── |
その他にも、三浦さんが
いま、気仙沼で手がけているお仕事を
いくつか、ご紹介くださいますか。
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三浦 |
ではまず、ちょっと独特なんですけど
これが、気仙沼観光タクシーの新社屋。
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── |
あ、気仙沼の町を走っている、
ハートのマークのタクシー会社ですね。
独特‥‥といいますと?
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三浦 |
建物が「上下二層」になってるんです。
下層はコンクリート造の事務所で
その上に
もうひとつ「新しい地面」を載せて
ご家族の住まいと、
会議などでみんなが集まれるホールを
木造でつくる計画。
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── |
わー‥‥おもしろいです。
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三浦 |
じつは最初、この構造を思いついたのは、
震災前の八木澤商店があった
陸前高田の今泉という場所なんです。
そこでは、津波で町がすべて流されたので
何メートルも土を盛って、
その上に
新しい町をつくろうという計画があって。
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── |
ええ。
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三浦 |
何メートルも土を盛るだなんて大変だし、
そもそも、その上で
どうやって建築物を安定させるのか
ぼくには、あまりイメージできなかった。
そこで、きちんと構造計算して
十分に強度のある骨格で「床」をつくり、
その上に、
新しい町をつくったらいいじゃないかと
考えたんです。
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── |
つまり町全体を「二層構造」にする、と?
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三浦 |
下層のレベルには自動車を通しながら
生活を支える設備などを納めます。
すると、その上の、人が住むエリアでは
自動車に邪魔されることなく、
人が、人の速度で、暮らすことができる。
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── |
人と車を、分けちゃうんですか。
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三浦 |
時速4~5キロで歩く人と、
時速60キロで走る車が
同じレベルに存在しているから、事故になる。
そんなにスピードがちがうもの同士は
そもそも
上下に分けてしまえばいいと、思ったんです。
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── |
町自体を二重構造にするって、すごい発想。
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三浦 |
まあ、そんなふうに考えたことがあったので、
気仙沼観光タクシーさんから
相談を受けたときに、
「こんな建物は、どうですか?」と
提案したんです。
そしたら、よろこんでいただけたので。
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── |
タクシー会社さんだった、というのも、
もともとの発想にマッチしてますね。
下の層にたくさんタクシーが停められて
上の層では
人が生活したり、会議したりできるから。
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三浦 |
この会社、大きな交差点の近くにあるので
自動車の交通量も多いんです。
でも、上の層に立つと
自動車の動きが、視界から消えるんです。
だから、子どもたちが走り回っても安全。
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── |
こういう構造って、
すでにどこかで実用化されてるんですか?
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三浦 |
人工地盤という考え方自体は、あります。
ただ、人工地盤の上に
木と土でできた生活空間を載せている例は
ぼくは、具体的には知らないです。
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── |
すごい構造だなあとは思いますが
木が生えていたりして、なんだか安心します。
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三浦 |
下がコンクリートだから
上もコンクリート‥‥ではなく、
やはり、人が生活を営むに相応しい素材で
生活空間を考えるべきだと思いました。
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── |
完成したら遊びに行ってみたいです(笑)。
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三浦 |
この構造を陸前高田で発想したときは
町全体でやってみたいと
思ったわけですが、
やはり「面」でやるのはなかなか難しい。
でも「点」でなら、できるのかな、と。
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── |
そうか、お隣さんも同じ構造だったら‥‥。
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三浦 |
上のレベルでも「人通り」ができていくと
なかなか、おもしろいでしょうね。
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── |
なるほど‥‥。
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三浦 |
あと、個人的に気に入っていたのが
この、斉吉商店さんのご自宅の「幻案」です。
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── |
まぼろしあん‥‥実現しなかった案?
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三浦 |
ええ、最終的なコストが合わなくて。
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── |
どういうプランだったんですか?
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三浦 |
現在のプレハブのお店の裏に空地があって
そこに、住宅を建てたい。
で、お店と調和した景色にしてほしいと。
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── |
なるほど。
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三浦 |
プレハブの店舗と調和するような、住宅。
そういう「お題」は
これまでいただいたことがなかったので、
ずいぶん悩みました。
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── |
そうですか。
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三浦 |
結果的に、鉄骨でフレームを組み立てて、
そこへ「木製の箱」を入れたんです。
こちらは「上下」ではなく、
「入れ子」になった、二重構造です。
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── |
はー‥‥どうして、このような家に?
