メールを読みます。その2

ほぼ日
では、次のメールに行きます。
こんどはスクロールをゆっくりします。
町田
これおもしろそやな。出だしが。
友森
出だし(笑)?
町田
酪農をやってらしゃるそうです。
動物満載でいいですね。

酪農をやっている我が家にとって、
犬は欠かすことのできない存在です。
いまも2匹のおじいちゃんが元気いっぱい
つとめを果たしてくれています。
ですがこれは、そんな2匹の前にいた犬の思い出です。

それまでいわゆる「雑種」と呼ばれる犬しか
飼ったことのなかった我が家に、
血統書つきのゴールデンレトリバーがやってきたのは、
私がまだ中学生の頃。

でも血統書つき‥‥なーんて犬本人には関係なくて、
我が家に来て早々に汚れた牛舎の中でハシャぎ、
あっという間に藁と牛臭さにまみれた彼。
愛嬌たっぷり、でも穏やかで賢く
ほんとうに優しい犬でした。

「銀二郎」と名づけました。
自宅敷地内に放して飼っていたのですが、
どんなに自由でも、
ニンゲンの家の玄関が開けっ放しでも、
その敷居をまたぐことはありませんでした。
だけどそんな彼が一度だけ、
その玄関をくぐり、家の中まで入ったことがあります。

その日、家の中には足の自由が利かず、
車椅子で生活をしていた祖父だけがいました。
その祖父の足元まで彼は進み、
そして何度か頭をなでてもらい、
また玄関から外に出ていったそうです。

祖父は犬が好きでした。
でも老いて体の自由が利かなくなってからは、
犬にふれることはありませんでした。
だから銀二郎が家の中まで入ってきたことに
とても驚いてはいたけれど、
同じくらいたのしそうにうれしそうにしていました。
そしてその数日後、車椅子に座ったまま
祖父は静かに息を引き取りました。

銀二郎には祖父に残された時間が少ないことが
わかっていたのかもしれません。
だから、さようならを言うために
踏み入ることのなかった家の中まで
自ら入ってきたのかなぁ、
なんて彼が逝ってしまって10年が経ついまでも
家族の間で話題に上ります。

ほんとうに不思議な子でした。
いまはきっと、空の上で祖父と並び
2代目・銀二郎の働きぶりを眺めているのかな(笑)。

(こ かなこ)

町田
はい。ちょっと待ってくださいね。
(メールを読む)
〈いまも2匹のおじいちゃんが元気いっぱい〉、
とありますが、
おじいちゃんって、
人間じゃなく
犬のことですよね?
ほぼ日
「匹」ですから、犬です。
友森
2匹のおじいちゃん犬ですね。
町田
〈これは、そんな2匹の前にいた犬の思い出〉
ということは、これはおじいちゃんの話ではなく、
その先代の犬の話。
友森
町田さんとメールを読むと
何十倍も楽しいね(笑)。
町田
いや、わかろうとしてるだけなんです。
町田
〈血統書つきのゴールデンレトリバーが
 やってきたのは、
 私がまだ中学生の頃〉
ほほう、だいぶ昔になりました。
ほぼ日
さかのぼりました。
町田
ちなみに私がいま何歳かということには、
まだ触れられていないですね。
それが何年前の話かわからない。
ミステリーです。
〈空の上で祖父と並び2代目・銀二郎の〉
友森
次の犬に同じ名前をつけたんですね。
町田
そうなのかぁ。
「清水次郎長伝」という浪曲で有名な
清水次郎長の奥さんはお蝶さんといって、
すごい苦労して旅先で亡くなったんです。
でも、次郎長はまた奥さんもらって、
その人を2代目お蝶と呼んでいたそうですよ。
友森
前の奥さんのことが忘れられなかったのかな。
でも、それ嫌だ(笑)。
ほぼ日
このメールではやっぱり、
祖父の死が銀二郎にわかったところが不思議ですね。
町田
人間は言葉を使って
コミュニケーションしてるから、
言葉の範疇で
組み立てられてる論理の中で生きています。
ほんとうはわからんことですけど、
犬は言葉を使わないから、
もしかしたら犬の勘働きというものが
あるのかもしれないですね。
犬や猫が、人間は絶対見てないものを見て、
人間は絶対に感じない匂いも感じてる。
それはあたりまえのようにあると思います。
内臓とかがダメだったら、匂いでわかるでしょう。
友森

うん、そうですね、
犬や猫は匂いでわかりますね。
どこかの病院で
腫瘍を嗅ぎ分ける猫がいるって
聞いたことがあります。
人間よりそうとう鋭いんだなぁと思った。

町田
家に帰るとき、
たとえばマンションとかで、
エレベーターをチンって降りて
玄関に近づくだけで、
猫でも足音をたよりに
玄関のそばで待っています。
あれはふつう、人間やったらわからない。
友森
でも、うちの猫、全部の人の足音に反応して
玄関行ってる。
町田
それはあれだ、ちょっと、まぁ‥‥
友森
にぶいんでしょうか。
いちいちニャーって行って、戻ってきます(笑)。
町田
足音だけじゃなく、
車のエンジンの音でもわかるっていいますね。
もちろん匂いでも、敏感にわかる。
犬は、普段とちょっとでも違うところがあれば
すぐに確認しに行きます。
友森
うんうん、うんうん。
町田
違うものの匂いを嗅ぎに行って、
「なんやろ」と確認して、
確認したらまた戻ってくる。
このメールの銀二郎は、
そんな行動なのかもしれないですね。
それが第六感みたいなものなのかは別として、
やっぱりこの犬は犬なりに、
もうこの人が死ぬということが
わかってたのかもしれないです。
友森
いつもとようすが違うって
誰よりも先に
わかっていたのかもしれませんね。

(つづきます)

2015-03-18-WED