糸井 | ずっと昔から 「お客さんがわからなかったものは 自分が間違ってる」 と考えていた宮本茂さんという人は つくり手の中でも珍しいタイプですよね。 |
Itoi | Mr.Miyamoto has been unique to think that "if the players don't understand it, their's fault in the design I made". Were there many designers who thought that way? | |
岩田 | 珍しかったと思います。 やはり、ゲームをつくる人というのは、 開発者の主観で考える人がほとんどですから。 |
Iwata | No, I think he was very unique. Often, people only look from the designer's point of view. | |
糸井 | そうだよね。 | Itoi | Must be so. | |
岩田 | 「オレは、これをいいと思う」って すべてのお客さんを代表するかのように、 思い込みで語るつくり手が多いんですよ。 本当は「お客さんがこう反応する」 っていう事実があって、 「それはなぜだろう?」 という仮説があって、そこではじめて 「じゃあ、どうすれば、 根っこの問題が解決できるだろう?」 って考えなきゃいけないのに、 「オレはこう思う!」という、 事実と仮説をぐちゃぐちゃに混ぜた意見を 押し通してしまうことが多いんですね。 |
Iwata | Many designers put their personal perspective into their design as if it represents everyone's opinion. In reality, based on the fact on how the player reacts, you should draw a hypothesis, and then you should figure out how to solve the problem from the root. But, people often mix the facts and presumptions, and push that mixed opinion through without solving the problem based on the fact. | |
糸井 | そうすると、「オレはこう思う」どうしを 会議でぶつけ合うだけになっちゃうんだよね。 |
Itoi | That just leads to throwing subjective opinions at each other in the development meetings, doesn't it? | |
岩田 | もちろん、それ自体が 完全に悪いというわけではないと思うんです。 だって、ものをつくることって、 ある意味、エゴの表現だと思うので。 ですから、宮本さんにしても、 そういう面がまったくないとは、 わたしは決して思わないです。 ものをつくる以上、わがままだったり、 エゴが強かったりするのは当然のことです。 ただ、宮本さんの特殊なところは 自分のこだわるところでは、 めちゃめちゃわがままである一方、 はじめてそれを触る人がどう感じるか、 ということをものすごく冷静に見ていて、 「お客さんに伝わっていない」とわかったら さっと引いて、別の考えをめぐらせるんです。 |
Iwata | Yes, although that's not totally useless. Creation always has an aspect of expressing one's ego. Mr.Miyamoto's no different. He does have that side in him. As long as you're creating something, you can't avoid being an egoist. What's special about Mr.Miyamoto is that he is unthinkably egocentric in one way, but he never loses an objective point of view. He's always alert about people's initial response to his creation. If he finds they don't get it, he simply drops it and looks for an alternative. |
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糸井 | つまり、宮本さんというのは 視点を動かすことに長けているんですね。 |
Itoi | He must be talented in shifting his viewpoint. | |
岩田 | そのとおりですね。 いままで近くで見てたのを、 突然ものすごく遠くから見てやり直すというか。 |
Iwata | Exactly. He can examine something very closely, and the next second he can switch to a macroscopic point of view, and make a fresh start from there. | |
糸井 | 虫メガネで見ていたかと思うと 地上一万メートルからもう一回見直してみたり。 |
Itoi | You think he's using a magnifying lens, but he may already be switching to a view from 10,000 meters high. | |
岩田 | そういうことを、ものすごく早くできる。 通常は、ひとつのものの見方をすると、 どんどん、そこから、 にじり寄るように近づいてしまって、 ものを見る角度が動かなくなる人の方が多いんです。 |
Iwata | He can do that instantly. It's often the case that when you examine something closely, you keep on getting closer to the subject but not alter your viewpoint. |
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糸井 | そうですね。 | Itoi | True. | |
岩田 | たぶん、宮本さんの言う 「一個のことで複数の問題を解決するアイデア」 というものは、近くから見れば見るほど わからなくなってしまうんです。 視点を動かさなければ 気づかないようなポイントだからこそ、 普通の人には思いつけない。 宮本さんは軽々と視点を動かせるから、 誰かが死にそうなときに 誰かが身代わりになるみたいな 単純な解決策ではないことを 導きだせるんでしょうね。 |
Iwata | I think the "idea which solves multiple issues at once" can't be found when you're looking at something real close. You need to be able to switch your point of view. That's not an easy thing to do. Mr.Miyamoto can do it easily. He's the type of person that can come up with a solution that can truly save someone when he/she's in danger, and not rescuing him/her at the cost of another. | |
