糸井 | いまの岩田さんを見ていると、 規模やジャンルは違うけれども プログラムを組んでいたころと同じような、 一貫した方法論で動いているように 思えることがあるんですよ。 |
Itoi | To me, it seems that your methodology has been consistent as a programmer, and as president of Nintendo. | |
岩田 | ああ、そうですか。 | Iwata | You think so? | |
糸井 | ちょっと古い話になるけど、 『MOTHER2』というゲームの開発が 破綻しかかっていたときに、 岩田さんが助っ人として現れて、 ぼくらに向かってこう言ったんです。 「これを、いまある形のままで、 直していくなら、2年かかります。 でも、イチからつくっていいなら 1年以内にやります。 どちらにしますか?」って。 |
Itoi | When the MOTHER 2 (EarthBound) project was about to fall apart, you came in to help, and this is what you said to us. "It will take 2 years to fix this keeping what you have built up. If we start from scratch, it will take only a year. What do you say?" |
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岩田 | 言いましたね(笑)。 | Iwata | Yes, I remember. (laugh) | |
糸井 | 結果的には、イチからつくってもらうほうを 選んだわけですけど、 あれ、岩田さんの中では 「イチからつくったほうがいい」って 答えは出てたわけですよね? |
Itoi | We decided to start from scratch. You knew this was the best choice from the beginning though, didn't you? | |
岩田 | 最善の方法を選べと言われたなら そうしたと思います。 でも、あのときは、 プロジェクトを建て直す立場として わたしはあとから加わったわけですから、 どちらの選択肢でもやるつもりでいましたよ。 そして、実際、どちらの方法でも 仕上げられたと思います。 |
Iwata | If I were to choose the best way at that time, yes, I would've started from scratch. But I wasn't in the project from the start, so I would've respected whatever decision you made. My task was to pull the project back together. Anyway, I think it was possible to do either way. | |
糸井 | 「イチからつくったほうがいい」 という答えがわかっていたのに、 どちらの方法でもやるつもりでいたんですか。 |
Itoi | You thought it was best to start from scratch, and still you would've have gone either way? | |
岩田 | だって、いままでつくってきた人たちが そこにいるわけですからね。 いきなり現れた人間が 「イチからつくり直します!」って宣言しても、 納得がいかない人が出てきます。 現場の雰囲気が壊れてしまったら、 うまくいくものもダメになってしまう。 ですから、可能性のある選択肢を提示して、 選んでもらうほうが正しいと わたしは思ったんです。 |
Iwata | It was important not to ruin the atmosphere of the project team. You can't show up all of a sudden and destroy everything people have created until then. People aren't persuaded by such ways. The positive atmosphere of the team is crucial in order to succeed. I decided it was best to present the team with suggestions, and have them take the pick. | |
糸井 | あー、もっともですね(笑)。 で、そのときに岩田さんが なにからはじめたかというと、 まず、道具をつくりはじめたんですよね。 つまり、目の前に大きな問題がごろごろあって、 すごくたいへんだぞ、というときに、 直接は、それに取りかからなかった。 だから、離れたところから見ると、 ぜんぜん手をつけてないように見えたんです。 ところが、それは、問題を片づけていくための 道具をつくっていたんだよね。 |
Itoi | Now I understand. When you joined the team the first thing you did was to make tools. There were huge problems left unsolved, but you didn't touch them. It seemed to us you weren't doing anything productive, but actually you were creating tools to solve those problems. |
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岩田 | はい。 | Iwata | Right. | |
糸井 | (まわりのスタッフに向かって) おもしろいんだよ、これは。 問題を1個ずつ片づけていくかというと そうじゃないんだ。 いったん、道具をつくっておいて、 「みんなが使える道具をつくりましたから、 これで、あなたはここをつくってください」 というふうに建て直していったんだ。 つまり、道具さえできたら、 あとはやるだけなんですっていう やり方をしていましたよね。 |
Itoi | (to the staffs) What he did was really interesting. He didn't try to solve the problems one by one. He made a tool, and said to us "Here's a tool that you all can use", and assigned us which parts to build with that tool. Now that the tool was there, all we had to do was to get down to work. |
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岩田 | やりましたね。 | Iwata | Yes, I remember. | |
糸井 | それをそばで見ていたぼくは、 任天堂の社長になっても 大きな意味ではそれをやってるんだな、 って思えることがあるんですよ。 たとえば、ニンテンドーDSが出るときに、 岩田さんはまず、新しい部署をつくりましたよね。 |
Itoi | Experiencing those times, I see you doing the same as president of Nintendo. You made a new department when Nintendo DS came out, right? | |
岩田 | そうですね。 それまでもDSの部署はあったんですけど、 非常に重要な役割を果たす場所として、 なかった部署をひとつつくったんですね。 そのときは予想もしていなかったのですが、 のちにその部署が『脳トレ』や『えいご漬け』を つくることになるんです。 |
