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糸井 |
いまのしりあがりさんの会社は、
人を採るときはどうやってるんですか。
正式に募集をかけるんですか? |
しりあがり |
正式な募集は一回だけやったことがあるんです。
履歴書を送ってもらって、面接して。
でも、やっぱりそれだけではわからなくて。
逆に「採用」という、
はっきりしたかたちにするのが怖くなっちゃって。
で、いまは、人が人を連れてくる、
というかたちで入ってきてます。 |
糸井 |
あ、なるほどね。いまいる人が新しい人を。 |
しりあがり |
それで、基本的に
時給で働いてもらっているんですけど、
来たい人はずっと来るし、
いづらいなと思った人は
自然に来なくなるという感じで。 |
糸井 |
ああ、じゃあ、自然にまかせて。 |
しりあがり |
そうですね。
そのやり方がベストだとは思っていないんですが、
なんとなく、そうなっています。 |
糸井 |
それで10年も続いているんですから、
たいしたものですよね。 |
しりあがり |
いつの間にか。 |
糸井 |
建築家の青木淳さんの事務所は
4年で人を入れ替えるんだそうです。
いい人も、悪い人も、
4年経つとお別れなんだそうです。 |
しりあがり |
ああ、それはすごいですね。 |
糸井 |
辞めてほしくない人だって
いなくなってしまうんですから、
困ることも多いでしょうけど、
それは、「なるほど」と思える
方法のひとつではありますよね。 |
しりあがり |
へええ。それは、すごい。
ああ、でも、ぼくにはできないな(笑)。 |
糸井 |
簡単にはマネできないですけどね。
それはやっぱり青木さんの人間観や社会観が
はっきりとあるからこそできるわけで。
似たようなケースでいうと、
宮大工の小川三夫さんのところですね。
小川さんのところは徒弟制で、
住み込みでいっしょにやるわけですが、
10年経ったら、出て行ってもらうそうです。 |
しりあがり |
へええ。 |
糸井 |
出て行ってもらうというよりも、
10年経ったらもう「出て行ける」んですって。 |
しりあがり |
ああ、なるほど。
独り立ちできるまでになる。
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糸井 |
そうなんです。
そのかわり、食事も、住むのも、
いっしょじゃないとだめだっていうんですね。
通いでは、ものにならない。
でも、いっしょに住みながら10年やると、
いい大学を出てる人も、なんの知識もなかった人も、
みんな同じようにものになるそうです。
で、ひとりでも食えるように必ずして、
あとは、出て行け、と(笑)。
その必然性として小川さんが言うには、
「10年以上いると、女房もらうし、子どももできる。
そうすると、金がかかって、金が欲しくなる。
金が欲しくなられると、
うちじゃやっていけないから」って。 |
しりあがり |
はーー、そうか。はっきりしてますね。 |
糸井 |
ぼくは、埼玉にある、小川さんたちがつくった
お寺を見たことがあるんですけど、
もーのすごい建築なんですよ。
柱一本ずつの精度、現場のきれいさ、すべて。
で、これにいくらぐらいかかってるんですかって訊いて
びっくりしたんです。ものすごく安かった。
安かったっていっても、億単位の仕事ですけど、
もっともっとお金がかかっているように見えた。
それぐらいすごいものをつくってる。
なんでそんなに安くつくれるんですかって訊いたら
「お寺が、浄財を集めて払える範囲で、俺らは建てる。
だから安いと思う人は安いだろう。
でも俺たちは元が自分たちの仕事だけだから、
別に高いお金もらわなくても苦しくないんだよ。
そのかわり高い給料やるやつもいない」と。
そういう仕組みで回してるんですよ。 |
しりあがり |
ふ――ん。 |
糸井 |
そのかたちはね、参考になった。
もちろん、同じことはできないんですけどね。
でも、すごいことだと思いますね。
10年、いっしょにやることで育てるというのは。
なんていうか、弟子が弟子を教える仕組みなんです。
メソッドや授業みたいなものじゃなくて、
たとえば、鉋屑(かんなくず)を1枚渡す。
鉋をかけたときに、こういう屑が出るようになれ、と。
で、弟子は、その鉋屑が出るようになるまで、
研ぎ方を勉強するわけです。
そういうことを、弟子どうしが、
口伝えのようにして教えていく。 |
しりあがり |
それも、さっき話に出た、
「合宿で人を採る」というところと似てますね。
動きながらじゃないと、伝わらないというか。 |
糸井 |
それの最たるものですよね。
いっしょに生活してると、
ウソなんかぜんぶばれちゃいますからね。 |
しりあがり |
そうですね。 |
糸井 |
そういう話で言うと、土屋耕一さんっていう
コーピーライターの元祖みたいな人がいるんですけど、
この方は資生堂のアルバイト出身なんですね。 |
しりあがり |
へえ。 |
糸井 |
で、資生堂みたいな大きな会社って、
お酒とか、ビール券とか、
お歳暮やお中元が届きますよね。
だから、当時は、仕事終わりに
デザイナーさんたちがみんなで
ビール飲んで、何かつまむ、みたいなことが
よくあったそうなんです。
そういうときに、土屋さんは
デパートの地下街でおつまみを買ってくるっていう
おつかいをよくやっていたんですけど、
そこで買ってくるおつまみが
いちいちセンスがいいので、
それでバイトから社員になったっていうんです。 |
しりあがり |
あー、なるほど(笑)。 |
糸井 |
まぁ、もちろんそれだけじゃないでしょうけど、
「気の利いたおつまみを買ってくる」というセンスは
なんていうか、妙に信用できるじゃないですか。 |
しりあがり |
そうですよね。 |
糸井 |
ね。だって、オレも
そういう子と働きたいって思うもの。
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しりあがり |
それができる子はなんでもできそうだっていう。 |
糸井 |
そうそう。そういう気持ちになりますよね。 |
しりあがり |
そういう意味でいうと、
うちで重用するのはやっぱり
「幹事のできる人」ですね。 |
糸井 |
あー、それもわかるなぁ。 |
しりあがり |
今年の花見も、
新人に幹事をやらせようと思ってるんですけど、
幹事のできる人は、いいですね。
能力やスキルがどうこういう以前に。 |
糸井 |
完璧じゃなくてもいいんだよね。
失敗したときの、現場でのフォローとかね。
ああ、わかるなぁ、それ。
(続きます) |