糸井 | 宮本さんの話に戻りますけど、 「お客さんは、わかってくれない」 というのを前提にして ものをつくっていくという宮本さんの姿勢は、 ふだん、ぼくがやっていることに近いんです。 「コミュニケーションの前提は ディスコミュニケーションである」って、 ぼくはよく言うんだけど、 お客さんって身内ではなくて、 いわばすれ違う通行人のようなものだから、 理解してくれないのがふつうだと思うんですよ。 だから、宮本さんが 「ポンと渡しただけで遊べるようにつくる」 というのとまったく同じで、 まずは絶対、誰にでもわかるようにつくりたい。 |
Itoi | Bringing the subject back to Mr.Miyamoto, his premise when creating something seems to be "Don't think your consumers are willing to understand your points", and I feel this is very close to how I think. I often say that "dis-communication is the premise of communication." The consumers are not your family, they're more like people passing by on the streets. But I want what I create to be understood by everyone, just like Mr.Miyamoto wants his games to be enjoyable from the start. |
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岩田 | はい。 | Iwata | Uh-huh. | |
糸井 | もっというと、 最初に「あきらめ」があるというか、 「人はオレを愛してくれないんじゃないか?」 という叫びのようなところから ものづくりがはじまるんです。 |
Itoi | I think creation starts from a despairing cry from within, "Will no one love me?" | |
岩田 | わたしたちもそうですね。 自分たちがつくるものに対して、 最初、お客さんは、 たいして興味がないどころか、 まったく興味がない。 そこから、はじまる。 そこから、愛してもらうというか、 わたしたちのつくったものに触れて ニコニコしてくれる状態にまで 線をつないでいかないと こっちの負けだって思ってますね。 |
Iwata | That's the same for us. The consumers are not "not that much interested" in our games, they're "completely not interested" in the beginning. We need to bring them to a state where they pick up our product and smile, where they come to love it. That's the battle we're fighting, and we want to win it. |
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糸井 | 「愛されていない」という あきらめの状態からはじめるのって、 自分を卑下しているように 聞こえるかもしれないけど、 そこからはじめるしかないですよね。 |
Itoi | "Will no one love me?" may sound low self esteemed, but that's the only place where you can really start. | |
岩田 | そうですね。 わたしは、糸井さんが昔、 HAL研に来てくれたときに、 「王様と奴隷」の話をしてくれたのを すごく覚えてるんです。 |
Iwata | It makes me remember the story you told us before, when you came to HAL Laboratory. The story of "the King and the Slave". | |
糸井 | あ、わかった。 「教育される側が王様である」という話だ。 |
Itoi | The story that it's the King who needs to be educated, right? | |
岩田 | そうです。 | Iwata | Yes. | |
糸井 | (まわりのスタッフに向かって) これはね、いいんだよ。 |
Itoi | (to the staffs) This is a good one. |
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一同 | (笑) | All | (laugh) | |
岩田 | いや、ほんとに、すごくいい話ですよ。 「ものをつくる人」と「お客さん」は、 王様と奴隷の関係にある。 でも、王様は「ものをつくる人」じゃない。 「お客さん」のほうが王様。 で、「ものをつくる側」は奴隷の役。 王様は「もういらない」って言うことも、 「つまらない」って言うことも 「わからない」って言うことも 自由にできる、超わがままな立場で、 その超わがままな王様に、 どうしたら喜んでもらえるかな、 まえのものは飽きちゃってるけど、 つぎはこうしたら喜んでもらえないかな、 ということを、奴隷の側は考える。 「その『考える奴隷の仕事』の おもしろさをわかりなさい」 っていう話だったんですけど、 すごく印象に残ってますね。 |
Iwata | Seriously, it's a good story. It's about the relation between the creator and the customer. The king isn't the creator. He's the customer. The king is free to say anything about what is given to him, that it's boring, or that he doesn't understand it, or even decline the offer. He has the privilege of being super selfish. The slave has to think how to satisfy the king, how to make him happy. Mr.Itoi's point was to understand that the job of the slave is intellectual and interesting. |
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糸井 | それは、恋愛における、 口説く側と、口説かれる側も同じで。 |
Itoi | The same can be said about relationships, the one who makes the approach, and the other. | |
岩田 | 主導権が向こうにあるんですよね。 | Iwata | The initiative lies in the other. | |
糸井 | そうなんです。 基点になる側は必ず主導権を持てない、 というのが基本で、 いろんなことにあてはめられる考え方なんです。 たとえば、誰かに仕事をお願いしたり、 誰かから仕事をお願いされるときも同じで、 誰かに仕事を頼むときは、 「自分が逆側だったら引き受けるかな?」 っていう発想がなきゃいけない。 頼まれる側がそれを引き受けるとしたら、 逆に「頼んででもやりたい仕事」に 一回変換して考えてみないといけない。 なぜかというと、引き受ける側は、 全部つらいに決まってるんだから、 「そのままじゃつらいだけだけど、 こういう形がありなんだったらやりたい」 というふうに変換してはじめて、 後悔せずに一所懸命取り組めるんです。 そういうふうに考えずに漫然とやっていると、 つくり手が自分を王様だと思っちゃうんです。 王様としてつくったものを、 本来は王様であるはずのお客さんが奴隷側の立場で きゃーきゃー言って受け取るだけだと、 つくり手はなにも進化しない。 つくり手が進化しなければ、 お客さんはすぐに「飽きた」って言って おしまいになっちゃうんです。 その悪い循環に陥っているものが 世の中に増えてるんじゃないかって 最近、とみに感じますね。 消費者がすぐに「飽きた」って 言うようになったでしょ。 |
