第5回 矢沢は、誰にも教わってない。

矢沢 うちの嫁さんがよく言うんだよ。
息子が大学出るころになって、
社会に出る準備をはじめるようになったら、
あなたは言うべきことがいっぱいあるだろうって。
経験したことがたくさんあるんだから、
教えてあげることがいっぱいあるだろうって。
糸井 うん、うん。
矢沢 そりゃ、あるんだよ。
いっぱいあるんだよ。
もう、一個一個教えてやりたいことがさ。
こういうことがあるぞ、
こういうことがあるぞって。
だけど、実際のところは、
俺が熱心に10のことを伝えても、
本人には2ぐらいしかわからないだろうなと思った。
それはどうしてかといったら、
実際に体験したわけじゃないから。
糸井 環境も違うしね。
矢沢 そう、環境も違うし、
リアリティーがないじゃん。
いくら言われても、
同じように失敗するかもしれない。
が、ゼロよりはいいかもしれない。
糸井 そうだね。
矢沢 そう思うんだよね。
俺には、誰も何も言ってくれなかったからね。
糸井 あー、それは、重要かもしれない。
永ちゃんは、誰にも教わってないんだ。
矢沢 何も教わってないんだよ。
ぼくはいつも、叩かれて、わかって、
叩かれて、わかって、そのくり返し。
だから、振り返ってみると、トラブルが多すぎた。
いっつもトラブルがあるの。
糸井 「そっち行くな」って、
言ってくれる人がいないんだね。
矢沢 いない、いない。
自分でやって、こっち行ってバコンって叩かれて、
こっち行って、またバコン。
糸井 なるほど。
矢沢 そういう意味じゃね、
じーっと、しとけばよかったの、俺。
糸井 (笑)
矢沢 じーっとしけば、叩かれることもなかったんだよ。
ところが、じーっとできないじゃん。
糸井 しかも、反対する人も、注意する人も、いない。
矢沢 ‥‥わかった。
だから、俺は変に見られちゃうんだよ。
糸井 オレもわかった、いま(笑)。
矢沢 だけどさ、そこがやっぱり俺らしいのかな。
糸井 思えばなんでもそうだよ。
キャロルの衣装にしたってさ、
ビートルズがデビュー前にやっていた、
古い時代の衣装じゃないですか。
あの革ジャンにリーゼントっていうスタイルをさ、
もしも誰かに相談してたら、
「おまえ、ビートルズはいまそうじゃないだろう、
 わざわざ古いの着ることないだろう」って、
注意されたかもしれないよ。
「いまは世の中、ヒッピーだぞ」みたいにさ。
矢沢 でも、あれはさ、
リーゼントと革ジャンだからよかったんだよ。
糸井 教えられて、相談したりして、
3日じっくり考えたら、
あれは、ダメですよ。
矢沢 ダメダメダメ。
糸井 ぼくがさっきから、
「この話は就職に関係あるよ」
って言ってるのは、そういうことなんだよ。
いまの若い人たちってみんな、
いろんなことを覚えすぎたり、教わりすぎて、
自分に、がんじがらめになってるんだよ。
矢沢 あー、そういうことか。なるほどね。
うん。俺の場合は、いなかったからね。
誰も教えてくれる人がいなかった。なんにも。
それで、叩かれて、叩かれて、傷ついて、傷ついて、
やっと覚えてくわけよ。
糸井 体験したことだけ、実感したことだけ、
身につけて学んでいってたんだね。

(続きます!)




写真:富永よしえ [Mild inc.]

2007-06-12-TUE