前回のおさらいをかねての季節のご挨拶。
「残暑がきびしいですね!」
さて、これは正しいでしょうか。
答え。正しいです。
まるで盛夏のような暑い日が続いていますけど、
もう「立秋」(ことしは8月8日[旧暦七月十五日]でした。)
を過ぎたので、これはもう「残暑」というのが正解です。
「立秋」は旧暦(太陰太陽暦)カレンダーにも記載されていた
「二十四節気」
(それは太陽の運行をもとにした季節の区切り)のひとつで、
(ちなみに、「立秋」とは
太陽黄経が黄経135度を通過する日をさします。)
天体観測にもとづくものなので、
新暦(西暦・グレゴリオ暦)になったからといって、
ことしの8月8日が立秋であることに、
まちがいはありません。
旧暦で使われていた、そのような日本語は
いっぱいあるのですけれど、なかには、
「旧暦の日付をそのまま新暦にしたために」
1か月以上も、ずれた感覚のままで
使われている言葉があります。
七夕もそうだし、「五月晴れ」もそうでした。
近松先生に、そういった言葉を、
もっと教えていただきましょう!
近松 |
そうですね、ふつうに使っている言葉で、
違和感があるといえば‥‥たとえばお正月の言葉ですね。
「新春」とか「初春」とか言いますよね? |
はい、年賀状に「初春のお慶びを申しあげます」
なんて、書きますよね!
近松 |
それ、なんだかおかしな感じがしませんか? |
ええ、まだすごく寒いうちに年賀状を書くので
春って言っても寒いよ〜、‥‥という気分になります。
近松 |
そうでしょう。じつは、江戸時代は、
いまの1月1日は、「初春」じゃ、ないんですよ。
これもまた、旧暦と新暦のあいだの、矛盾なんです。 |
‥‥ええっ!
と、すっかり忘れて驚いてしまいましたが、
「新暦のお正月と、旧暦のお正月は、
1か月以上もずれている」
ということは、すでに近松先生からおききしておりました。
すみません。
近松先生の調査によると、
平均して、現在の2月6日が旧暦の正月朔日(元日)。
この2月6日というのは、
二十四節気でいうと、「立春」の前後。
一年でいちばん寒いのが「大寒」から「立春」までで、
「立春」とはもうこれ以上寒くなりませんよ、
これからは、あたたかくなるばかりですよ、という、
一年でいちばん「うれしいしらせの日」なわけです。
(ちなみにこの日を過ぎて初めて吹く南風を
「春一番」と言います。)
そんな時期にやってくるのが、旧暦のお正月。
その気分で、この言葉をもう一度読んでみてください。
「初春のお慶びを申しあげます」
うんうん、なんだか、
「これからあたたかくなるぞ!」な気分に満ちて、
うれしくなっちゃいますよね。
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江戸時代には年賀状はなかった! |
日本の郵便制度は明治4年(1871年)に始まり、
江戸時代からの飛脚にかわって、
全国に普及がはじまったのは
明治5年(1872年)のことでした。
つまり、江戸時代には年賀状というものはなかったのです。
ひとびとは、年があけると「年始回り」をして、
そのときに「初春」という言葉を使ったのが、
年賀状に受け継がれていったのではないか、
と、近松先生はおっしゃいます。
江戸と明治は地続き。
かつて使っていた用語を、
そのまま使うようになったのでしょう、と。
しかし!
「旧暦の正月朔日(元日)」を、
約1か月の「時差」をむりやり縮めて、
「新暦の1月1日」としてしまったものだから、
「初春」という言葉も、時差を超えて、
まだまだ寒い「新暦の1月1日」に
使われるようになりました。
ちなみに来年(2007年)の1月1日は、
旧暦に換算すると、なんと、まだ、
平成十八年の11月13日!
これからどんどん寒くなるじゃない、という時期です。
そんな時期に「初春」とか「新春」って
ちょっと言いにくいですよね‥‥。
なお旧暦の平成十九年正月朔日(元日)は、
新暦の、2007年2月18日です。
立春は2月4日にあたるので、
胸をはって「もうすぐ春ですね」と言ってよし、
ということになります。
──というところで、今回はここまで。
次回は、「暦がないころ」というお話をおとどけします。
おたのしみに!
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