Itoi | Exactly. The one who takes action can never take the initiative. For example, when you ask someone to perform a task for you, you have to think about whether you'll take it if it was offered to you. When you work for someone, it usually involves hard work. People work hard because you think it's worth it, and that's the only way people will put in their full energy into it. So you always have to think, "will I accept this job if it was offered to me?" You need that point of view. If the creator's not aware of that point of view, he starts to misconceive that he is the king. If the consumers don't act as king, the creator is deprived of the opportunity to improve. When the creators don't improve, the customers will get easily bored of what they get. And that's the end of it. It seems that this malignant cycle seems to be increasing. The consumers get bored very easily. |
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岩田 | ものが古くなるスピードが ものすごく速いんですよね。 |
Iwata | The speed of things getting out of date has become extremely fast. | |
糸井 | 「つまんない」とか、「飽きた」とか、 「もっと持ってこい」とか言われたあとで、 それに合わせてあわてて ぺこぺこしながらつくっても いいものができるわけがないんですよ。 だから、DS以降に任天堂がやってることって、 王様たちが、既存の価値観の延長線上で、 どんどん飽きながら 「こういうのをもっともってこい」って わがままを言ってるようなときに、 「王様、こういうのもありますよ」って、 奴隷の側から新しいものを差し出したんですよ。 しかも、その新しいものに対して 「こんなのは、わからん」って、 言わせないようにしたわけでしょ。 それは、やっぱりすごいことですよ。 |
Itoi | If you just keep on responding to the customer's requests, you're not going to come up with something with quality. What Nintendo has been doing since they came out with DS is to keep bringing something new to the kings, who were tired of games that were a mere extension of traditional and conventional ones. Plus, Nintendo made it so that the kings understood it. It's just amazing, what you did. |
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岩田 | ありがとうございます。 | Iwata | Thank you. | |
糸井 | Wiiについても同じですよね。 世間はWiiが大成功したと思ってるけど、 任天堂はちっとも王様になってない。 だって、岩田さんは 「Wiiが成功した」って 一度も言ってないんですよ。 |
Itoi | Everyone thinks Wii is such a success, but Nintendo hasn't become overproud of it. Actually, I don't think I ever heard you say "Wii is a success." | |
岩田 | まだです。 | Iwata | Not yet. | |
糸井 | ね。 | Itoi | Not yet, I see. | |
岩田 | いい出足ですよ。 いい出足ですけど、まだです。 |
Iwata | It's a good start. It's been a good start, but it's only the beginning. | |
糸井 | このへんが、 おもしろいよなぁ(笑)。 |
Itoi | (laughing) Is that so. |
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岩田 | いや、まだですよ。 これが永続的に波及していくかどうかは まだ答えが出てません。 半年後、1年後と、 新しい提案を出し続けていって、お客さんが 「ああ、気がついたら遊び続けてたわ」 っていうことが起こらないとだめです。 そうしないと、ほんとうの意味での 目的を果たしたことになりませんから。 |
Iwata | We want to have the customers continue playing. We want to continue coming up with new proposals to them, and have them keep playing. Only then can we say that we've accomplished our goals. | |
糸井 | すばらしい冷静さだね、それは。 | Itoi | That's a great point of view, very objective too. | |
岩田 | もちろん、そうなるための 準備をつねにやってるわけですが。 |
Iwata | We've been preparing to make things happen. | |
糸井 | 二の矢、三の矢があるからこそ、 こういうことが平気で言えるんだろうけど。 |
Itoi | I'm sure you have new plans coming up. | |
岩田 | 二の矢、三の矢があって、 それが本当にちゃんと当たるのか。 お客さんの心を射抜けるのかどうか。 お客さんに遊び続けていただけるのかどうか。 まだその答えは出てません。 大丈夫だと思ってやってるんですけどね。 (続きます!) |
Iwata | We need to see if our new approaches will grab the customer's hearts, if they will keep on playing our games. The answer's not out yet, but I believe we're getting there. (Continued!) |
2007-09-11-TUE |