糸井 | 岩田さんの思考モデルというのは、 専門的な領域で培われたはずなのに、 言われるとすぐに自分の役に立つというか、 普遍的な力を持ってますよね。 |
Itoi | Your model of thinking was nurtured in a technical field, but it's versatile at the same time. It's a very practical model. | |
岩田 | 山のようにあるデータの中の どこに目をつけるかというような具体的なことは、 自分にしかわからないことだと思いますけど、 方法論としては、自分のやっていることは すごく普遍的であるような気がします。 といっても、わたしは、経営学の本を読んで 体系的に勉強したわけではまったくないですが。 |
Iwata | I've never studied management or enterprise organizations through books, but I think my method can be applied generally. The specifics, though, such as finding which data to pay attention to is probably something only I understand. | |
糸井 | そうですよね(笑)。 これは、不勉強であるとか そういう話じゃないんだけど、 (まわりのスタッフに向かって) 昔の岩田さんはね‥‥ 本を読まなかったんだよ。 |
Itoi | (to the staffs) It's not that he was lazy or anything, but...he never used to read books. |
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岩田 | あははははは。 | Iwata | (laugh) | |
糸井 | だから、昔はよく、 岩田さんに本をあげてたんだよ。 それが、最近では逆になって、 岩田さんからおすすめされるほうが ずっと多くなった(笑)。 |
Itoi | I used to hand you my recommendations, but now you seem to recommend me a lot more than I do. (laugh) | |
岩田 | やっぱり、こういう立場になると、 本に出てくることと 自分の身のまわりにあることが つながるようになったんですよ。 プログラムを専門にしていたときは、 組織や経営の本を読んでも、 つながってないから入ってこないんですね。 たしかに知識は増えるんですけど、 知識が増えるだけだと達成感がないんです。 「明日、これが使えるぞ」 っていうことがないんですね。 そうすると、さっきの話でいうところの 「ご褒美」が感じられないわけです。 |
Iwata | Now that I'm in my position, I can connect what's written in books and what happens around me. When I was specializing in programming, reading books on management or enterprise organization only helped me gain information. It was only information, so the knowledge didn't soak in. Gaining information doesn't give you a sense of accomplishment if it's not something you can try tomorrow. You don't feel the "reward". | |
糸井 | そうだね。なるほどね。 もっと昔はどうだったんですか? たとえば子どものころなんかは 本を読んだんですか? |
Itoi | How about when you were a child? What books did you read, if any? | |
岩田 | 子どものころは、 百科事典を端っこから読んでました。 |
Iwata | I used to read the encyclopedia, from end to end. | |
糸井 | それは覚えたんですか? | Itoi | Did you memorize what you read? | |
岩田 | 覚えません。 覚えないけど、わからないことどうしが つながるのがおもしろかったんですね。 それが自分にとってのご褒美だった。 |
Iwata | No, but finding the connection between things that I didn't understand until then was very interesting. That was my reward. | |
糸井 | いまと同じだ。 | Itoi | Isn't that the same as you are now? | |
岩田 | そうですね(笑)。 知らないことと知らないことがつながって わかっていくことって すごくおもしろいんですよ。 |
Iwata | Actually, yes. (laugh). It's interesting when things that I didn't understand connect, and I gain new knowledge. |
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糸井 | ぼくがいつもおもしろいなぁと思うのは、 岩田さんって、急に質問したときに、 なんとか答えようとしてくれるんですよ。 その「答えようとする力」ってすごいんです。 だいたい、オレが岩田さんに質問して、 答えてもらえなかったことなんてないんだよ。 |
Itoi | What I find amazing is the effort you put in answering questions. I don't think there was a time when you didn't answer my question. Every time I ask one, you answer it. | |
一同 | (笑) | All | (laugh) | |
糸井 | 「どうして海外の電話って、 遅れて聞こえるんでしょうね?」 って質問したの、覚えてます? |
Itoi | Remember when I asked why lags are caused in international phone calls? | |
岩田 | はい、覚えてますよ。 | Iwata | Yes. | |
糸井 | 電波の速度って速いのに、 海外と電話すると届くのが遅れるじゃない? なんでこんなに遅れるんだろうって 岩田さんに突然訊いたんだよ。 そしたら、納得のいく答えを すぐに答えてくれた。 |
Itoi | Electronic waves are transmitted instantly, but when you make international calls, there's a lag. I remember asking this question out of the blue, but you gave me an answer right away. | |
岩田 | えーっと、昔の電話のほうが、 いまよりも遅れて聞こえていました。 いまの国際電話は海底のケーブルを 使うことが多いんですが、昔は衛星でした。 静止衛星というのは、 地球の表面から36000km離れた場所にあります。 つまり、一度、上空36000kmまで行って、 そこから36000kmかけて帰ってくるので、 合わせて70000km余りかかるんですね。 「もしもーし」「はいはーい」 というやり取りをする場合は、 衛星とのあいだを信号が2往復するんです。 そうすると140000km強になるんですね。 光とか電波は1秒に約300000km動きますから、 140000kmの距離を動く場合は だいたい、0.4秒の間になるんですよ。 ですから、現実に 「もしもーし」「はいはーい」を体験すると、 0.4秒のタイムラグができるんです。 |
