近松 |
日本の場合ははっきりした
四季があるものですから、
大陸から暦がはいってくるまでは
日本独自の暦っていうものはありませんでした。 |
糸井 |
体感的に、景色を見ていれば、
今がどんな季節なのか、
ということはわかりますものね。 |
近松 |
いわば、「自然暦」ですからね。
まわりを見ていれば、カレンダーを見なくても、
そろそろあれ蒔こうか、なんてことが
すぐにわかっちゃう。 |
糸井 |
農業をやっている人たちと話してると、
なんとかっていう鳥が庭に来るようになったから、
何の種蒔くべとかって、
動物が知らせに来ますよね。
あれで、きっと済んでたんですね。 |
|
近松 |
済んできたはずなんですよ。 |
糸井 |
雲の形が変わったとか。 |
近松 |
だから、日本では体系的な暦はできなかった。 |
志の輔 |
ほんと、
必要なかったんでしょうね。 |
近松 |
日本で暦が必要になった要因は「政治」です。
大和朝廷ができて、政権ができると、
多くの人に対して、
1つの行動を起こさせなきゃいけない。
たとえば、税を納めるということです。 |
糸井 |
管理ですね。 |
近松 |
何月何日までに、と言わないと、
税も集めようがないんですよ。 |
志の輔 |
じゃあ、アナーキーな考え方を持ってる人は、
今でも、カレンダーなんか俺は見てねえんだ、って。
あ、俺だよ。(笑) |
糸井 |
志の輔さんは、今日は何日の何曜日か知ってます? |
志の輔 |
ええ。何曜日かはすごくよくわかりますよ。 |
糸井 |
それはなぜですか。 |
志の輔 |
それはレギュラー番組なんかが
ありますから。 |
糸井 |
レギュラーもんが。
暦になるんですね。(笑) |
志の輔 |
でも、「何日です」、
が、わからないです。 |
糸井 |
今、平成何年か知ってます? |
志の輔 |
‥‥‥。 |
糸井 |
これ、自分もそうだからわかるんですけど、
暦にいい加減な人って、
とことんいい加減で、
日付に関して本当に無頓着ですよね。 |
志の輔 |
いやいや、俺はライブをやってるわけでしょう。
その日にちがいつだかっていうのは、
もちろんわかってますよ。
ライブさえなければ、もう日にちもいらない。
本当に。(笑) |
ほぼ日 |
でも、志の輔師匠、
落語で季節と関係するネタがあるじゃないですか。
その切り替えっていうのは、
どのタイミングでするんでしょうか。
そろそろこういうネタだな、みたいな。 |
志の輔 |
いや、ルールがあるわけじゃあないですよ。
でも、少なくとも気をつけてるのは、
桜が終わってから、桜ネタだけやらないように、
というのはありますよ。 |
糸井 |
だとすると。
東京では桜がおわってても、
東北ではやってよかったりしますよね。 |
志の輔 |
ああ、そうそうそう。
もう桜前線の先取りをしてるようなものです。
ウーン、でも落語の季節は……
まあ今は完全に太陽暦でやってはいますけど、
『青菜』という、「打ち水をする」というあの落語は、
やっぱり6月、梅雨が明けてからだなあ、
とかっていうのは、決めてますけどね、
自分で。 |
糸井 |
景色としていいですね。
じゃあ、自分で決めていいものなんですね。 |
志の輔 |
ええ、ええ。 |
糸井 |
なるほどね。落語はそうなんですね。
今、お話をきいてて、あと季節感が大事なものとして、
俳句がありますけど、
俳句の世界はどうしてるんだろうな、と思って。
つまり、今日句会をやりますよ、と言うときに、
ここが青森で、桜は今咲く頃だけど、どうでしょう、
って成立するんですかね?
だって、江戸ではもう桜終わってますよね。 |
近松 |
「歳時記」というものがありますよね。
俳句の。
あれは、旧暦のままなんです。 |
糸井 |
はあ。ということは? |
近松 |
私も俳句に関して、
詳しいことわからないんですが、
暦に関していいますと。
日本政府は、
明治5年に旧暦から新暦に変えたんですけれども、
そのときに、歳時記も変えろとか、
行事も新暦に合わせろとか
なにも言わなかったんですよね。
ただ、暦を変更します、というだけでした。 |
糸井 |
そうですか! いまだに、そのまま? |
近松 |
いまだに、俳句なんかは、そのまま
旧暦でやっているはずですね。 |
糸井 |
なるほどね。
それにしても、
その季語っていうことを考えること自体が、
非常に変化のある国に、場所にいるからこそで。
それこそ、イスラムの人に、
「何月ですか、お寒うございます」って言ったって、
全然ダメだよね。
春もへったくれもないよね。
季語があるだけですごいなあ。 |
志の輔 |
太陰太陽暦のまんまで、
太陽暦を脇に置いとけばよかったんじゃないですか?
変更しちゃう必要はなかったんじゃないですか?
だって、ぼくらの感覚は
いまだって、太陰太陽暦を知っちゃうと
しっくりくるじゃないですか。
太陽暦って、つまり、貿易のための暦じゃないですか。
貿易するのに便利だからって
導入したんでしょ? |
糸井 |
おお、強気でしたね、今。 |
志の輔 |
ええ。いやいや、だってアメリカなんかにいわれて
変えたんですよ、たぶん。当時。 |
近松 |
貿易ばっかりじゃないんですよね。 |
志の輔 |
あ、なんか他にありますか。 |
近松 |
他には、お役人さんの給料。 |
志の輔 |
給料ね、明治に暦を替えたときに、
いろいろあって、
1カ月分助かっちゃったって
例の話ですね。 |
糸井 |
大騒動が起きた、
というような話はあまり聞いてないですが、
どうなんですか。 |
近松 |
大騒動が起きてなかったのは、
ある意味では、太陽暦の要素が
生活の中に入ってたからでしょうね。 |
志の輔 |
言われてみりゃ、たとえば今でも突然、
「臨時ニュースでございます」と言って、
「政府が明日を
1月1日ということにすることにしましたので、
経済的に助かるので、
明日から平成19年のでございます、ごめんなさい」
って言われたとしても、
「冗談じゃないよ」
って言いながらも、
1月1日っていうふうにもう書いてしまえば、
その日が1月1日ですわね。
それほど、だから逆に、日付なんていらないもんだ、
ということでもありますね。 |
近松 |
人類が誕生してから、何万年といわれていますが、
日付が必要になった状態って、
ここ何千年かの話ですよね。
それよりもずーっと前から人類はいたけど、
日付は必要なかったですよ。 |
糸井 |
ずっとこのところ興味があるんですが、
人間の文字出現以降の歴史についてばっかり
語られがちだけど、
それ以前の文化の方が圧倒的に長いんですよね。
言われてみれば。
その文字以前から伝承されてた
踊りだとか、歌だとか、
もっとこうアピールしたいものですね。
遠いですけど、何かですよね。 |
近松 |
そうなんですよ。見てみたいんですよね。 |
志の輔 |
時間だ、カレンダーだって、
いろんなことを掲げても、
人類が生きてきた長い年月を考えると、
平安時代の人が見てたことと、
いまでは、実は何も変ってないんですよね。 |
近松 |
その1000年という時間というのは、
自然の長い中、本当にわずかです。 |
糸井 |
そうですね。 |