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三浦 |
まず、斉吉さんのご一家は
いま「三世代」で住んでおられるんですが
今後、若夫婦にお子さんができたりすると
家族構成が、変わっていきますよね。
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── |
ええ。
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三浦 |
そのとき、鉄骨製の骨格はそのままにして
「木の箱」だけ変えたら
いろんな状況に対応できるなあ、と。
つまり、
構造的にも安全な鉄骨のフレームの内側に、
時代時代の家族構成に対応した
木の箱を入れることのできる家、なんです。
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── |
一瞬、ちょっと工業的な感じがしますが
やっぱり「箱は木」なんですね。
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三浦 |
おそらく、建てたばかりのときは
そこらじゅうスペースが空いてるんです。
でも、誰かが結婚したり、人が増えたり、
お子さんが大きくなったりしたら、
部屋も増えていき
いま空いている空間が、埋まっていく。
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── |
人とともに、建物も変わっていく。
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三浦 |
ここから先は、ぼくの「妄想」なんですが
この住宅、
となりの店舗とつながったらいいなあって
思っていました。
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── |
へえー‥‥。
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三浦 |
プレハブが悪いわけではないんですけど
建物の寿命を考えると
やはり「次のこと」を考えておきたい。
あらかじめ屋根を伸ばせる構造にしておけば
将来的には
家と店舗つまり仕事場とを
大きなひとつ屋根の下で繋げることができる。
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── |
ええ、ええ。
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三浦 |
斉吉さんのいいところって
これまでの歴史を見ても、商品を見ても、
「家族」を感じさせる、
住まいと店舗と加工場を離さずに
ひとつの空間でやってきたところかなと
思ったので。
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── |
なるほど‥‥建築というものが、
ここまでのことを、
つまり「歴史」にいたるまでのことを考えて
発想するものだとは、思っていませんでした。
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三浦 |
将来的に屋根が繋がり、ひとつになる。
そういうプランがあると思ったら
なにか、
はたらきかたも変わるような気がしませんか?
実際、合理的なつくりだと思うんです。
アパート的で楽しそうですし、
店舗の部分を拡張することもできるし。
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── |
その後、斉吉さんのお宅は‥‥。
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三浦 |
はい、サッとあたまを切り替えまして
まったく別のプランを出しました。
そちらはそちらで
すごく、いい感じで進んでいますよ。
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── |
ちなみに、こういうアイディアって、
以前から、あたためていたりしたんですか?
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三浦 |
いえ、みなさんに「お題」をいただいて、
ウンウン唸って、はじめて出てきます。
そういう意味で、東北では
いろんな「お題」をいただけるところが
ありがたいなあと思います。
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── |
あらためて「東北の仕事」って、
三浦さんにとって、どんなものでしょうか。
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三浦 |
ドキドキしますね。
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── |
ドキドキ?
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三浦 |
ドキドキするんです。
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── |
これまで
たくさんの建築を手がけてきた三浦さんが
ドキドキするって、
いったいどういう感覚‥‥なんでしょう?
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三浦 |
変な話、三角屋がどんな建築をやるのか、
知った上で依頼される仕事も、
だんだん、多くなってきているんですね。
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── |
そうでしょうね、それは。
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三浦 |
その意味では、気仙沼では
三角屋とぼくのことを、誰も知らない。
「あなた誰ですか?」という状態です。
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── |
ええ。
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三浦 |
そんな状態から、相談を持ちかけられて、
対話を交わすところから
いろんなことがはじまっていくんですけど、
それが、
自分たちの独立したころの環境と近い。
それがすごく新鮮で、ドキドキするんです。
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── |
なるほど。
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三浦 |
そしてもうひとつは
「お題」をいただけることの、ありがたさ。
具体的な場所で、
具体的な希望を聞かせてもらってはじめて
思考は回りはじめるし、
アイディアも、生まれていくんです。
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|
── |
ええ、ええ。
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三浦 |
その意味では、実現しなかった案も含めて
ぼくらにとっては
すべての「お題」が「宝物」なんですよ。
<つづきます> |