Iwata | Let's see... phone calls used to have more lags in the old days. Although underwater cables are frequently used for international calls now, satellites were used before. Stationary satellites are located about 36000km away from the surface of the earth. So the voice is transmitted to 36000km above, and then 36000km down, which is over 70000km in total. When someone says "Hello", and the other answers "Hello", the signal makes two round trips, which is a total of a little over 140000km. Light and electronic waves are transmitted about 300000km per second, so the signal takes about 0.4 seconds to be transmitted 140000km. So when you say "Hello" and the other answers "Hello" back, there is approximately a 0.4 second lag. | |
糸井 | これを、一気に答えたんだよ。 | Itoi | And he answered this instantly. | |
一同 | おおー(笑)。 | All | Wow. (laugh) | |
糸井 | あきれるだろう? で、とくにオレが好きだったのは、 それぞれの数値を即答したこともさることながら、 「もしもし」だけじゃなくて 「はいはい」が聞こえるまでにはもう1往復ある、 という考え方だったんだよ。 そこにね、惚れたの。 |
Itoi | Isn't it amazing? What caught me was not only the numerical figures that he answered, but that he included the "Hello" back in his calculation. | |
岩田 | はははははは。 「もしもーし」「はいはーい」なんですね。 |
Iwata | (laughing) Yes, "Hello" to and fro is a set. |
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糸井 | その言い回しは、いいよね。 コミュニケーションを 往復運動で考えること自体が、 やっぱり画期的ですよね。 向こうに行くだけのこととして考えないで、 戻ってくるのを待つというところまで考えてる。 だから、苛立ちになるという。 やっぱり、いま聞いても、 おもしろいのはそこですね。 しかも即答するわけだからね。 いまならネットで調べれば わかるのかもしれないけど、 即答じゃないと、おもしろくないんだよ。 |
Itoi | "Hello" to and fro. That's good. I thought it was novel to think of communication as a round trip action. The reason why people are irritated is because of the lag that is caused in that round trip action. You include the response in your concept of communication. I find this very interesting. The numerical figures can probably be found on the Internet, but the fact that you gave me these facts immediately makes it amazing. | |
岩田 | なぜ、すぐに答えられたかというと、 昔考えたことがあるからなんですよ、きっと。 |
Iwata | I was able to give you an immediate answer because it was a subject I've thought about. | |
糸井 | そっか。 | Itoi | Really? | |
岩田 | なぜ海外と電話すると気持ち悪いんだろうって。 遅れるときでも、妙に長く遅れるときと、 そうでもないときがあるぞ、とか。 そういう疑問を感じたら、 きっとこうだからだ、って仮説をたてる。 そして、思いつくかぎりのパターンを検証して、 「どういう角度から考えても、 これだったら全部説明がつく」 というときに考えるのを止めるんですよ。 「これが答えだ」と。 |
Iwata | Yes. I was wondering why it was uncomfortable when calling overseas. Sometimes the lag is not as bad as other times. When I draw a hypothesis, I test it against every possible pattern. When I find the hypothesis that can explain every pattern, that's when I can stop thinking, because that's the answer. |
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糸井 | それもプログラム的な思考ですね。 | Itoi | That's a program oriented thought too. | |
岩田 | そうですね。 だから、説明できない「なぜ?」があると、 究明せずにはいられないんですね。 なにか説明できないことがあるとすると、 その仮説は間違ってるということになる。 だとしたら、別な理由があるはずだ。 別の仮説を考えなきゃいけない。 ということで、また考え始めます。 |
Iwata | Probably. When there's a question that I can't answer, I can't stop myself pursuing it. If a hypothesis doesn't work against a certain pattern, it means that it's not correct. That means that there should be another reason, so I need to draw another hypothesis, and I keep on thinking. | |
糸井 | だからね、岩田さんが まだ整理しきってないことを質問すると、 答えるまえにちょっと間ができる。 |
Itoi | That's why when I ask something that you haven't thoroughly thought, there's a pause before you answer. | |
岩田 | (笑) | Iwata | (laugh) | |
糸井 | 本気で考えるときは、 ちょっと止まるんだよね。 |
Itoi | You stop and think. | |
岩田 | すでに考えたことがあって、 整理がついてることは それを答えればいいだけですからね。 でも、未整理の課題を突きつけられると、 その場で仮説を思いついたとしても つい、検証をはじめてしまうんですね。 というのも、自分はずっと コンピュータをやってきてますから、 論理に矛盾がないのが好きなんです。 だから、はじめての質問をされたときは、 「自分がここで答えることは、 自分が今までやってきたすべてのことと 一貫してるかどうか?」 ということを考える。自分が自信を持って 「これが正しいと思う」ということがあっても、 いろんな角度から考えてみないと言えないんです。 |
Iwata | If it's a question that I have already pursued, all I need to do is give you my answer. But when it's something that I haven't come up with an answer yet, I need to check my hypothesis before I open my mouth. I like consistent logic, I'm from the computer field. When someone asks me a question I don't have an answer to, I verify if my answer is consistent with everything that I've done and known. Even if I feel confident that an answer is correct, I still need to test it from every angle. |
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糸井 | おもしろいだろう? | Itoi | He's amazing, isn't he? | |
一同 | (笑) (続きます!) |
All | (laugh) (Continued!) |
2007-09-13-THU |