金井 | 人間って、むしろ「不安」がないと、 将来を見通すこともできなくなるんですよ。 次はどうしたいという 夢やビジョンが持てなくなる。 |
糸井 | 就職という節目のキーワードが 半分が「不安」で もう半分が「希望」だというのも そういうことなんですね。 |
金井 | そのとおりです。 実際、新しい世界に入るまえの「不安」は 環境への適応に役立つんですよ。 でも、「不安」だけじゃなく、 もう半分の「夢」や「希望」があるから、 いつかこうなったらいいよね、ということを 見通すことができるんだと思います。 |
糸井 | ああ‥‥なるほど。 |
金井 | だから、不安でぜんぜん、悪くない。 いま、目のまえで 偉そうにしてる課長さんだって、 いちばん最初は 半分の不安と半分の希望を 同時に抱いていたはずなんですから。 |
糸井 | それがあたりまえなんだ、と。 |
金井 | はい。 だから、漠然としたものでもいいから、 将来への希望を持ってほしい。 ウィリアム・ジェームスという 哲学や心理学で有名な先生がいるんです。 彼が、学生から 「人生は生きるに値するか」と 真剣に聞かれたとき、 まず、その問いは証明不可能だから、 わからない、と。 でも、わからないからこそ、 「人生は生きるに値することにしよう」 「そういう信念を持つから歩み出せるんだ」、 そう言ったんですよ。 つまり、歩んでいるからこそ、 なにかを成し遂げる可能性が出てくる。 だからこそ、結果において 人生は歩むに値するものになるんだ、とね。 |
糸井 | それでも不安になった学生には、 どうアドバイスしているんですか? |
金井 | やはり、動きを止めることだけは やっちゃいけない、と。 悩んでいるから動けない、じゃなくて、 動かないから、元気も逃げるんです。 節目には迷ってもいいけれど、 そこを超えたら、動きを止めない。 歩みつづける、ということ。 これが、大切だと思います。 |
糸井 | たとえば、先ほど言われたみたいに 悩むくらいだったら、 とりあえず入社してみたら、とうことですね。 |
金井 | 面接の採用担当の人たちだって、 本当にいっしょに働きたい人に 出会いたいと思っているんです。 だから、学生に対して、 自分を飾りたててほしいだなんて ぜんぜん、思ってないんです。 だから、そういうところに関しては 不安を抱いてほしくないですよね。 |
糸井 | 自分を飾ったとしても、ばれますよね。 企業の人事担当なんて、 面接のプロなわけですから。 |
金井 | 採用の初期の段階ですと、 たとえば10人に面接したら、 この人とこの人は光ってたな、というのは 面接官のなかで たいてい一致するんですよ。 だから、よく見てるなぁと思いますね。 |
糸井 | あぁ、そうなんですか。 |
金井 | だけど、そこで彼らが見てるのは、 自分のことを「わたくし」と言うとかね、 企業のことを「御社」と言う、ということではない。 |
糸井 | いっしょに仕事をしたい人を 求めているわけだから、 そんな杓子定規な基準で 採用しているはずなんて、ないですよね。 逆にいえば、面接とは 「企業が選ばれている」というところから はじまっているわけですから。 |
金井 | おっしゃるとおりです。 ‥‥でも、この「ほぼ日」の就職シリーズ、 だれか特定の人間の意見じゃなくて、 いろんな立場の人が出てくるじゃないですか。 |
糸井 | ええ、「人事のプロ」から 就職していない「グレート・フリー」の面々、 最後には「矢沢永吉」なんて人も出てきます。 |
金井 | 非常に、興味深いですよね。 かなり、不安を抱いている学生さんを 救うような気がしますけれど。 |
糸井 | 就職という問題の場合、 このときはこうすればいい、というのは、 それぞれの人の立場や 置かれている状況が違うから、 かんたんには、言えないと思うんです。 |
金井 | まさに、そうです。 |
糸井 | でも、そのことを忘れて 「おじぎの角度」や「あいさつの仕方」なんて 公式にばかりとらわれてしまうと、 「働くこと」にたいして、 どこか強迫的になっちゃうんじゃないかなぁ、 ‥‥そんなふうに思ったんですよね。 |
金井 | 「就職ビジネス」にあおられてしまう、 なんて面もありますしね。 |
糸井 | 「働くことが好きな人」向けの、 「生産のロジック」のような考えかたで ものごとが組み立てられていますけれど、 本当のことを言ったら、 じつは「買いもの」をしてるときのほうが 楽しいかもしれないじゃないですか。 みんな、本音をいえば、 「仕事」と「遊び」のあいだを 行ったり来たりしているんじゃないか。 |
金井 | うん、うん。 |
糸井 | ですから、この特集を通じて、 「生産」とか「管理」とか、 今の社会を動かしているように見える 「ロジック」以外のところで 「就職」とか「働くということ」を捉えたいな、 と思っているんです。 |
金井 | わたしも、駆け出しの経営学者のころ 「管理」というのが嫌いだから 「管理の研究」をしているんだ、と思ってたんです。 「創造」や「遊び」と、 のびのびと両立する「マネジメント」を探そうと。 |
糸井 | そういう意味で言うなら たくさんの人を「公式」でくくるんじゃなく、 たまたまピックアップした一人の人に 納得してもらえるような、「就職論」。 みんな不安だし、 働きたいかどうかさえ本当にはわからないんだよ、 というところまで言ってしまったうえでの 「キャリア論」になったらいいなぁと。 |
金井 | なるほど‥‥。 やっぱり、就職というのは 知らない世界に入っていくんですから、 不安になって、あたりまえです。 だからこそ、「夢」や「希望」を持つこと。 ありきたりな正論みたいですが、 このことががやっぱり、重要なんです。 就職という節目では、 誰しも、半分の「不安」と半分の「希望」、 その両方を抱いているんですから。 |
糸井 | ええ、ええ。 |
金井 |
そのうえで、自分自身で 就職という節目を「デザイン」してもらえれば。 |
糸井 | なるほど。 今日は、ありがとうございました。 <終わります> |