糸井 | 苦手だと思っているけど 本当は得意になるかもしれないこと。 それを見極めるときに、 ヒントになることってなんでしょうね。 |
Itoi | What's something you keep in mind when you're trying to find a new potential in someone? | |
岩田 | 人って、あることを続けられるときと、 続けられずにやめちゃうときって あるじゃないですか。たとえば、 「英語くらいしゃべれた方がいいよな」って いままでまったく思ったことのない人って いないと思うんですよ。 |
Iwata | There are those things that you can continue doing, and those that you end up quitting. For example, I think everyone has tried to become fluent in English, at least once in their life. | |
糸井 | いいとこ、つくなあ(笑)。 | Itoi | Definitely. (laugh) | |
岩田 | だけど、非常に高い割合で挫折するんですよね。 | Iwata | But often times, you end up quitting. | |
糸井 | そうそう。 「もう、英語はいいわ!」ってね。 |
Itoi | It's like, "Heck with English!" | |
岩田 | そこに、「自分が得意かもしれないこと」を 見極めるヒントがあるように思うんですよ。 じつはこれは、ゲームを開発するときに 発見したことなんですけど。 ゲームって、すぐにやめちゃうゲームと 「なんかやっちゃうんだよね」 っていうゲームがあるんですよ。 同じように丁寧に仕上げたゲームでも、 本質的なおもしろさとは別の次元で、 続くゲームと続かないゲームがある。 このことと、 いろんな習慣が継続するかということは、 すごく似てるんですよ。 |
Iwata | I think there's an important point in this. It's something I've found out when designing video games. There are two types of games, those that you toss instantly, and those that you continue playing. It's not a matter of how fine the game is made, or the essential excitement of the game. In my opinion, this has something in common with whether or not you can continue a variety of other habits. | |
糸井 | ほう。 | Itoi | I'd love to hear more about this. | |
岩田 | 共通することがなにかというと、 人は、まずその対象に対して、 自分のエネルギーを注ぎ込むんですね。 時間だったり、労力だったり、お金だったり。 そして、注ぎ込んだら、注ぎ込んだ先から、 なにかしらの反応が返ってきて、 それが自分へのご褒美になる。 そういうときに、 自分が注ぎ込んだ苦労やエネルギーよりも、 ご褒美の方が大きいと感じたら、 人はそれをやめない。 だけど、帰ってきたご褒美に対して、 見返りが合わないと感じたときに、人は挫折する。 これは「やめずに続けてしまうゲーム」の 条件としても成り立ちますし、 「英語を学ぶときに挫折しないかどうか」も、 同じ理屈で説明ができると思うんです。 |
Iwata | If the reward that you receive is worth more than the effort and energy you put in, people don't quit. If it's the other way around, people feel discouraged. This applies to those games you continue playing, or being able to keep on studying English. People put in energy such as time, labor, or money. The feedback you receive is your reward. |
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糸井 | なるほど。 | Itoi | I see. | |
岩田 | 自分の得意なものが、放っておいても、 どんどんうまくなることも 同じ仕組みだと思うんです。 たとえば、絵を描く人は、 誰に頼まれるでもなく絵を描いて、 それをまわりの人がほめてくれる。 そういうくり返しのなかで、どんどんうまくなる。 あるいは、わたしだったら、 昔はわからなかったコンピュータのことが 徐々にわかっていって、 わかっていくことでさらにおもしろくなる。 糸井さんだったら、世の中を見て、 自分がおもしろいと思うことを どんどんそこに投げ込んでいって、 それが受け入れられたときに快感が生じて、 そういうことがどんどん得意になる。 この循環を成立させられることこそが おそらくその人の才能だと思うんです。 つまり、才能というのは、 「ご褒美を見つけられる能力」 のことなんじゃないだろうかと。 |
Iwata | This is why you become good at what you like. Artists draw paintings, and people compliment it. Through that cycle, he/she progresses. As for me, knowing more about computers makes it more interesting. For you, you find what's interesting, and you get involved with it. When you feel accepted, you feel a kind of pleasant stimulation, and you get better at it. Being able to establish this cycle is in fact probably his or her talent. I believe that talent is thus the ability to find your reward. |
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糸井 | 「なしとげること」よりも、 「なしとげたことに対して 快感を感じられること」が才能。 |
Itoi | So being talented is about "feeling the excitement of accomplishment", and not "just accomplishing". | |
岩田 | そうじゃないかと思うんですよね。 ご褒美を見つけられる、 「ご褒美発見回路」のようなものが開いている人。 |
Iwata | I think so. Finding your reward with your inner "circuit that responds to rewards". | |
糸井 | なるほどねー。 | Itoi | I see. | |
岩田 | たまにね、 ご褒美を見つけられる寸前まで行ってるのに、 その回路が開いていない人がいるんですよ。 そのときに、「こういうふうに考えてみれば?」とか 「だまされたと思ってあと3回我慢してみたら?」 みたいなことを言うと、 うまくいくときがあるんです。 自分が注ぎ込んだものよりも、 ご褒美のほうを大きく感じる瞬間がくれば、 よい循環がはじまるし、それが続くんです。 |
Iwata | Some people are so close to finding that reward, but their circuit may not be active. Their circuit can turn on with some advice, or just by simply telling them to "keep on trying three more times." A positive cycle begins when your circuit is turned on, when you feel that the reward you receive is worth more than the energy put in. |
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糸井 | それは、さっきおっしゃった、 「自分が苦労したと思わないのに 評価してもらえるものが得意なことだ」 という話とつながりますね。 |
