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糸井 |
就職そのものの話に戻りますけど、
しりあがりさんは、大学のときは
漫研(漫画研究会)にいたんですよね? |
しりあがり |
はい。 |
糸井 |
当時の漫研の人たち、先輩とか後輩は、
「働く」ということについて、
どういうふうに考えてたんですか。
目指す漫画の道と、就職とのあいだで
悩んだりしてたんでしょうか? |
しりあがり |
あ、そういう感じではなかったですね。
まあ、漫画を描こうと思ってた人は
ほんとに「漫画家になろう」と、
はじめから、考えていて。 |
糸井 |
漫画家として独り立ちしようと。 |
しりあがり |
ええ。独り立ちしようとしてましたし。
デザイン系の人はみんな、
ふつうに就職してましたね。
いきなりフリーっていう人は、
あんまりいなかったですね。 |
糸井 |
ということは、
しりあがりさんがさっきおっしゃった、
「就職課に入るときに肩で押す」みたいな
瞬間的な気合いの入れ方をして。 |
しりあがり |
うん、そうですね。 |
糸井 |
就職する、働くということが、
美大の漫研という、やや特殊な集団においても、
ふつうに意識されていたということですね。 |
しりあがり |
そうですね。
それが時代のせいなのか、なんなのか、
よくわかりませんけれども、
まあ、とにかく、
「どこかで働かないと食えない」というか、
「誰も助けてくれない」というのは、
もう、当たり前のように意識にありましたので、
みんな、なんだかんだ言いつつも
小さなデザイン事務所みたいなところに
入っていきましたね。
油絵やってる人は先生になったり。 |
糸井 |
ふーむ、そうですか。
売り手市場とか、買い手市場とかいわれますけど、
当時の学生にとっての状況はどうでした? |
しりあがり |
えっとね、いや、そんなにいいときじゃないです。
ぼくが入ったときのキリンビールは
47人しか採用していなかったんです。
多いときは、100人、200人って、
新卒を採ったりしてましたから、
それほどいいときじゃなかったと思います。 |
糸井 |
あ、そうですか。
じゃあ、いまの人たちと何が違うんでしょうね。 |
しりあがり |
ふつうに働こうと考える人と、
どこにも勤めずに自分の道に進もうとする人と、
両方がいるということは
いまと変わらないと思うんですけど、
目的ははっきりしていたと思いますね。
いまでいうところのフリーターとか
ニート的な人は、あまりいなかったというか。 |
糸井 |
ああ、そうですか。 |
しりあがり |
糸井さんはどうだったんですか。 |
糸井 |
ぼくは、してないんですよ、就職活動。
広告の講座に行って、そこの先生に気に入られて、
「糸井くんみたいなのがいっぱいいる会社があるよ」
って紹介されて、広告の事務所に入ったんです。
どっちかというと、働くことも、
働くために活動することも、いやでしたね。 |
しりあがり |
じゃあ、いま悩んでる人の
気持ちもわかるという感じですか。 |
糸井 |
いまの人たちほど
マジメに悩んではいなかったような気がしますね。
もっと、ぐーたらだったと思います。
ぼくが「ほぼ日」に就職のことを書いたあと、
就職活動をしている人たちから
たくさんメールが来たんですけど、
「自分のやりたいことがわからない」
みたいに、そもそものところで
悩んでいる人が多いんですよね。
ぼくは、まぁ、なんとかなるかな、
という感じでしたから。
だから、半分くらいは気持ちがわかるんだけど、
「働くのがいやだ」って、
働いてもいない人がマジメに言ってるのを聞くと
悩みとしてキレイすぎる気もするんです。 |
しりあがり |
そうですね。でも、働かなかったら
どうなるつもりなんですかね。
「働かなくていいや」とかっていう
問題じゃないような(笑)。 |
糸井 |
そういうふうに
学生のときに思えたしりあがりさんは
ちょっとだけオトナだったんですよ。 |
しりあがり |
あ、そうなんですか。 |
糸井 |
ほんとになんとかなると思えちゃうんですよ。
それは、ぼくもそうだったから。
で、悩まないかというと、悩むんですけどね。 |
しりあがり |
ああ、ええ。 |
糸井 |
で、先のことは、そんとき考えればいいかって。
‥‥あ、ここまで告白していいんだろうか。 |
しりあがり |
(笑)
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糸井 |
まぁ、でも、そういう人は、
昔もいまも変わらず
いるんじゃないかと思うんですけどね。 |
しりあがり |
ああ、そうなんでしょうね。
でも、ぼくは、やっぱり、
就職したときはうれしかったですね。 |
糸井 |
あ、そうですか。 |
しりあがり |
変な話、会社に行ったら、それだけで、
当時、月に14万くらいもらえて。
それまでって、ほんとに金なかったですから。
たとえば、あの、就職したあとって、
カレー屋に入って、迷いなく
カツカレー食えるわけですよ。 |
糸井 |
あ、カツを乗っけられるのね(笑)。 |
しりあがり |
そう。我慢しなくていいんですよ。
いちばん高いメニューでも、
食べたければスパーンって頼める。
あれ、ほんっとに幸せでしたね。 |
糸井 |
美大で漫画描いてて、
貧乏でないはずはないもんね。 |
しりあがり |
ええ。だから、カツカレーはうれしかったですね。
それ以上に、スポーツカーが欲しいみたいなことは
ぜんぜん思わないんですけどね。
やっぱり、カレー屋に入ったときに
カツカレーを食えない不自由さっていうのは
なにかすごく、いやだったですね。 |
糸井 |
映画とかも平気で観られるようになっちゃうでしょ。 |
しりあがり |
そうそう(笑)。 |
糸井 |
本も買えちゃうし。 |
しりあがり |
ええ。 |
糸井 |
そうか、そう聞くといいですね。 |
しりあがり |
だから働くことよりも、
なにかその、やっぱり‥‥。 |
糸井 |
得られるもの。 |
しりあがり |
ですよね。
あんまりカレーのことばっかり言うと、
何かあれなんですけど。 |
糸井 |
けっきょく、お前の人生はカツカレーかと(笑)。
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しりあがり |
そういうことになっちゃうのもあれですけど。 |
糸井 |
でも、リアリティーあるなぁ。
大事なことだよね、それはね。
(続きます) |