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ジャズ喫茶の文化って、
話を聞けば聞くほど、おもしろいですね。 |
高平 |
ピークの時期には、いろんな店があったからね、実際。
‥‥たとえばさ、
誰かがジャズ喫茶を始めるとするでしょ?
で、同業者が
「どうもあの店は客が多いみたいだぜ」となる。
すると、偵察に行ったりするんだよ、マスターが。
それで、ある日、突然
「モダンジャズ」って看板を出しちゃったりとかね。 |
── |
そうなんですか(笑)。 |
高平 |
いや、ほんとにそんなことがあったって、
ジャズ喫茶「DUG」の
中平穂積さんに聞いたことがある。 |
── |
お客さんは、基本的には
自分のお気に入りの店に通い詰めるんですよね? |
高平 |
うん、それなりに店の特徴はあったからね。
たとえば、どこそこの店に
「JBLのパラゴン」が入ったっていうと、
行ってみようかって。 |
── |
その場合は、スピーカーで選んでるわけですね。 |
高平 |
その店のオーディオのスペックが
ぜんぶ書いて貼ってあったりしたんだよ。
当店のスピーカーはどこどこのなになにで、
カートリッジ、
つまりレコードの針はこれこれで‥‥って。
本日の蕎麦粉はどこどこ産です、みたいなもんだよね。
手打ち蕎麦屋の(笑)。 |
── |
基本的に、お店にかかるレコードは
お客さんのリクエストなんですよね? |
高平 |
うん、そう。
でも、オヤジがさ
「すみません、セロニアス・モンクは
2枚ほど前におかけいたしましたので
少々、先になりますが‥‥」って
合間にべつのものをはさんだりとかはしてたよね。
で、客が増えすぎると、
前衛っぽいジャズかけて、帰しちゃったり。 |
── |
気に入らない曲だと、帰っちゃうんですか!? |
高平 |
コースターをコーヒーカップの上にのせて、
プイって、出てっちゃう。
で、その曲が終るころに、戻ってくる。
そういう、ヘンなやつもいた。 |
── |
でも、そんなジャズ喫茶も、
もう、あんまり残ってないんですよね。 |
高平 |
今年、横浜の「ちぐさ」も閉店したし。 |
── |
ニュースで報道されてましたよね。 |
高平 |
でもこのあたり(下北沢)にある
「ジャズ喫茶マサコ」っていう店は、
まだやってるみたいだよ。 |
── |
あ、このあいだ買ったジャズの雑誌に、
「いまだに近所から苦情が来る店」という説明つきで、
紹介されてました(笑)。 |
高平 |
それ、ようするに何がいいたいかというと、
ふつうの家では聴けないような
大音響で聴けるのが、
ジャズ喫茶のウリだったってことなんだよね。
だから、60年代から70年代のジャズ喫茶を
客として経験した人が
功なり名を遂げて、家を建てる段になると、
まず、考えるのが「自宅にオーディルーム」。 |
── |
ああ、防音設備のついた‥‥。 |
高平 |
昔なじみのジャズ喫茶のオヤジに
「オーディオセット、組んでくれるか」なんて
頼んだりしてさ。 |
── |
ああ、そういう気持ち、わかります。
男の子っぽいというか‥‥。 |
高平 |
ジャズ喫茶に行かなくとも、
自分の部屋で、デカい音で聴ける。
‥‥でも、ウォークマン以降は
みんなヘッドフォンで聴くようになったでしょ?
だから、ウォークマンの登場と
ジャズ喫茶がなくなっていく時期が重なってるのって、
何か非常に‥‥象徴的だよね。 |
── |
ああ、なるほど。 |
高平 |
ジャズ喫茶では
ヘッドフォンで聴くくらいの音量で鳴ってたわけだから。
‥‥「JBLのパラゴン」が、さ。 |
<続きます> |