Itoi | Just like you said, "Your strength lies in those areas where you are highly evaluated, even if you don't think you've put in extreme effort." | |
岩田 | そうです。ですから、やっぱり、 「ご褒美を見つけること」が才能なんですよ。 もっというと、それは、 宮本さんや糸井さんとおつき合いしたなかで 見つけたことでもあるんです。 おふたりといっしょに仕事をするうちに、 わたしが見つけた「天才の定義」があります。 「人がいやがるかもしれないことや、 人が疲れて続けられないようなことを、 延々と続けられる人」、 それが「天才」だとわたしは思うんです。 |
Iwata | Being able to find that reward is a gift itself. Furthermore, I think those people who can continue doing what people don't like, or what may be too tiresome for others, are those people you call a genius. This is something I found through my relationship with you and with Mr.Miyamoto. | |
糸井 | ああー。 | Itoi | Hmmm. | |
岩田 | 考えるのをやめないこととか、 とにかく延々と突き詰めていくこと。 それは、疲れるし、見返りがあるかもわからないし、 たいへんなことだと思うんです。 でも、それは、それができる人にとっては 苦行じゃないんですよ。 それを苦行だと思う人は、 苦行じゃない人には絶対勝てない。 だから、それが才能なんだと。 だから、自分が苦労だと思わずに続けられることで、 価値があることを見つけることができた人は、 それだけでとても幸せだと思います。 |
Iwata | It's not easy to do something for a long time. First of all, its' tiring, plus you never know if you'll receive something in return. However, for some people, there's no pain in doing it. Those are the people who can win. You're lucky if you have found it. You've found your talent. |
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糸井 | ご褒美とか、快感について、 似たようなことを、ぼくも考えたことがあります。 そのときにぼくは 「あ、これが境界なんだな」と感じたことがあって、 それがなにかというと、 「快感には、ふつうの快感と、 ぴりぴりする快感がある」 ということなんですよ。 |
Itoi | I've also been thinking about rewards and pleasure. There are two types of pleasure, there's the normal pleasure, and there are those that feel stimulus. | |
岩田 | あ、なるほど! | Iwata | Ah! | |
糸井 | つまり、ご褒美とか快感っていうと、 おいしいものだったり、甘いものだったり、 それこそお金だったりというような 漠然としたイメージがあると思うんですけど、 たとえば指圧なんかで 「いたたたた、痛いけど気持ちいー」 っていうのがあるのと同じで、 ぴりぴりする快感があるんですよ。 で、そこの部分に味をしめちゃうと、 天才領域にいくんですよ、おそらく。 |
Itoi | There's that pleasure that's stimulus, just like when you're receiving Shiatsu massage, that "Ouch, it hurts but it feels good" type of pleasure. When you can keep on working in that kind of area, you can become a genius. Rewards don't only come in forms of sweets or good food or money. | |
岩田 | すげー、わかりますわ、それ(笑)。 | Iwata | (laughing) I know what you mean. |
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糸井 | でしょ。ちょっとマゾっぽいっていうかね。 いいんだけど、いやなんだけど、いいんだけど、 このいやないいは、オレしかわかんないなっていう。 |
Itoi | It's sort of masochistic. It's good, it hurts, but it's good, and only I know the pleasure of this. | |
岩田 | そもそも、そんなに 無闇に甘いだけのご褒美って ないですからね。 |
Iwata | Rewards aren't just sweets or snacks. | |
糸井 | ご褒美の形をわかりやすくするために、 いまの企業だったら、 お金とか地位とかお休みをあげるんでしょうけど、 それって、刺激の法則からしたら 無限に必要とされるものですから、 なんていうか、ドラマがないですよね。 続けるからには、ドラマが欲しいですよね。 感覚の中にドラマってすでにあってさ、 苦い、しょっぱい、からい、 みたいな一見マイナスのものがよかったりさ。 |
Itoi | Enterprises give money or positions or vacations as a clear form of reward. Those rewards are limitless, and you have to keep giving more of it. There's no drama to it. I'd rather see more drama. Drama lies even within our senses. Sometimes the sour, salty, hot flavor tastes good. | |
岩田 | 「この渋みがたまらん」みたいな。 | Iwata | Like, "this tanginess is delicious." | |
糸井 | そうそうそう(笑)。 隠し味というか、ぴりぴりする部分があって、 そこを感じ取ったときに、 「ほかの人にはわからないだろうけど」 ってなったら、しめたものですよね。 |
Itoi | Exactly. There's those hidden flavors that stimulates us. When you're the only one that feels that way, you're in a good spot. | |
岩田 | たぶん、人が自分の人生の中で、 「ここが得意かも」って思ってることって 絶対ご褒美回路が開いてますよ。 |
Iwata | The things you think you're good at, your reward circuit is definitely active. | |
糸井 | うん。 | Itoi | Yes. | |
岩田 | で、それがひとつあると、 できることが増えていくんです。 そのご褒美回路のそばに、 似たようなことで 自分が新たにご褒美だと感じられるものって あるんですよ、きっと。 いままで得意だとは思ってなかったことで、 「じつは、これも同じじゃん」って 思えるようなことで出てくる。 たとえば、プログラムをつくることと 会社経営はよく似たところがあるぞって わたしは発見していくわけですよ。 |
Iwata | When you've found something like that, you expand your capabilities. Your circuit responds to other related stimulation. You find yourself talented in other areas. As for me, I keep finding how management is similar to designing software. | |
糸井 | ああ、それは、 いまの岩田さんを見ていると よくわかりますよ。 (続きます!) |
Itoi | I see what you mean. (Continued!) |
2007-09-07-FRI |