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糸井 | まえに岩田さんと話したときに、 「アイデアというのはなにか?」 という話をしたじゃないですか。 |
Itoi | Remember talking about the definition of "idea" before? | |
岩田 | 宮本(茂)さんのことばですね。 | Iwata | The words of Mr.(Shigeru) Miyamoto, right? | |
糸井 | そうです。つまり、宮本さんによれば、 「アイデアというのは 複数の問題を一気に解決するものである」 ということなんですが、 この話を事務所のみんなにしたところ、 ものすごく感心されまして。 せっかく岩田さんがいらっしゃってることだし、 あの宮本さんの発言の意図と、岩田さんの分析を くわしく聞かせてもらえたらなと思うんですが。 |
Itoi | He said that ideas are "something which solves multiple issues at once". This notion seemed eye-opening to my staffs. Can you explain us a bit more about the intention of his words, and your analysis of it? | |
岩田 | あれは、ゲームをつくってるときに、 宮本さんが言ったんですよ。 ですから、宮本さんは ゲームをつくるときのひとつの方法論として、 おっしゃってたんですけど、 わたしは、ゲームづくりに限らず 万能な考え方だと思うんですよね。 |
Iwata | Those words came out when we were designing a video game software. I think Mr.Miyamoto said it as an example of a method for designing video games. I actually perceive this as a very versatile concept, which can be applied to many aspects of life. | |
糸井 | そうですね。 | Itoi | Uh-huh. | |
岩田 | どんなものでもそうだと思うんですけど、 なにかをつくるときって、 「あちらを立てればこちらが立たず」 という問題がつねにあるわけです。 だから、なにかのことに対して、 「こうしたらよくできる」 「こうしたら悪くなる」 という選択があるわけですが、 現実になにか商品をつくるときには、 「ひとつだけ困ったことがある」という 恵まれた状態になることなんてまずなくて、 あちこちに困ったことがいくつもあるんです。 |
Iwata | There's always the dilemma of "damned if you do, damned if you don't" when creating something. There are options that improve the product, and there are also options that work the other way. The thing is that you barely have cases in which there exists only a single problem. You usually have problems occurring everywhere, lots of them. | |
糸井 | はい、はい。 | Itoi | Yes, yes. | |
岩田 | それは、商品だけじゃなくて、 組織もそうだし、対人関係もそうだし。 そういったことに対して、 「これは、こうだから、こうしたらいいんです」 って、ひとつだけ改善したとしても 全体を前進させることはできない。 ひとつ努力してよくしたとしても、 なんらかの副作用が出てきますし、 いままでうまくいってたことが うまくいかなくなったりもします。 だから、アイデアを出す会議などで、 「この問題をどうしよう?」 ということを話し合っているときに、 当然いろんな人がいろんなこと言うんですけど、 たいていそれは、ひとつの問題を解決するだけで、 ほかの問題を解決させるわけではない。 つまり、汗をかいた分しか前進しないんです。 |
Iwata | I'm not talking solely about designing a product. The same happens in organizations, or in personal relationships. Presenting a single antidote for a single problem doesn't get you anywhere. It always causes side effects. It sometimes even raises trouble to issues which were fine until then. People come up with many suggestions, but usually it only gives a solution to a single problem, and only that. A project doesn't advance much with a solution like that. | |
糸井 | もう、おっしゃるとおりですね。 | Itoi | I know what you mean. | |
岩田 | で、ゲームの話に戻っていうと、多くの場合、 おもしろさが足りなくて悩むわけです。 当然ネタがたくさん仕込まれてるほど、 おもしろいわけだし、人は満足してくれる。 でも一方で、つくるのに割り当てられる 人材の量や時間は有限です。 有限の中で「多いほどいい」って言われたって、 解決できないわけですよね。 でも、ときどき、たったひとつのことをすると、 あっちもよくなって、こっちもよくなって、 さらに予想もしなかった問題まで解決する、 というときがあるんですよ。 |
Iwata | Often times, the game not being entertaining enough are the problems you face when designing video games. The more ideas put in, the more fun it brings forth, and people enjoy the game more. However, the amount of time and human resources that can be put into creation is always limited. It's not realistic to simply propose "more" of something when you have limitations. Sometimes, one single idea solves one problem, then another, and even issues that were thought to be totally unrelated. | |
糸井 | はい、はい。 (周囲のスタッフに向かって) もう、おもしろいだろう? |
Itoi | That does happen sometimes. (to the staffs) Interesting, isn't it? | |
一同 | (笑) | All | (laugh) | |
岩田 | そういう「ひとつのこと」を、 宮本さんは「ないか、ないか」って いつも考えてるんです。 ものすごくしつこく、延々と。 昔、わたしが山梨に住んでたころ (岩田さんが以前社長を務めていた HAL研究所は山梨県にある)に、 突然、宮本さんが電話を かけてきたことがあるんですけど、 その第一声なんだと思います? 「わかったよ、岩田さん」って言うんですよ。 もちろん、わたしには なにがなんだかわからないんですけど(笑)。 |
Iwata | Mr.Miyamoto is constantly trying to find that kind of "idea". I mean, constantly. Persistently. One day he called me up suddenly, it was when I used to live in Yamanashi. (Mr.Iwata had been president of HAL Laboratory, Inc., which is located in Yamanashi Prefecture) Do you know what the first thing he said was?
