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リリー |
短編小説集を前に出したんですけど、
完全に小説は作りっ放しというか。
俺の短編小説なんて特に荒唐無稽なことを
書いてるからなんですけど、
あの1冊の中で1か所だけ
ほんとのエピソードが入ってるのがあって。
それ「おさびし島」って言って
東京から逃げて行った男たちが集まった
男だけのさびた島に女の子が1人だけいて、
みんながその女の子とやってるという話なんです。
俺、その小説を書きかけてる時に、
ヌードの撮影に行って写真撮ってたんですよ、
18歳の女の子なんですけど、
「家どこなの?」って聞いたら
とある島だって言うから
「俺、ちょうど島の女の子の話を書いてて、
やっぱり島に生まれると
島の人とかとはだいたいセックスすんの?」
と、かまかけたら
「だいたいしますね」って言うんですよ。
すっごい大らかに。
『ボロボロになった人へ』
※「おさびし島」は『ボロボロになった人へ』に
収録されている。ボロ儲けをしている大麻農家へ
嫁ぐ嫁を描いた。「大麻農家の花嫁」もおすすめ。 |
糸井 |
はははは。 |
リリー |
「どれくらい今までセックスしたの?」
って聞いたら、
「島の人と50人、島に東京から来る人と50人、
東京に来て50人」って言うんですよ。
「一番今までで覚えてるセックスは
どういうの?」
って言うと、
年に数回気象庁の人が
観測に来るらしいんですけど。 |
糸井 |
はははっ。 |
リリー |
浜辺でその子を
岩場に手をつかして、バックでやりながら
星の話をしてくれたらしいです、
気象庁の人が(笑)。 |
糸井 |
はははははは。 |
リリー |
「それがすごい楽しかった」って言うんですよ。
俺、そのエピソード入れたら、
そこだけがすっごい嘘くさいんですよ。 |
糸井 |
嘘くさいよねえ(笑)。 |
リリー |
あとはほんとに作り話だから、
作り話が真実みを帯びていくように、
ぜい肉を削ってるのに、
ほんとの話がもう
脂が乗りまくってるっていうか(笑)。
そこだけほんとに高カロリーになっちゃって。 |
糸井 |
はははは。三枚肉だよねえ。
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リリー |
「やっぱり最近は現実に起きてることがさあ、
派手過ぎるから、小説書く気がしないんだよ」
ってよく物書きの人が言われる言葉だけど、
それは実際に何かあるんですよね。
小説的なるものを書こうとする人と、
現実を書こうとすると、
逆に現実を書こうとした方が
バカみたいなことがどんどん起きてることを
書かなきゃいけなくなっちゃう。 |
糸井 |
今、映画なんかだと、
これはほんとにあった話です。
みたいなのばっかりになっていますよね。
だから、どっかのところで
「嘘だい!」っていわれることを
ものすごく恐れてる。
一方ではスターウォーズ的、
あるいはホラー映画的な絶対ほんとにないこと、
どっちかになっちゃってるよね。 |
リリー |
そうなんですよね。 |
糸井 |
うん。だから珍しいけど
社会に容認される
ギリギリみたいな人がいる場所とか、
そういう人間とかっていうのは
いないことにされてますよね。
そう考えると九州はどうもくさいと。 |
リリー |
はははは。 |
糸井 |
九州にはイリオモテヤマネコじゃないけど、
文学生活をしてる文学人たちが
いっぱいいるんじゃないか? |
リリー |
自分のたかだか
30年前くらいのことを書いてても、
自分の記憶の中にある時は
何とも思わないんですけど、
文章にした瞬間に、
すげえ田舎だなとか、
すごい貧乏だなっていうのが分かるんです。
それで松尾スズキさんもほとんど同い年で、
地元がほぼ一緒なんで、
話をすると、松尾さんは
「やっぱりリリーさんも鉄集めてた?」
みたいなことを言うんですよ。
「やってましたよ。俺、砂鉄でしたけどね。」
でも、これいつの話だ、
みたいになっちゃうっていうか。
※『en-taxi』4号で
北九州市小倉出身リリーフランキー、
北九州市折尾出身松尾スズキの対談が
掲載されている。タイトルは
「オレたちの、北九州の優しくて獰猛な人びと」。
ちなみに集めた鉄を鉄屑屋にもっていくと
お金にかえてくれた。 |
糸井 |
それ、俺の時代の話ですよ。
だから10年ずれてますよ、完全に。
どっかのところで、炭坑で栄耀栄華が
あった時代っていうのにしがみつき過ぎてて、
周りが時が経つのを忘れちゃったんだろうね。 |
リリー |
そうですね。あの辺の筑豊の炭坑の話って、
たぶん俺の時代は閉山になってるから、
いわゆる廃れた後っていうか、
アナザーストーリーなんですよね。
末井昭さんの
『素敵なダイナマイトスキャンダル』
とは違って。
『素敵なダイナマイトスキャンダル』
その時代は
ダイナマイトを持って帰ってきて、
ダイナマイトって
寒天で固めてるじゃないですか。
それをスライスして刺身にして、
酒のつまみにしてたっていうんですけど(笑)。
さすがにそれくらい想像できないくらい
すごくないんだけど、
でもその当時は
活気があって貧乏っていうか、
俺らの時はもう活気がなくなって。 |
糸井 |
そうか、冷えてるんだね。 |
リリー |
製鉄用の鉄も冷えて、
炭坑の炉も閉まってるっていう、
冷めきった中で俺らが生まれて、
冷めた生活を見てる。 |
糸井 |
次の時代の準備ができないままに
時間がどんどんどんどん経っていったわけだね。 |
リリー |
そうですね。
駅にしてもそうですし。
もう廃線になってるんですけど、
駅はそのままだったりとか。
ボーリング場がつぶれて30年経つのに
建物はそのままだったりとか。 |
糸井 |
壊せないんだ。 |
リリー |
壊す金がないっていうか。
だから結局町中が遺跡になってるんですよね。
昔のものを整理できないまま、
次の人間が生まれていくっていう。 |
糸井 |
壊せない捨てられないっていうのは、すごい。
その力のなさっていうのは
シンボリックだねえ。
年寄りとかってガンになっても
転移が遅いじゃないですか。
あんな感じだよね。 |
リリー |
そうなんですよね。
(つづきます!)
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