むかしの暦で、いまを楽しむ。 旧暦と暮らす「ほぼ日」の12か月。
2007-01-05-FRI
旧暦:十一月十七日
日付なんかいらない?


近松 日本の場合ははっきりした
四季があるものですから、
大陸から暦がはいってくるまでは
日本独自の暦っていうものはありませんでした。
糸井 体感的に、景色を見ていれば、
今がどんな季節なのか、
ということはわかりますものね。
近松 いわば、「自然暦」ですからね。
まわりを見ていれば、カレンダーを見なくても、
そろそろあれ蒔こうか、なんてことが
すぐにわかっちゃう。
糸井 農業をやっている人たちと話してると、
なんとかっていう鳥が庭に来るようになったから、
何の種蒔くべとかって、
動物が知らせに来ますよね。
あれで、きっと済んでたんですね。
近松 済んできたはずなんですよ。
糸井 雲の形が変わったとか。
近松 だから、日本では体系的な暦はできなかった。
志の輔 ほんと、
必要なかったんでしょうね。
近松 日本で暦が必要になった要因は「政治」です。
大和朝廷ができて、政権ができると、
多くの人に対して、
1つの行動を起こさせなきゃいけない。
たとえば、税を納めるということです。
糸井 管理ですね。
近松 何月何日までに、と言わないと、
税も集めようがないんですよ。
志の輔 じゃあ、アナーキーな考え方を持ってる人は、
今でも、カレンダーなんか俺は見てねえんだ、って。
あ、俺だよ。(笑)
糸井 志の輔さんは、今日は何日の何曜日か知ってます?
志の輔 ええ。何曜日かはすごくよくわかりますよ。
糸井 それはなぜですか。
志の輔 それはレギュラー番組なんかが
ありますから。
糸井 レギュラーもんが。
暦になるんですね。(笑)
志の輔 でも、「何日です」、
が、わからないです。
糸井 今、平成何年か知ってます?
志の輔 ‥‥‥。
糸井 これ、自分もそうだからわかるんですけど、
暦にいい加減な人って、
とことんいい加減で、
日付に関して本当に無頓着ですよね。
志の輔 いやいや、俺はライブをやってるわけでしょう。
その日にちがいつだかっていうのは、
もちろんわかってますよ。
ライブさえなければ、もう日にちもいらない。
本当に。(笑)
ほぼ日 でも、志の輔師匠、
落語で季節と関係するネタがあるじゃないですか。
その切り替えっていうのは、
どのタイミングでするんでしょうか。
そろそろこういうネタだな、みたいな。
志の輔 いや、ルールがあるわけじゃあないですよ。
でも、少なくとも気をつけてるのは、
桜が終わってから、桜ネタだけやらないように、
というのはありますよ。
糸井 だとすると。
東京では桜がおわってても、
東北ではやってよかったりしますよね。
志の輔 ああ、そうそうそう。
もう桜前線の先取りをしてるようなものです。
ウーン、でも落語の季節は……
まあ今は完全に太陽暦でやってはいますけど、
『青菜』という、「打ち水をする」というあの落語は、
やっぱり6月、梅雨が明けてからだなあ、
とかっていうのは、決めてますけどね、
自分で。
糸井 景色としていいですね。
じゃあ、自分で決めていいものなんですね。
志の輔 ええ、ええ。
糸井 なるほどね。落語はそうなんですね。
今、お話をきいてて、あと季節感が大事なものとして、
俳句がありますけど、
俳句の世界はどうしてるんだろうな、と思って。
つまり、今日句会をやりますよ、と言うときに、
ここが青森で、桜は今咲く頃だけど、どうでしょう、
って成立するんですかね?
だって、江戸ではもう桜終わってますよね。
近松 「歳時記」というものがありますよね。
俳句の。
あれは、旧暦のままなんです。
糸井 はあ。ということは?
近松 私も俳句に関して、
詳しいことわからないんですが、
暦に関していいますと。
日本政府は、
明治5年に旧暦から新暦に変えたんですけれども、
そのときに、歳時記も変えろとか、
行事も新暦に合わせろとか
なにも言わなかったんですよね。
ただ、暦を変更します、というだけでした。
糸井 そうですか! いまだに、そのまま?
近松 いまだに、俳句なんかは、そのまま
旧暦でやっているはずですね。
糸井 なるほどね。
それにしても、
その季語っていうことを考えること自体が、
非常に変化のある国に、場所にいるからこそで。
それこそ、イスラムの人に、
「何月ですか、お寒うございます」って言ったって、
全然ダメだよね。
春もへったくれもないよね。
季語があるだけですごいなあ。
志の輔 太陰太陽暦のまんまで、
太陽暦を脇に置いとけばよかったんじゃないですか?
変更しちゃう必要はなかったんじゃないですか?
だって、ぼくらの感覚は
いまだって、太陰太陽暦を知っちゃうと
しっくりくるじゃないですか。
太陽暦って、つまり、貿易のための暦じゃないですか。
貿易するのに便利だからって
導入したんでしょ?
糸井 おお、強気でしたね、今。
志の輔 ええ。いやいや、だってアメリカなんかにいわれて
変えたんですよ、たぶん。当時。
近松 貿易ばっかりじゃないんですよね。
志の輔 あ、なんか他にありますか。
近松 他には、お役人さんの給料。
志の輔 給料ね、明治に暦を替えたときに、
いろいろあって、
1カ月分助かっちゃったって
例の話ですね。
糸井 大騒動が起きた、
というような話はあまり聞いてないですが、
どうなんですか。
近松 大騒動が起きてなかったのは、
ある意味では、太陽暦の要素が
生活の中に入ってたからでしょうね。
志の輔 言われてみりゃ、たとえば今でも突然、
「臨時ニュースでございます」と言って、
「政府が明日を
 1月1日ということにすることにしましたので、
 経済的に助かるので、
 明日から平成19年のでございます、ごめんなさい」
って言われたとしても、
「冗談じゃないよ」
って言いながらも、
1月1日っていうふうにもう書いてしまえば、
その日が1月1日ですわね。
それほど、だから逆に、日付なんていらないもんだ、
ということでもありますね。
近松 人類が誕生してから、何万年といわれていますが、
日付が必要になった状態って、
ここ何千年かの話ですよね。
それよりもずーっと前から人類はいたけど、
日付は必要なかったですよ。
糸井 ずっとこのところ興味があるんですが、
人間の文字出現以降の歴史についてばっかり
語られがちだけど、
それ以前の文化の方が圧倒的に長いんですよね。
言われてみれば。
その文字以前から伝承されてた
踊りだとか、歌だとか、
もっとこうアピールしたいものですね。
遠いですけど、何かですよね。
近松 そうなんですよ。見てみたいんですよね。
志の輔 時間だ、カレンダーだって、
いろんなことを掲げても、
人類が生きてきた長い年月を考えると、
平安時代の人が見てたことと、
いまでは、実は何も変ってないんですよね。
近松 その1000年という時間というのは、
自然の長い中、本当にわずかです。
糸井 そうですね。 

(続きます。)

イラストレーター:玉井升一
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