"I got it!" (laughing) I had no idea what he was talking about. |
|
糸井 | (笑) | Itoi | (laugh) | |
岩田 | 宮本さんが「わかった」と言ったのは そのときにいっしょにつくっていたゲームの アイデアだったんですけど、まさに、 「このアイデアで、悩んでる問題が、 三つ四ついっぺんにきれいになる」 というものだったんですね。 |
Iwata | What he "got" was an idea for a game we were designing together. This idea was something that solved multiple issues, all at once. | |
糸井 | まさに、それが「アイデア」だと。 | Itoi | That's what he called an "idea". | |
岩田 | そうなんです。 ひとつ思いついたことによって、 これがうまくいく、あれもうまくいく‥‥。 それが「いいアイデア」であって、 そういうものを見つけることこそが、 全体を前進させ、ゴールへ近づけていく。 ディレクターと呼ばれる人の仕事は、 それを見つけることなんだって 宮本さんは考えているんですね。 |
Iwata | Exactly. One single inspiration that makes so many things work. That's what you call a "great idea", and finding that moves things forward, moves it towards the goal. Mr. Miyamoto thinks that it's the game director's task to find those "ideas". | |
糸井 | それは、宮本さんが そこまで整理して言ったわけじゃなくて、 宮本さんの仕事をずっと見ていた 岩田さんが感じ取ったことですよね。 |
Itoi | He didn't actually say this, right? You've picked this up working with him for a long time, observing his ways. | |
岩田 | そうですね。 宮本さんと仕事をしていると、 そういう「わかったよ」と言うことが たびたび、あるんです。 そういう事例を何度も見ているうちに、 どうも、この人の問題解決の方法というのは、 そういうことを重要視することによって 物事をゴールに導いてるんだなって、 わかってくるわけです。 |
Iwata | Yes. I've seen him "get it" many times. Through those instances, I've come to learn his emphasis on that method, and how he guides projects to goals using that method. | |
糸井 | おもしろいなぁ(笑)。 | Itoi | That's really interesting. (laugh) | |
岩田 | で、それを自分なりに受け止めると、 これは、まったくゲームに限った話じゃないぞと。 世の中、あちらを立てれば こちらが立たないことだらけです。 そういう状態を「トレードオフ」と呼ぶんですが、 世の中のあらゆる人たちは トレードオフの問題に直面しているんですね。 お金はたくさん使えた方がいい。 人がたくさんいた方がいい。 かける時間は長いほうがいいものができる。 そんなことはわかりきってますけど、 そのわかりきったことをしているうちは、 ほかの人と同じ方法で進んでいくだけですから 競争力がないんですよ。 |
Iwata | This really isn't limited to game design. The world is full of "damned if you do, damned if you don'ts". You call it "trade-off". Everyone is confronted with trade-offs. The more budget, the better. The more human resource, the better. The more time, the better. That's obvious. However, doing the obvious means doing the same thing with everyone else. That doesn't nurture competitiveness. | |
糸井 | 汗かき勝負になっちゃいますからね。 | Itoi | It becomes a matter of who does it more. | |
岩田 | はい。でも、これとこれを組み合わせると こういうことが起こるぞ、 っていうのを見つけたときは、 それがふつうの人が 気づいてない切り口であればあるほど、 価値が出てくる。 それで、宮本さんがなにかの会議で、 「そういうのをアイデアっていうんだよ」 って言ったのを聞いたときに、 これは、すごく適応範囲が広い考え方だから、 自分もそういう発想で物事を考えようと だんだん思うようになって、 この間、糸井さんとお話したときに そのときのことを話したんですけどね。 |
Iwata | But when you find a solution by combining issues, the more unique it is, the more value it brings. When Mr.Miyamoto said "that's what you call an idea", it came to me. It's such a concept that applies to various aspects of life, so I really wanted to incorporate it into my way of thinking. I remember talking about this the other time we met. | |
糸井 | 複数の問題を解決させるんじゃなくて、 一個だけ解決していいんだったら、 それは、簡単なんですよね。 |
Itoi | If you're looking for a solution that solves only a single issue, and not multiple issues, it's easy. | |
岩田 | 簡単です。 | Iwata | It really is. | |
糸井 | (隣の席の佐藤と向かいの席の永田を指しながら) つまり、佐藤くんの命が危ないというときにさ、 代わりに永田くんが死んじゃうような方法なら わりと簡単に思いつけるんですよ。 余裕のある企業や組織ほど、 そういう解決法を選んでしまってダメになるんです。 一個ずつは解決できるっていうときに、 しらみつぶしに解決しちゃうんですよ。 まず、佐藤くんを助けて、 「あ、永田くんが危ない」というので 今度は永田くんを助けてっていうふうに‥‥。 |
Itoi | (Pointing at Sato sitting next to him, and Nagata sitting across him)
See, if Sato's life is in danger, it's easy to find a way to save him at the cost of Nagata's life. The more leeway an enterprise or an organization has, the more they tend to choose such solutions. They solve issues one by one. First they save Sato, then they realize Nagata's in danger, so they choose to save Nagata, and on and on. |
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岩田 | 無限に手間とエネルギーをかけちゃうんです。 | Iwata | By putting in an endless amount of time and energy. | |
糸井 | そうなんですよね。 | Itoi | Exactly. | |
岩田 | 「多かったら少なくしよう」 「足りなかったら増やそう」というふうに、 いま起こってる事象をそのまま しらみつぶしに解決していくのは、 誰でもできることだし、工夫もいらない。 たとえば、ある料理店で、お客さんが 出てきた料理について「多い」と言ってる。 そのときに、「多い」と言ってる人は、 なぜ「多い」と言ってるのか。 その根っこにあるものは、 じつは「多い」ことが問題じゃなくて、 「まずい」ことが問題だったりするんです。 |
Iwata | Everyone can solve problems one by one. "If there's too much of something, just make it less", or the other way around. That's just responding to each issue. For example, if a customer complained at a restaurant that a dish is "too much", what is he/she really saying? Maybe the real problem may be how the dish tastes, and not the amount. | |
一同 | あーーー。 | All | Ah.... | |
岩田 | だから、本当はたいして多くもないのに、 「多い」って言われた問題だけを見て、 「まずい」ことに目を向けられなかったら、 量を少なくしたところで解決にはならないんです。 本当の問題が「まずい」ことだとしたら、 「まずい」ことを直さないと、 「多いから少なくしました」というのは、 一見解決してるようで、じつはなにも解決してない。 |
Iwata | If the chef only sees the amount of his dish as the problem, changing the amount doesn't solve anything. He has to be able to find the real issue and improve the taste to truly solve this problem. | |
糸井 | そのとおりですね。 | Itoi | That's true. | |
岩田 | 問題となっている事象の根源を辿っていくと、 いくつもの別の症状に見える問題が じつは根っこでつながってることがあったり、 ひとつを変えると、 一見つながりが見えなかった 別のところにも影響があって、 いろんな問題がいっしょになくなったりする。 そういうふうに、ひとつのアイデアが いろんな問題をいっぺんに解決して、 全体を一気に見渡せたそのときに、 宮本さんは「わかったよ」って、 人に電話をかけたくなるんでしょうね。 (続きます!) |
Iwata | When you dig deep down until you hit the root of the problem, you sometimes find that what seems to be isolated matters are actually connected. A single change can have impact on matters that were thought having no relation. Different problems can be solved at once. When a single idea solves various matters, those are the times when Mr.Miyamoto "get it", and calls you up all of a sudden. You have a much clearer vision when you "get it". (Continued!) |
2007-08-31-FRI |