志の輔 |
昔ね、満月の夜に、村人たちがみんなでゴザ敷いて、
酒持ってきて、みんなで句を作ってるんです。
そこに、芭蕉が通りかかるんです。
「私も一句詠ませていただくと、
一杯ご馳走になれますかね」ってね。
村人は芭蕉だって知らないんですよ。
で、村人もさ、
「ああ、いいよ」って言うわけですよ。
「じゃ、なんかやってみなよ」って言われた時に、
その芭蕉が、おもむろに短冊に、
「三日月の」ってこう短冊に書いたら、
村人がみんな見て、
「バカでねえか、お前、満月の夜に三日月の、って。
ダメだ、この百姓は」
って言ってたら、
芭蕉はすかさずね。
「……頃より待ちし今宵かな」
って書いたら、
「この人、うまいなあ」って、
(笑)言い出した。
この話、お客さんにぱっと伝わるんですよ。
やっぱりその三日月と
三日月から満月になるあいだの
月夜の状態があたまに浮かぶんでしょうね。
みんな笑うわけですよ。 |
糸井 |
その間(ま)がいいですねえ。 |
志の輔 |
だから、太陽暦だけで過ごしていたら、
そんな話は生まれないだろう、
って気がする。
月は生活と関係なくなっちゃうからね。 |
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近松 |
はい。 |
志の輔 |
「今宵かな」って言ったら、
「このおじさんはうめえな」って、
その、なんともいえない一瞬のうちに
連帯感というか、なんかありますよね。 |
糸井 |
つかみ方がやっぱり見事ですねえ。
そうか。
月を見る、ということをしていれば、
自然に旧暦になじんだ暮らしに近くなる、と。
ところで、
ムーンフェイズの時計とか、あれ流行ってるじゃない。
あれ、してる人って、見てるのかね。みんな。 |
ほぼ日 |
いや、飾りだと思います。
ちょっとかわいいとか、
きれいとかじゃないでしょうか。 |
糸井 |
コウモリみたいでかわいいよね、
っていうようなことか。
でも、今日の話きいてると、
ムーンフェイズもいいな、
と、ちょっと思いましたね。 |
志の輔 |
太陽だと、バイオリズムはできそうにないですけど、
人体に水分がこんだけあるんだから、おそらく……。
月の満ち欠けにはなにかあるでしょうね。
月の満ち欠けをみているほうが、
今日は調子がいいだとか、
わかりそうですもんね。
朝のワイドショーの星占い見るよりは、
絶対こっちのほうを見てたほうが、
たぶん役に立つんでしょうね。 |
糸井 |
俺は今までそれを考えてみたことがない。
(笑)損した。 |
ほぼ日 |
女性誌なんかで星占いなんかに、
ダイエットとムーンダイアリーとかって
よくありますよね。
だから、新月だからダイエットをはじめて、
満月まで頑張って、そこからゆるくしましょう、
とか、結構あるんですよね。 |
糸井 |
男性誌にはないね。こう新月に欲情するとか。(笑) |
ほぼ日 |
男性でも、ありそうですよね。 |
糸井 |
本当はないことはないだろうね。
狼男が満月の夜に変身する、
じゃないですけど、あるはずですよね。
出産は、どっちだっけ。満月…だったよね。
引く力なんだから、そうだね。 |
志の輔 |
ところで、
糸井さんのところは、社員何人いるんでしたっけ。 |
糸井 |
30人くらいですね。 |
志の輔 |
30人の人たちと、
毎月満月の夜に、毎月ってまあ毎月ですね。
満月の夜に会合をやったら、
それを1年でも続けたら、おもしろいでしょうね。 |
糸井 |
糸井事務所の満月の会。 |
志の輔 |
それこそ本気に。
別にその会ではなにを話してもいいんですよ。
たとえば、
「なんかない? 企画、おもしろいの」
と言ってるだけでも、
なんか満月の夜にやっていくと、
あるいは新月の夜だけにやっていくと。 |
糸井 |
リズムが1つできますよね。
で、理にかなってるはずですよね。
師匠の満月の会のお客さんは
普段とちがうなあ、とか感じることは
なにかあったんですか? |
志の輔 |
いや、お客さんというより、僕のほうが‥‥。
僕の満月の会は都合12回やりましたけど、
「今日はもういいや、やりたくないよ」と思ったときは
1回もなかったんですよ。それは不思議。
ほかの会でやるのは、ひとつきおきくらいで、
いやになったりするんです。(笑)
でも、満月の会は1年でやめる、
ってことを区切ってたせいもあるかもしれないけど、
そうならなかったんですよ。 |
糸井 |
なるほどね〜。うん。いいですね。
月に合わせてなんか企画するとか、
考えるっていう発想は普段しないだけに、
ちょっと慣れてみたいですね。 |
志の輔 |
「じゃあ次回の会議は、次の満月ということで」
みたいな、そうやってみんな解散して。
満月だけ覚えとけよ、と。 |