糸井 | なるほどー。 さすが、「宮本ウォッチャー」を 自認するだけのことはありますね(笑)。 |
Itoi | I can see why you call yourself "the researcher of Miyamoto studies". (laugh) | |
岩田 | はい、わたしは世界一の 「宮本ウォッチャー」ですから(笑)。 |
Iwata | (laughing) Oh, yes, I'm the world's number one researcher of Miyamoto studies. |
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糸井 | 昔から言ってるよね(笑)。 | Itoi | You've been calling yourself that for quite a long time. (laugh) | |
岩田 | 宮本さん、いまごろくしゃみしてるかな。 | Iwata | He must be sneezing now. | |
糸井 | 宮本さんって、大学のときに インダストリアルデザインを専攻してましたよね。 それも、いまの宮本さんを語るうえで 大きなことだと思うんですが。 |
Itoi | Didn't Mr.Miyamoto major in industrial design in college? That's something significant that makes him who he is now, isn't it? | |
岩田 | そうですね、 ID(インダストリアルデザイン)、 工業デザインをやっていたというのは すごく大きな要素なんじゃないかと思います。 だから、自分の絵を描いて、 「オレの絵はうまいだろう」というんじゃなくて、 製品としてこれは使いやすいのかとか、 機能としてこれは目的を果たすのか、 みたいなことが彼の専門なんです。 |
Iwata | I think so. I think it's a huge factor that he used to study ID(Industrial Design). It's not about how artistic it is, it's all about how the product meets its objective. | |
糸井 | まさにそれが活かされてますよね。 | Itoi | He is really making use of what he studied. | |
岩田 | はい。 いまの宮本さんを知っていると、 宮本さんは偶然にIDを勉強したわけじゃなくて、 必然的にIDの道を選んだんじゃないかな とさえ思えます。 |
Iwata | Knowing Mr.Miyamoto as he is today, it seems to me that it sort of was inevitable that he studied ID, and not by coincidence. | |
糸井 | IDを勉強したうえでのロジックって、 いまも宮本さんの中に大きくありますよね。 人はこういうふうに考えるんだっていう 正解を選んでいく力というか。 |
Itoi | The logics he acquired through studying ID must make up a significant part of him, how he picks out the correct answers through people's responses. | |
岩田 | すごく大きいと思いますよ。 おそらく、世の中のほとんどの人は、 宮本さんのことを アートの人だと思ってるんですよ。 ひらめきを重視する、右脳型の天才肌で、 人が考えつかないようなことを、 神の啓示を受けるかのように つぎつぎと思いつく人だと思ってる。 |
Iwata | Definitely. The majority of people think he's the person of art, full of inspiration, with a natural talent coming up with ideas one after another, as if he was guided by God. |
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糸井 | ああ〜、違いますよね。 | Itoi | But that's not how it is, right? | |
岩田 | 違います。 宮本さんって、めちゃめちゃロジカルなんですよ。 かといってそれだけではない。 ものすごく左脳的な、理詰めの思考と、 美術系の道を目指した人ならではの、 ぶっ飛んだ、飛躍的な思想とが 両方、頭の中にあるんですよ。 あれは、悔しいけど、うらやましいですね。 |
Iwata | Not at all. He's extremely logical, but that's not all. He creates a mixture of left-prefrontal-oriented elaborate logic, and dramatic ideas that people are blown away by. To be honest, I have to say I envy this. |
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糸井 | 岩田さんは、いつも、そういうふうに 自分にそれがないという振りをして言うんだけど、 ぜんぜんない人がプログラムなんてできないって ぼくは思うんですよ。 |
Itoi | You always talk like you don't have that kind of mixture, but I think every programmer has that within himself. | |
岩田 | うーん‥‥ぜんぜんないとは言いませんけど。 でも、やっぱり糸井さんにお会いしたり、 宮本さんと仕事をしたりしてると、 右脳の働きの部分では 競争したくないなって思いますよ。 |
Iwata | Well, I don't say I lack it, but surely I wouldn't want to compete with right-prefontal-oriented people like you or Mr.Miyamoto on your grounds. | |
一同 | (笑) | All | (laugh) | |
糸井 | そうなんですか(笑)。 | Itoi | Really? (laugh) | |
岩田 | そこは分が悪いです(笑)。 苦手なことよりも 自分の得意なことで勝負していこう っていうのがわたしの基本的な考えですから。 |
Iwata | I know I only have a slim chance of winning. (laugh) I'd rather compete in my own field, than someone else's. |
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糸井 | それも昔から岩田さんが言ってることですね。 (続きます!) |
Itoi | That's another thing you've been saying for a long time. (Continued!) |
2007-09-04-TUE |