Iwata | Yes. There already was a department that was in charge of Nintendo DS, but I made a new one, and assigned them with an important task. This department later designs games such as "Brain Age" and "DS English Training". I didn't foresee this at the time though. | |
糸井 | あとからその話を聞いたときにね、 それは、『MOTHER2』を建て直したときと 同じじゃないかと思った。 |
Itoi | When I heard about this later on, I thought it was the same way you put MOTHER 2 (EarthBound) back on track. | |
岩田 | まあ、ワンパターンですね(笑)。 よく言えば一貫性があるというか。 |
Iwata | Well, not so much of a variation there (laugh), or you can take the positive side and say that there's consistency. | |
糸井 | というか、思考のパターンって そんなにたくさんは増やせないと思うんですよ。 |
Itoi | Actually, I don't believe that people can have that much of a variation in their logical patterns. | |
岩田 | そうかもしれませんね。 | Iwata | Maybe not. | |
糸井 | 岩田さんはプログラマー時代に、 プログラマーとしての思考モデルを確立して、 それがいまも活きているというか。 |
Itoi | I think you established your logical pattern as a programmer, and have been making use of it ever since. | |
岩田 | そうかもしれませんね。 プログラムというのは、 純然たる、純粋なロジックなので、 そこに矛盾がひとつでもあったら、 そのシステムはちゃんと動かないんですね。 機械の中で間違いは起こらないんですよ。 間違いは全部、機械の外にある。 だから、システムが動かないとしたら、 それは明らかに自分のせいなんですよ。 でも、プログラマーって全員、 プログラムができた瞬間には、 「これは一発完動するに決まってる」 と思って実行してみるんですよ。 でも、絶対一発完動しないんですね。 だけど、その瞬間だけは、 「オレは全部正しく書いたに決まってる」 って思い込んで実行キーを押すんです。 |
Iwata | Maybe. Programming is pure logic. It won't work if there's an inconsistency in the logic. The errors aren't produced inside the system. They are produced from the outside. If the system doesn't work, it's definitely your fault. The funny thing is that every programmer thinks his logic will work when they finish coding a program. It never does, but at that moment, everyone believes there's no error in the logic they have written, and confidently hits the "Enter" key. |
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糸井 | (システム担当の佐藤に向かって) そうなの? |
Itoi | (to Sato, the system engineer) Is that true? |
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佐藤 | すごくよくわかりますよ(笑)。 | Sato | Very true. (laugh) | |
岩田 | プログラムの世界は、理詰めです。 だから、もしも完動しないとしたら、 原因は全部、プログラムしたこっちにある。 わたしは人と人との コミュニケーションにおいても、 うまく伝わらなかったら その人を責めずに自分の側に原因を探すんです。 それはきっと、プログラムを やっていたおかげですね。 |
Iwata | The world of programming is all logic. If it doesn't work, you're the one to blame. I also apply this to communication among people. If my message isn't conveyed as intended, I search for the reason on my side, and not blame the other. | |
糸井 | ああー。 | Itoi | Ah. | |
岩田 | だって絶対間違ってるんだもん、プログラムが。 だから、人と話してうまくいかなかったら、 「わからない人だな」と思う前に、 こっちが悪かったんだろうと思う。 そこに気づけるのは、きっと、 過去に組んできたプログラムのおかげですね。 |
Iwata | If it doesn't work, you're the reason for it. If there's miscommunication between someone, I don't blame them for not understanding. There are always factors on my side. Having been a programmer enables me to think this way. | |
糸井 | やっぱり、思考のパターンやモデルって、 増やそうと思って勉強しても 増えるものではないというか。 |
Itoi | All in all, logical patterns can't be learned through books. | |
岩田 | 自分の身のまわりにあることと つながっていないことを無理に勉強しても 身につかないんですよ。 だったら、それに時間を費やすより、 あっちで火がついてるプロジェクトがあるから それの火を消しに行こう、 みたいなことのほうが優先するんですね。 |
Iwata | You can't really learn something if it's not related to what you do. Handling troubles in your project is much a higher priority than trying to study something irrelevant to you. | |
糸井 | そっちのほうが、 ぴりぴりする快感があるんだよね。 |
Itoi | Probably because it gives you that stimulus pleasure, too. | |
岩田 | そのとおりです。 みんなが困っててオロオロしてるところに、 落下傘で降りていくの大好きですからね。 『MOTHER2』の出会いも まさにそうでしたし(笑)。 |
Iwata | I like flying down with an umbrella to where people seem lost. Just like how it was with the "MOTHER 2" (EarthBound) project. (laugh) | |
糸井 | (まわりのスタッフに向かって) この人はね‥‥ 本当にそういうことが好きみたい。 |
Itoi | (to the staffs) You know.... I think he really enjoys it. |
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一同 | (笑) (続きます!) |
All | (laugh) (Continued!) |
2007-09-10-MON |