糸井 | 伊丹さんは、毎日、 機嫌のいい人だったんですか? |
玉置 | 機嫌ですか? |
糸井 | うん。 |
玉置 | 機嫌は‥‥難しいんじゃないですかね(笑)。 |
糸井 | 難しいですか(笑)。 |
玉置 | ただ、機嫌の悪い人でもないです。 とっつきにくいとか、 つねに眉間にシワを寄せているとか、 ムラがあるとかいうのは、誤解です。 映画監督って、現場では怖い人も多いですけど、 伊丹さんはそういうタイプではない。 まったく怒鳴りませんし、 映画のメイキングを観てもらったら よくわかると思いますけど、 基本的に淡々としてましたから。 まぁ、その、不機嫌になる瞬間は どうしてもありましたけどね。 |
糸井 | うんうんうん。 |
玉置 | でも、どっちかというと、 映画撮ってるときは、元気で明るくて、 みんなに檄をとばして 引っ張っていくという感じで。 |
糸井 | いろんな人からうかがった エピソードを積み上げていくと、 伊丹さんって、なんか、 いっつも「見えない戦い」を していたように感じるんですよ。 |
玉置 | そうですね。 それは、もう、ほんとにそうだと思います。 とくに、自分の知らないこととか、 まだ結論を出せずにいることに関しては もう、ひとりで、ずぅっと考え続けていました。 必要があればいろんな人に会いに行ったり、 取材のようなことをくり返したり、 自分なりの判断をくだすまでに すごく真剣で濃密な過程があるんです。 |
糸井 | なるほど。 |
玉置 | で、きちんとした裏づけを得て、 いったん自分で自信を持ったら、 そこはもうあとは、突っ切るっていう感じで。 だから、決して自分のアイディアを 根拠もなくごり押しするような タイプじゃないんです。 |
糸井 | ああ、なるほど。 見ていて上手だなぁと感じたのは、 誰かに何かの仕事を要求された場合には きっちりとそれをこなしていましたよね。 等価交換じゃないけれども、 「こういう役を頼むね」って言われたときに 「お返ししましょう」って役割を果たすような、 そういう仕事への覚悟を感じたんですよね。 |
玉置 | 借りはつくらない人ですからね。 |
糸井 | ああ、なるほどね。 多くの人が言っている 「伊丹さんはクールだ」っていうのは、 そういうことなのかもなぁ。 |
玉置 | だから、人にごちそうしてもらうよりは、 ごちそうする方が好き。 相手がお金持ちであろうが、関係なく。 |
糸井 | なるほど。借りはつくらないんですね。 「クール」っていうことばで くくられやすいんだけれど‥‥。 |
玉置 | いわゆる「クール」とはちょっと違う。 |
糸井 | うん。違いますね。 |
玉置 | そうなんですよ。 たんに冷たいとか、 醒めてるということではないと思うんですね。 |
糸井 | クールというよりは、 「借りをつくらない」。 |
玉置 | はい。 伊丹さんの場合はやっぱり、 お父さんが13歳のときに亡くなっていて、 人に甘えるっていうことが すごく苦手だったんだと思いますね。 それはもう、最後までね。 |
糸井 | それは、大きなポイントですよね。 |
玉置 | そう思います。 |
糸井 | しかし、うかがった話では、 玉置さんは伊丹さんの映画に お金を出すという立場だったわけですよね。 「借りをつくらない」伊丹さんにとって 玉置さんとの関係は特別だったんじゃないですか? |
玉置 | そうかもしれませんね。 伊丹さんの最初の映画である 『お葬式』のためにお金を出したんですが、 こちらとしては、当たるとは思ってませんから、 元が返ってくればいいというスタンスですよね。 で、映画の興行がはじまる前のことですが、 伊丹さんがぼくとふたりのときに 「玉置さん、あのお金は、 一生かかっても返すからね」って おっしゃったんです。 |
糸井 | はーーー。 |
玉置 | ご存じのように、 映画は大ヒットするわけですけど、 伊丹さんはそういうスタンスで、 「借りはつくらない」という 意識のままだったと思うんです。 |
糸井 | 一貫して。 |
玉置 | はい。 |
(続きます) |