むかしの暦で、いまを楽しむ。 旧暦と暮らす「ほぼ日」の12か月。
2006-12-26-TUE
旧暦:十一月七日
太陽より身近だったのは月?


志の輔 昔ね、満月の夜に、村人たちがみんなでゴザ敷いて、
酒持ってきて、みんなで句を作ってるんです。
そこに、芭蕉が通りかかるんです。
「私も一句詠ませていただくと、
 一杯ご馳走になれますかね」ってね。
村人は芭蕉だって知らないんですよ。
で、村人もさ、
「ああ、いいよ」って言うわけですよ。
「じゃ、なんかやってみなよ」って言われた時に、
その芭蕉が、おもむろに短冊に、
「三日月の」ってこう短冊に書いたら、
村人がみんな見て、
「バカでねえか、お前、満月の夜に三日月の、って。
 ダメだ、この百姓は」
って言ってたら、
芭蕉はすかさずね。
「……頃より待ちし今宵かな」
って書いたら、
「この人、うまいなあ」って、
(笑)言い出した。
この話、お客さんにぱっと伝わるんですよ。
やっぱりその三日月と
三日月から満月になるあいだの
月夜の状態があたまに浮かぶんでしょうね。
みんな笑うわけですよ。
糸井 その間(ま)がいいですねえ。
志の輔 だから、太陽暦だけで過ごしていたら、
そんな話は生まれないだろう、
って気がする。
月は生活と関係なくなっちゃうからね。
近松 はい。
志の輔 「今宵かな」って言ったら、
「このおじさんはうめえな」って、
その、なんともいえない一瞬のうちに
連帯感というか、なんかありますよね。
糸井 つかみ方がやっぱり見事ですねえ。
そうか。
月を見る、ということをしていれば、
自然に旧暦になじんだ暮らしに近くなる、と。
ところで、
ムーンフェイズの時計とか、あれ流行ってるじゃない。
あれ、してる人って、見てるのかね。みんな。
ほぼ日 いや、飾りだと思います。
ちょっとかわいいとか、
きれいとかじゃないでしょうか。
糸井 コウモリみたいでかわいいよね、
っていうようなことか。
でも、今日の話きいてると、
ムーンフェイズもいいな、
と、ちょっと思いましたね。
志の輔 太陽だと、バイオリズムはできそうにないですけど、
人体に水分がこんだけあるんだから、おそらく……。
月の満ち欠けにはなにかあるでしょうね。
月の満ち欠けをみているほうが、
今日は調子がいいだとか、
わかりそうですもんね。
朝のワイドショーの星占い見るよりは、
絶対こっちのほうを見てたほうが、
たぶん役に立つんでしょうね。
糸井 俺は今までそれを考えてみたことがない。
(笑)損した。
ほぼ日 女性誌なんかで星占いなんかに、
ダイエットとムーンダイアリーとかって
よくありますよね。
だから、新月だからダイエットをはじめて、
満月まで頑張って、そこからゆるくしましょう、
とか、結構あるんですよね。
糸井 男性誌にはないね。こう新月に欲情するとか。(笑)
ほぼ日 男性でも、ありそうですよね。
糸井 本当はないことはないだろうね。
狼男が満月の夜に変身する、
じゃないですけど、あるはずですよね。
出産は、どっちだっけ。満月…だったよね。
引く力なんだから、そうだね。
志の輔 ところで、
糸井さんのところは、社員何人いるんでしたっけ。
糸井 30人くらいですね。
志の輔 30人の人たちと、
毎月満月の夜に、毎月ってまあ毎月ですね。
満月の夜に会合をやったら、
それを1年でも続けたら、おもしろいでしょうね。
糸井 糸井事務所の満月の会。
志の輔 それこそ本気に。
別にその会ではなにを話してもいいんですよ。
たとえば、
「なんかない? 企画、おもしろいの」
と言ってるだけでも、
なんか満月の夜にやっていくと、
あるいは新月の夜だけにやっていくと。
糸井 リズムが1つできますよね。
で、理にかなってるはずですよね。
師匠の満月の会のお客さんは
普段とちがうなあ、とか感じることは
なにかあったんですか?
志の輔 いや、お客さんというより、僕のほうが‥‥。
僕の満月の会は都合12回やりましたけど、
「今日はもういいや、やりたくないよ」と思ったときは
1回もなかったんですよ。それは不思議。
ほかの会でやるのは、ひとつきおきくらいで、
いやになったりするんです。(笑)
でも、満月の会は1年でやめる、
ってことを区切ってたせいもあるかもしれないけど、
そうならなかったんですよ。
糸井 なるほどね〜。うん。いいですね。
月に合わせてなんか企画するとか、
考えるっていう発想は普段しないだけに、
ちょっと慣れてみたいですね。
志の輔 「じゃあ次回の会議は、次の満月ということで」
みたいな、そうやってみんな解散して。
満月だけ覚えとけよ、と。

(続きます。)

イラストレーター:玉井升一
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