近松 |
日本に関して言えば、
旧暦を新暦に変えたことよりも大きな変化が
ここ10年、20年ぐらいであると思います。
本当に大きいと思いますよ。
どんな点かといえば、
「外から入ってくるものの受け入れ方」です。
明治時代のころでも、それでも
過去のものを生かしながら
新しいものを入れるということをしてましたが、
ここ最近20年くらいは、
もう、外のものを「そのままストレートに」です。
文化をいれかえちゃう、というくらいの勢いです。 |
糸井 |
博物館の方が言うと、重みがありますね。
その言葉は。 |
近松 |
いやいや。(笑)
博物館にいたからではなくて、
江戸〜明治〜現在の流れに
普通の人よりちょっと詳しいからかもしれません。 |
糸井 |
なるほどなるほど。 |
近松 |
さきほどの、大工さんの話に関連させましょう。
明治時代にヨーロッパから、
新しい建築が入って来ました。
ところが実際に新しい建築方法で建物を
建てなければならなかったのは、
ずっと日本式の工法で建物をつくってきた、
日本の大工さんです。
そこで、その新しい建築方法を学び取って、
自分の持ってる智慧をそそいで、
そうして作った建物には、
両方のいいところが出るんです。
さらにいえば、和洋折衷にして
それでも足りないところは、
独自の付け足しまでするんですね。
それは、おそらく、日本の歴史的に見ますと、
明治時代だけではなくて、
もっと昔から、大和朝廷、それ以前から、
それまでの文化を捨てて、
新しいものを入れるということは
してこなかったと思うんですよ。
在来の文化を生かしながら、
新しいものを入れて、
それからまた新しいものを作っていく、
という文化を形成していってるんですよ。
われわれの祖先は。
明治まではたぶん普通に続いたと思うんですけど、
現在は
「いままである文化を生かしながら」という
プロセスがなくなって、
ストレートに入れてくるというふうに見えるんです。 |
糸井 |
壊して、建てる、みたいになってますよね。 |
近松 |
今までの全部否定して、新しいものを
ストレートに入れてきてしまったので、
今になって、その居心地の悪さに気がついて、
最近は揺り戻しがきてるのかな?
とおもうことが多くあります。
「古いものは」なんてこと、
言い出したような気がするんですよ。 |
糸井 |
その、なんて言うんだろう、
今の時代だと、たとえば人が、
たとえば歯ブラシなら歯ブラシの工場ができて、
毛を植えるのにどう苦労したかとか経験を積むでしょ。
でも、全然違うところから、
その歯ブラシ工場を買うぞ、という人があらわれて、
工場はぽーんと売られてしまう。
そうすると、その歯ブラシ工場に勤めてた人が
持っている経験というのが、
根絶やしになっちゃう可能性がありますよね。
「経験」も「時間」も白紙にもどる。
でも、先生がおっしゃったような意味で、
この「経験」と「時間」が
引き継げたらって思いますよね。 |
志の輔 |
だから、太陰太陽暦から太陽暦に変えずに
併用すればよかったんじゃないですかね。
ほんとうに。
旧暦のいい部分も「引き継ぐ」ってことが
できたんだと思う。
アメリカなんかですよ、悪いのは。(笑)
冗談ですけど。 |
糸井 |
でも、本当にそうなんですよね、
きっとね。
だって、バベルの塔は壊れたんですもの。
全部一緒にしようっていうのは、
無理だっていうことは、
もう大昔の人からわかってるんですよね。 |
志の輔 |
いい。いいよ、この師匠。 |
近松 |
まだ若いんですよ、アメリカは。 |
糸井 |
そうだ。
国としての若さってありますよね、
当然ね。 |
近松 |
それで焦ってるように思えるんですね。 |
糸井 |
その真似をしてる日本というのは、
どうも、いいものを捨てちゃってますね、
やっぱりね。
これから、だからアメリカは中国とつきあって、
さんざん懲りるんじゃないですかね。
わかんねえよ、みたいな。
日本みたいに融通きかないから。 |
近松 |
したたかですからね、あそこは。 |
糸井 |
で、さんざん懲りて、「日本は良かった」。(笑)
だからアメリカの人たちは、
ほら、ぶつかるの前提で
いろんな人が混じってる国だから、
一番調整しやすい共通認識というのを、
人工的に作りますよね。
あれを世界に当てはめようとするんですよね。 |
近松 |
契約書なんかを。 |
糸井 |
契約書。 |
近松 |
日本の契約書は、不都合が生じた時は、
双方誠意を持ってやりますよ。
これは、アメリカには絶対ないことです。
細かいところまで詰めていかないと、
調整つかないです。 |
糸井 |
そうですね。
イギリスは、
やっぱりそのへんわかってるんですかね。
アメリカとは違いますよね。 |
近松 |
やっぱり伝統がありますからね。
伝統というのはすごいことですよ。 |
糸井 |
大丈夫ですよね。(笑) |
志の輔 |
今度逆に、中国は伝統を背負いすぎて
またどうにもなんないつらさが有るようにみえますね。 |
近松 |
中国、そうですね。 |
志の輔 |
うん。歴史なんだかを
こう背負っちゃって。 |
近松 |
そうとも言えるんですが、
その逆ともいますよ。
中国っていうのは、破壊の歴史なんですね。
新しい王朝が来ると、
前の王朝の文化なんかは徹底的に破壊します。 |
糸井 |
焚書坑儒の歴史ですから。 |
志の輔 |
そうか、そうか。 |
近松 |
でも、日本って不思議で、
いままであるものを
決して破壊したりはしない文化なんですよ。
一番象徴的なのは、
皇室のことかもしれません。
古くからある血筋をずーーーーっと残すんです。
ふつうは無いことでしょう? |
志の輔 |
そうか。 |
糸井 |
それを意識的にやってきたんですもんね。 |
志の輔 |
本当だ、本当だ。 |
糸井 |
徳川から今までもね。 |
近松 |
中国だったら、鎌倉幕府、江戸幕府、
そして、明治維新の段階で全部それ以前のものは
破壊してますでしょ?
でも、日本は違いますよ。
一番古い皇室まで残ってるわけですから。
明治維新のときだって、
江戸を破壊し尽くしたわけではないでしょう?
不思議な国なんですよ。そう見れば。 |
|
糸井 |
そうですね。 |
近松 |
たとえば、戦国武将たちの子孫だって
残ってますよね。
スケート選手は、織田家ですよね。 |
糸井 |
ほう、そうだ。
南朝天皇の末裔だとか、
全部いるんですもんね。 |
近松 |
安徳天皇の子孫も出てきてますし。 |
糸井 |
そうかと思うと、将門の墓とか、大事にしちゃうしね。
あ、そうか。あんまりひどいことすると、
逆恨みするっていうこともあるんですね。 |
近松 |
「たたり」ですね。 |
糸井 |
たたりですね。たたり信仰が当然あるから。
だから、追いつめないよね。
おもしろいなあ。 |
志の輔 |
だいたいの話って、残すほうが高くつくんだよ、
という一言なんですよね。
何が高くつくって。
いや、その負の歴史まで含めて資産なはずなのに。
いやあ、ありがとうございました。
こんな話、若い時にできたらまた違ったろうなあ。 |
糸井 |
年寄りのいる会社はね、幸せよ。 |