宮部 |
坂本さんは、もしかして、学生時代から、
小説とか、お書きになってたりしたんですか。 |
坂本 |
いえいえ、書いてないです(笑)。 |
宮部 |
あ、そうなんですか。 |
坂本 |
たまたま、テキストアドベンチャーゲームを
ひとつ手がけることになって、
まあ、なんか、
書いてみようかなって感じで(笑)。
で、そっからですわ。
おもしろくなってきたのは。
僕は、会社に入った当時というのは、
こんなん、あんまり言うたら
ダメだと思うんですけど、
わりとふざけたヤツで。
バイト先、みたいなイメージだったんですよ。 |
宮部 |
(笑) |
坂本 |
そんな感じで最初のゲームを出して。
けっこうおもしろくできたかな、
とか思ってたら、
ファンの女の子からバレンタインデーに
「スタッフの皆さまへ」って、
手作りチョコレートを
送ってもらったんですよ。
そこでね、なんか、自分はすごく、
そういう、
人の心に触れるような仕事をしてるんや、
っていう自覚を覚えて。そこから、もう、
取り組み方がガラッと変わってしまって。 |
宮部 |
うーん、そうだったんですか! |
坂本 |
あの、宮部さんはどういう経緯で小説を? |
宮部 |
私も、始めたのはわりと遅いんですよ。
いまどきのミステリー作家や
エンターテイメントの作家の方って、
それこそ、栴檀は双葉より、
っていう感じで、
「子どものころから作家になりたかった」
っていう人が多いんですけど、
私はもう、ぜんぜんそういうのなくて。
20いくつから、突然書き出したんですね。
その前は、私、速記者をしていて。
いろんな対談とか講演とか、
テープ起こしの仕事なんかを
5年ぐらいやってて。
技術系の新聞とかの
仕事をしてたんですね(笑)。
業界用語なんて、
ぜんぜん知らないのを、
泣き泣き
レジュメをもらって書いたりしてて。
そこで、文章を伝わるように書くっていう
ことを覚えたわけなんです。
テープ起こしって、
それがすごく大事なので。 |
坂本 |
ああ、なるほど。 |
宮部 |
伝わらなきゃいけないわけですからね。
それができると、やっぱり楽しいんですよ。
しゃべってくれた方に満足してもらえて、
「ああ、これは自分の言葉だ」
と納得してもらえて、
なおかつ読んだ方には
ニュアンスが通じるように、
よくわかってもらえるようにする。
これは楽しい仕事だなと思って。
で、一方でミステリーを読んでいたら、
そのうちちょっと書いてみたくなったんです。
で、書きあげてみると、
やっぱり誰かに読んでもらいたいんですよ。
誰かに読んでもらって、
「これ、犯人誰かわかった?」とかって、
聞いてみたくなるんですよ(笑)。
でも、私には、
ぜんぜんそういう環境がなくて。
同人雑誌も知らなければ
文芸部にもいなかったので。
つまり、だーれにも読んでもらえないんです。
親兄弟に読ませたって、そんな、
気を入れて読んでくれるわけないし。
仲のいい友だちに読ませても、
「おもしろくないって言いにくいだろうな」
ってわかるから、いやだったし(笑)。
それでね、カルチャーセンターの
創作教室に行ったんです。
で、そこで初めてちゃんと書いたんですね。
だから、本当に、
プロになろうなんて気もなくて。
自分の仕事は、できれば速記者として、
ちゃんと一本立ちできればいいな、
ずっと雑誌なんかでテープ起こしの仕事が
できたらいいなー、と思ってたもんですから。
それがもう、
なんの拍子か新人賞をいただいて。
やっぱり寸評をもらったり、
担当の編集者の方に
駆け出しながらもついてもらったりとかして。
あ、ちゃんとやんなきゃ、
みたいな気になって。
まあ、
会社もすぐに辞めるわけにはいかないし、
どうなることやら、と思ってやってるうちに、
少ーしずつ仕事が
楽しくなってきたっていうか。
自分が考えたお話を、
人にできるだけ上手に伝えて、
それがちょっとでも喜んでもらえたり
びっくりしてもらえたり、
褒めてもらえたりすると、
いい仕事だなーって思うようになってきて。 |
坂本 |
あぁ〜、そうだったんですか……。 |
宮部 |
