今村 |
はい、セスナ薬局という薬局の2階。
「セスナ機」が看板になっているんですが、
その2階に、
「大分別府事務所」をつくりました。
そこで、県庁や市役所の人たちと
毎日のように、ミーティングをしたんです。
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糸井 |
もう、いちいちおもしろいでしょ?(笑)
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今村 |
もう、やることが、山ほどありました。
学生は集めなければならない、
大学の建物は建設しなければならない、
制度も必要、
カリキュラムも必要、先生も必要‥‥。
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糸井 |
学生だけじゃなく、先生もいなかったんだ。
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今村 |
ええ。先生も公募したんです、世界中から。
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糸井 |
どうです、おもしろいでしょう?
先生も、学生もいなくて、建物もなくて、
温泉街の薬屋の2階だよ?(笑)
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今村 |
反対運動があったのも、無理もないかもしれません。
だって、学生の半分が留学生というのは
田舎の温泉街には、
なかなかのインパクトですから。
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糸井 |
いなかったわけですものね、そもそも。
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今村 |
未知の存在に対するアレルギーというか、
「治安が悪くなるんじゃないか」
とか、まあまあ、いろいろ言われまして。
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糸井 |
なるほど。
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今村 |
これはもう八方塞がりだなあって思うことも
しょっちゅうでしたが、
でも、味方になってくれる方々というのが
やはり、いるんですね。
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糸井 |
そうですか。現地のかたで?
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今村 |
はい。そういう方々のちからもお借りして、
徐々に徐々に、前へ進んでいったんです。
<つづきます> |