伊丹さんは、機嫌のいい人だったんですか?

第5回 松山との関係。

糸井 玉置さんは、伊丹さんとは
どのくらい年齢差があるんですか。
玉置 伊丹さんとですか。
ええと‥‥16歳違いますね。
糸井 あ、そうですか。
じゃあ、伊丹さんが松山にいた十代のころに
知り合ってたとかでは、ぜんぜんないんですね。
玉置 まったく(笑)。
1978年に一六タルト(松山名産のお菓子)のCMを
伊丹さんにお願いしたときが最初の出会いです。
糸井 ぼくは勝手に、そうとう昔からの
お知り合いなんだろうと思ってました。
玉置 多いんですよ、そう思ってる人が(笑)。
ひどい人は同級生だって言ってたり。
糸井 同級生、ありえないですよね(笑)。
ちょっと謎だったんですよ。
じゃあ、それまでは‥‥。
玉置 簡単にご説明いたしますと
ぼくは、電通に5年間勤めて、1977年に辞めて、
故郷の松山に帰って、親が経営している
株式会社一六に入ったんです。
で、「一六タルトのCMをつくってくれ」
って言われまして。
糸井 電通にいたんだったら、と。
玉置 ええ(笑)。
それでまぁ、電通の松山支局に連絡して、
一六タルトの知名度はすでにある程度あるから、
イメージアップか、話題性か、どちらかのテーマで
つくってくれとお願いしたんですね。
すると、出演者の候補リストを出してきて、
その中に「伊丹十三」っていう名前があったんです。
伊丹さんは松山に縁もあるし、
出てくださったらいいなって思って、
電通時代の同期に
「伊丹さん、どう思う?」って相談したところ、
「伊丹さんは、自分でクリエイティブチームを
 持ってるから、代理店に頼まずに
 自由につくってもらったほうがいいよ」
ということだったんです。
それで、もう、直接、
マネージャーの方に連絡しまして、
こういう条件でお願いしますと言ったら、
「伊丹はいま子育て中だから難しいかもしれない」
というお返事だったんですね。
糸井 ああ、そういう時期があったんですよね。
玉置 ええ。
でも、しばらくしたら連絡があって
引き受けていただけることになって。
ちょうどそのとき、伊丹さんのお父さん、
伊丹万作さんの三十三回忌を
松山でやることになっていて、
伊丹さんもご夫婦で松山へ行く予定だから、
ちょっと運転手でもやってよ、って言われて。
糸井 へぇー(笑)。
玉置 それで、うちの親父の車を借りて、
運転手を2日か3日、やったのかな?
それがほんとに初対面でしたから。
糸井 そこから関係がはじまったんですか。
玉置 はい。
それがよかったんでしょうね。
たんにクライアントとして
お会いしたんじゃなかったから。
糸井 なるほどー。
それで、『13の顔を持つ男』にも入ってますけど、
松山弁が飛び交う、あのCMができた。
玉置 はい。万作さんの三十三回忌には
おじいちゃん、おばあちゃんがたくさん集まって、
それこそ松山弁が飛び交いましたから、
それがヒントになったのかもしれないです。
糸井 (笑)
玉置 で、CMがあの出来映えですから、
松山ですごく話題になったんですね。
それまでの伊丹十三っていうのは、
松山の人からすると、縁があるとはいえ、
ちょっと距離のある人だったんです。
糸井 なじみのない人。
玉置 そうです、そうです。
たぶん、伊丹さんにとって松山という土地も
さほど近い感じじゃなかったと思います。
それが、あの松山弁が飛び交うCMをつくって
伊丹さん自身も出演したことで、
関係がとっても近くなったんですね。
松山の人にとっても
「伊丹十三っていうのは、
 お高くとまってる人かと思ったら、
 松山弁もしゃべるし、なんかいいじゃない」
っていうことで、講演の依頼が殺到するんです。
で、伊丹さんはそのころ家にいて、
子育てを生活の中心に置いてましたから、
CMと講演で食べてるような時代だったんですね。
糸井 なるほど。時期がよかったんだ。
玉置 時期がよかったんです。
だから、ほんとに、何ヵ月かに1回、
松山に講演に来るというような状態で。
それで、講演に来るとなると、
ぼくが運転手で空港に迎えに行って、
夜はふたりで飲みに行くっていう。
糸井 ああ、そういうことだったんですか。
なるほどねぇー‥‥。
そういうふうに関係が深まっていったんですね。
いや、すごく納得がいきます。
だからこそ、「借りをつくらない」伊丹さんが
『お葬式』でいよいよ映画監督をやるぞというときに
映画の資金をお願いしたんでしょうね。
玉置 あのときは、伊丹さんと宮本信子さんが
おふたりでいっしょに松山に遊びに来て、
ぼくと3人で道後の旅館でご飯を食べたんです。
『お葬式』の脚本ができる半年前くらいでしたか‥‥。
ふたりで、どちらからともなく、
「そろそろ、映画をね‥‥」っておっしゃった。
糸井 はい。
(続きます)
前へ このコンテンツのトップへ 次へ
2009-07-10-FRI