ええ。最初のうち何年間かは、
私、ぜんぜん売れない作家でしたから。
やっぱりなかなか仕事が辞められなかったんで、
体力的にちょっと辛かったりして。
でも、書くのが楽しいなって思い始めたら、
やっぱり、坂本さんがおっしゃったように、
取り組みかたが変わってきて。
「これはやっぱり本気でやらなきゃいけない」
っていうふうに考えるようになって。
それで、いい成果がともなってくると、
ますますうれしいっていう
循環が始まったんです。 |
坂本 |
ああ〜。
じゃあ、もしも、速記者をやってるときに
「書いてみようかな?」って思わなかったら、
作家になられなかったかも
しれないわけですよね。
それは、もう、なんというか、
僕らにとってえらい損失ですね。 |
宮部 |
(笑) |
── |
お話をうかがっていて思ったんですけれど、
おふたりとも、仕事に入るきっかけの部分で、
やっぱり「伝える誰か」を
意識されてるわけですね。
坂本さんは初めてのファンからの贈り物で
それを意識されたわけですし、
宮部さんも
「誰かに読んでもらわなきゃ」という
気持ちがあったわけですし。 |
坂本 |
そうですねえ。 |
宮部 |
ええ。 |
── |
そういうことが、まえにおっしゃった姿勢、
「わかんない人にはわかんなくていい」
というのではなく、
「伝わらないとダメだ」という姿勢に
つながっているのかなと思うんですが。 |
坂本 |
そうですね……僕、ゲームを作るときに、
必ずイメージすることがひとつあって。
それは、
そのゲームを遊んでる人の笑顔なんですよ。
誰の笑顔かはわかんないですけども。
「それだけは、みんな憶えといて」
っていうのだけ、
スタッフには伝えるようにしてるんです。
せっかく遊んでくださっている人が、
苦しそうな顔とか
嫌な顔をしてるのはダメでしょう。
とにかく笑ってる、楽しんでる、
ってことだけを想像しながら。
そのために自分がどんなサービスをできるか。
そこがいつも、
こだわろうこだわろうとしてる部分。
あの、たぶん、宮部さんも、
サービス精神旺盛な方なんだろうと
思うんですよ。 |
宮部 |
やっぱり、お金出して買ってもらって、
時間を割いて読んでもらうわけですから。
「これに1500円出すんだったら、
豪華なランチ食べたほうが良かったなー」
って、
思われないように、せめて。
通勤や通学の電車の中で、
「あ、もうちょっと読んでたいけど
着いちゃった」
っていうふうに思ってもらえるように、
なるべく書きたい。
それは、もちろん、そういう仕事である以上、
それを誠実にやるしかありませんし。
でも、それがいちばんの目標だっていうふうに
シンプルに見えてるっていうのは、
すごく幸せなことだとも思いますから。
少なくとも、読んでくれた人が、
坂本さんがおっしゃったみたいに、
「おもしろかった」
ってニッコリしてくれるように。
それで、できたら、
それを人に勧めたりとかして
共有してもらえるような楽しさを
提供することができれば、
これ以上の仕事はないな、と思うんですけど。 |
坂本 |
そうですねえ。 |
宮部 |
でも、今日はよかった。
お話をうかがってみて。
その、坂本さんとスタッフの皆さんに、
チョコレートを送ってくださった
女性の方がいなかったら、
私たち『メトロイド』をプレイできて
なかったかもしれないんですね(笑)。 |
坂本 |
そうかもしれない(笑)。 |
宮部 |
そうすると、私にとっては、
とんでもない
パラレルワールドになってしまう(笑)。
『メトロイド』がなかったら、
私の人生、たぶん暗かったと思うので(笑)。 |
坂本 |
いえいえいえ! 僕のほうこそ、
宮部さんが作家になってなかったら、
本当にもうたくさん、
楽しみを逃すところですよ。
ホントに、もう、ねえ、すごい、
宮部さんのお書きになられるものは、
うれしいんですよ、読んでて、本当に。 |
宮部 |
ありがとうございます(笑)。 |
── |
ええと、坂本さんがまたしても
恐縮モードに入ったところで、
終わりにさせていただきます。
本日はどうもありがとうございました! |