目よ、泳げ。 そして、カツカレーを得よ。 しりあがり寿×糸井重里

第6回 会社という生態系。
糸井 聞いた話なんですけど、
ある会社に、ものすごく才能のある人がいるんです。
困ったときにその人に任せれば、
絶対になんとかしてくれるというような
誰しもがその才能を認めるような人で。
ところがその人は、人間的に、まあ、
たいへんに問題がある。
しりあがり ああ、はい(笑)。

糸井 それこそ、その人専用の部署をつくって、
一般の社員とは離しておかなきゃならないくらい
問題がある人がいるそうなんです。
しりあがりさんだったら、そういう人はどうです?
つまり、そういう才能ある問題児と、
ふつうの人がいるとして、社長としては、
どっちの人を採りたいですか?
しりあがり うちの会社ということであれば、
それほど悩まないです。
ふつうの人ですね。
というのは、うちの事務所は
超絶テクニックを必要としてないので(笑)。
糸井 ああ、なるほどね。
しりあがり ほかの一般的な会社はどうだかわかりませんけど。
でも、それは、社風というようなものよりも
採る人の決意とか、姿勢によるのかな、
という気もするんですけどね。
ぼくは、会社員時代に面接をして、
いまも学校で授業をしている関係で
どういう人を残すのか、みたいな場所に
居合わせることがあるんですけど、
やっぱり、「この人がいい」っていうのは
本当に、人によって違うんですね。
「伸びしろがある」とか、
「センスがいい」みたいな話になると、
どうしても意見は分かれるんです。
そうなると、けっきょく最後は、
「誰が面倒を見るのか」っていう話になるんです。
糸井 あーー、なるほど。
しりあがり 意見が分かれると、
最後の落としどころはそういうことになってしまう。
その人がいいのか悪いのか、
ぼくにはわかんないけど、
あの人が何年か面倒見るっていうんなら
それはいいですよ、みたいな。
実際にその人が面倒を見るシステムがなくても。
糸井 うん、わかる、わかる。
しりあがり だから、人間として問題がある人がいても、
その人の才能を認めて「面倒みる」っていう人がいたら
その人は採用されるんじゃないかな。
糸井 本当に、しりあがりさんは正直なことを言うね(笑)。
しりあがり そうですか(笑)。
糸井さんだったら、どうしますか。
その、才能ある問題児と、ふつうの人と。
糸井 ぼくはね、答えとしてはちょっと卑怯だけれども、
どっちでもいいんです。
どっちでもいいんですけど、
「人をバカにしない人」であればいい。
しりあがり 「人をバカにしない人」。
糸井 うん。つまり、超絶で、変わり者で、
もう、年中パンツ一丁で過ごすような人でもいいから。
しりあがり はははははは。

糸井 それでも、ほかの人をバカにしない人であれば、
おまえはそのままパンツ一丁で行けって言いますよ。
で、平凡でマジメなだけが取り柄っていう人でも、
平凡なまま、人をバカにする人っていますから。
しりあがり ああ、なるほど。
糸井 そっちのほうが重要ですよね。
他の人がやってくれたことに対して
ちゃんとありがとうって、言ったりね、
さっきの話じゃないけど、
失敗したときにちゃんと謝ったりね、
そういうことってほんとに大切だと思うんです。
しりあがり うん、うん。
糸井 もっというと、そういうことが大切なんだって
きちんと気づける人、ですね。
それができたらね、あとはもう、
どんなに変わり者でもなんとかなりますよ。
その人専用の部署でも座敷牢でもつくりますよ。
しりあがり はははははは。
糸井 もう、その場合の座敷牢は、経費です。
設備投資ですよ。
しりあがり いや、でも、まあ、座敷牢は大げさにしても、
そういう人を受け入れられなくなったら、
組織としてはつまらなくなるのかもしれないですね。
まあ、一長一短かもしれませんが、
昔の会社って、だめな人が
けっこういたじゃないですか。
糸井 そうそうそう。
しりあがり だめな人がいても、
その人の特技が活かせるように
ふつうの仕事を減らしてあげて
そのかわり別のところで助けてもらうような
仕組みが自然とできてたり。
糸井 まさに、会社という生態系として。
しりあがり そうですね。
糸井 いまのしりあがりさんの会社も、
そういう感じなんでしょうか。
しりあがり そういう自然な感じにしたいとは思ってるんです。
みんな、それぞれが好きなことやってるけど、
なんとなくそれがお互いに助けになってる、
みたいなのがいいなと思ってて。
かといって、自由にやらせることが
いちばんいいというわけじゃないと思うんです。
自由にさせるっていうのは
あくまで手段のひとつなんですよね。
厳しくしたほうが、みんなが働いて、
会社がうまくいくんだったら
厳しくしたほうがいいだろうし、
自由にやらせたほうが力を引き出せるんだったら
そうしたほうがいいと思うし。
糸井 うん、うん。
しりあがり そういう意味でいうと、
自由がいいとも、厳しいのがいいとも
いえないと思うんです。
糸井 しりあがりさんのところは、
自由にしているほうがうまく回るから、
そうしている、と。
しりあがり そうですね。
あと、もうひとつ、自由にしてもらってる理由としては
ぼくが、人に対して責任を持つのが苦手なんですね。
育てるとか、教育するとか。
糸井 うん、うん。
しりあがり なんていうのかな、こう、
「私の一生をどうするつもりですか」
みたいに言われるのがすごく苦手で(笑)。
だから、結果的に自由にしてもらっている
ということもあるんですけど、
それが逆に不自然だなと思うようなことも、
ここ2、3年、増えてきていますね。
糸井 その自然さをキープするのは
なかなかたいへんですからね。
でもそうしたい気持ちはよくわかるし、
ひょっとしたら、しりあがりさんの
社長としてのつぎのステップに、
ぼくや、いまの「ほぼ日」があるのかもしれない。
しりあがり ああ、そうですね。
糸井さんのところは、いま何人くらいですか?
糸井 いまはもう、30人以上になりましたね。
だから、ぼくはもう、
しりあがりさんのようにはできなくて、
会社らしくやる部分は、やるしかない。
しりあがり なるほど。
その覚悟がね、いるんですよね、やっぱり。
糸井 覚悟なのか、なんなのかわかりませんけど、
わかりやすいところでいうと、
人には家族ができますからね。
社員に子どもとか、できますから。
そうするとね、どこかにおもしろい人がいて、
その人に「うちの会社に来ない?」って誘うことが
以前ほどは気軽にできなくなりますよね。
だって、「うち来ない?」の延長に、
子どもがいるわけじゃないですか。
しりあがり ええ、ええ。
その子どももいっしょに雇ってるような。
糸井 そういう気持ちになりますよね。
で、またね、社員に子どもができたら
うれしいんですよ、これが。

しりあがり (笑)
糸井 子どもができたとか、結婚するとか、
いちいち「よかったなー」なんつって。
もうね、絵に描いたような中小企業の社長で。
しりあがり はははははは。

(続きます)


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2007-04-20-FRI

イラスト : しりあがり寿 (C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN