糸井
やっぱり、お金って、いろんなものを計る、
わかりやすい尺度なんですよね。
それを通して、
「自分にとって何が本当に大切なのか」
ということがわかったりする。
逆に、お金に不自由しているというだけで、
本当に大切にしてるものがなんなのかが
わからなくなったりもする。
しりあがり
うん、そうですね。
糸井
拝観料とか、就職の話だけじゃなく、
そういうことの連続なんですよ、きっと。
たとえば、ある人が
「やりたいことがある」って言って
会社を辞めようとしたときに
その人の奥さんが「生活はどうするんだ」って
反対したら、辞められませんよね。
それは、どっちが正しいという話じゃなくて、
「何が大切なのか」ということなんです。
だからやっぱり、ついてまわるのは、
「あなたは何を大切にしていますか」
っていう問題なんですよ。
しりあがり
あ、なんか、いま、
ちょっと自分でわかってきました。
糸井
あ、そうですか。
しりあがり
なぜ、ぼくがふつうに
サラリーマンとして就職したのか。
あの、ぼくはやっぱり、
トラブルがいやなんですよ。
糸井
トラブル。
しりあがり
はい。そこがぼくにとって「大切なこと」で。
あの、自分にお金がないとしたら、
トラブルとかわずらわしさが増えますよね。
誰かに借りるにしても、強がってみたり、
見栄を張ってみたり、ウソをついてみたり、
もしくは、貸したお金を返してもらいたくなったり。
そういうふうな、いろんな「無理」が、
お金がないと出てきちゃうぞって
予感したんじゃないかと思うんですよね。
糸井
なるほどなぁ。
その、「トラブルのない生活」が
しりあがりさんにとって大切だったんだね。
もしくは、「トラブルのない生活」を送りながら、
漫画を描き続けるということ。
しりあがり
そうですね。
カレーに乗せるカツがうれしかったり、
余計なトラブルがいやだったから、
ぼくは就職したときにうれしかったんですね。
そういうことのために、
会社に入りたいと思うのは
ぜんぜんおかしいことじゃないと思います。
糸井
そこまで深いところまでいって考えると
いろんなことがちゃんとわかってきますよね。
お金の問題にしても、概念じゃなくて、
きちんとカツカレーのレベルまで
つまり、自分の問題として考えないと、
闇雲に年収だけを比べてもしかたないですから。
しりあがり
そうですね。
糸井
ちょっと前にライブドアの問題なんかで、
たんにお金を比べるということが
意味のないことだというふうになりましたよね。
でも、それってやっぱり概念なんです。
数字としてのお金だけが真実じゃないぞ、
というところまではわかったんだから、
もうちょっと自分に即して、
「オレはこう考えているみたいだぞ」
っていう探し方をしたほうがいいのかもしれない。
だから、漠然とお金や就職を考えていると
よくわからなくなってしまうんだけど、
カレーのレベルまで引き寄せると、
お金の話もきちんと、腹に響く。
しりあがり
いや、ほんとそうです。
糸井
そうだよね。
しりあがり
逆に、それは違うんじゃないかなって感じるのが、
「自分の大切にしてること」じゃなくて、
自分の向き、不向きで適正を絞っていくという
就職セミナーなんかで言われるようなやり方で。
糸井
それは、就職系の会社がやっている
テストみたいなやつ?
しりあがり
そうですね。
自分がどの業界に向いているのか、
どの会社の、どの職種に適しているのかを、
自己診断やテストで絞っていくという。
糸井
ああ、それは、たしかに
考え方が逆のような気がしますね。
しりあがり
自分がそういう「向き、不向き」を
まったく考えなかったというのもあるんですけど、
そういうふうに適正で絞っていっても
ますますわからなくなるというか、
なにか、逃げていくものを
一生懸命つかまえようとするみたいで、
すごくむなしく感じるんですよね。
糸井
そうですね。
やっぱり、自分の問題として、
向き合わないとだめなんだと思いますよ。
みんなが悩み出したから
あわてて悩みはじめる、みたいなことになると
ますますわからなくなってしまう。
しりあがり
そうですね。
(続きます)
2007-04-25-WED
イラスト : しりあがり寿 (C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN