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ちょっと話を変えまして、
宮部さんの最新作である
『ブレイブ・ストーリー』について
おうかがいしようと思います。
この小説は、ファンタジー小説の中に
ゲームの楽しさや喜びを活かすということが、
意図のひとつとしてあったとお聞きしましたが。 |
宮部 |
ええ、最近出させていただいたんですけど。
ファンタジー系のRPGを、少し念頭に置いて、
小説なんだけどゲームみたいに楽しんでもらえれば
いいなって思ってたんです。
もちろん、ゲームを知らない方には、
ふつうの冒険ファンタジーとして読んでもらえれば。
でも、やっぱり、動かして楽しいっていう部分はね、
『メトロイド』とか『ゼルダ』には勝てませんから。
また違う方法で、その世界をリアルに
立ち上げていくように作っていかないといけない。
その意味では小説でもまだまだ工夫の余地があるな、
というふうに今回思ったんですけどね |
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でも、ボス戦とか、謎解きとか、
ゲームっぽい場面がたくさん出てきますよね。 |
宮部 |
そう、でも小説って、
テンポよく話を進めようとすると、
ボス戦だらけになっちゃうんですよ(笑)。
ゲームだと、経験値稼ぎのバトルも楽しいんだけど、
小説だとそれをやらせるわけにはいかないんですよ。
だからやっぱり、イベントイベントイベント、
はい、ボス戦、終わるとムービーが入る、
っていう感じになっちゃって(笑)。 |
坂本 |
なるほど。 |
宮部 |
ただ、読んでくださった方の中に、
ゲームの効果音が聞こえるっていうふうに、
言っていただいたのがすごくうれしかったですね。
仕掛けを解いて主人公が先へ進んだときに、
『ゼルダ』の「タンタンタタ、タタタン」
っていう効果音が聞えた、とかね(笑)。
あとフィールドを歩いているときに、
RPGのBGMが聞こえたとか、
宿屋に泊まる場面で、ポンポロポンと音がするとか。 |
坂本 |
それ、僕、すごいわかりますよ。
宮部さんの作品は、読んでると、
すっごく音が浮かんでくるというか、
自分で効果音やBGMをつけてみたくなるんですよ。 |
宮部 |
あー、うれしいな! |
坂本 |
なんか、そういう作りになってると思うんですよ。
なんというか、その、音がつきそうな。
あの、ゲームっぽい、っていうと、
失礼に当たる部分もあるかも知れないですけども。 |
宮部 |
いえいえ、すごくよくわかります。うれしいです。 |
坂本 |
ゲームのシナリオとか、そういったものに、
すごくなんか適したような展開とか。
そういう流れが、すごくスムーズで、
でもダイナミックで、っていうところが。
そんなね、偉そうなこと言えないんですけども。 |
宮部 |
いえいえいえ。 |
坂本 |
だから、すごく、心地良い、読むの。
たとえば、すごく、セリフとかでも、すごく素敵で。
なんて言ったらいいんでしょうね。
ホントにその、お話もすっごく素敵だし、
とにかくね、文字をたどっていくというか、
あの流れに乗るのがすごく好きで。
たくさん好きなとこあるんですよ、
でも……何からしゃべっていいのかわからないので。
もう、言い出したら、時間が足りない。
困ってるんですけども。 |
── |
坂本さん、僕に言わないで、宮部さんに。 |
宮部 |
いえ、なんか緊張しちゃうので、私も(笑)。 |
坂本 |
いやいや、滅相もない(笑)。 |
宮部 |
いま坂本さんのお話を伺っていて思ったんですけど、
もともと私は、なんていうか、ゲーム的なね、
こう、なんていうんでしょう、
話が動いて先に進むっていう作りかたを
してたのかもしれないですね。
だとしたら、それはすごいうれしい。
だから、今後もゲームで自分が楽しんだこと、
アクション物とかでも、世界設定とか、
この話はおもしろいなって
ヒントをもらったところから、
小説を作っていきたいなと思ってるんですが。 |
坂本 |
楽しみにしてます。あの、宮部さんって、
ゲームの原作みたいな仕事はされない、
っておっしゃってるのを聞いたんですけど。 |
宮部 |
ああ(笑)。それするとね、
あの……ゲームが楽しくなくなっちゃうと
悲しいなとか思って(笑)。
ゲームは私の唯一にして最大の趣味なので。ええ。 |
坂本 |
絶対、いいものができると思うんですけどね。
まあ、でも、お気持ちもわかるんですけど(笑)。 |
宮部 |
私の知り合いで何人か、ゲームのシナリオ書いたり、
ゲーム作りに参加したミステリー作家がいるんです。
で、私はそれがうらやましいから、
「どう?」って聞くじゃないですか。すると、
「仕事して以来、あんまり
ゲームやらなくなっちゃった」って
みんな言うんですよ(笑)。 |
坂本 |
ああ(笑)。 |
宮部 |
だから、自分がもしそうなっちゃったら、
人生に楽しみがなくなっちゃうじゃないかって思って。
それは作れたら楽しいだろうな、って思うんですけど、
それが仕事になっちゃったら、
ほかに趣味見つけなきゃなんないし……。 |
坂本 |
そうなったら、『メトロイド』の次回作も
宮部さんに遊んでもらえなくなりますね。
じゃあ、やめときましょう! |
── |
ずいぶんあっさりあきらめますね。 |
宮部 |
ゲームのノベライズはやっていきたいと
思ってるんですけどね。ただ、ゲームには、
キャラクターを動かすことによって
物語が進んでいくようなものが多いから
小説にするのは難しいんですよね。
以前、宮本(茂)さんとお話ししたんですけど、
「やっぱり『ピクミン』は小説にならないですね」
っていうことになった(笑)。 |
坂本 |
(笑) |
── |
宮部さんはいま『ICO』というゲームの
ノベライズをなさってますよね。 |
宮部 |
はい。設定自体はシンプルなゲームなんですけど、
なんというか、小説ゴコロをくすぐられる
魅力があったものですから、
お願いしてやらせていただいて。
でも、担当編集者は
「主人公の男の子が魅力的だからでしょう?」
って言ってましたけど(笑)。 |
坂本 |
ああ、僕、宮部さんの書かれる少年とか男の子、
すごく魅力的だと思います。すごい好きですよ。 |
宮部 |
あ、ありがとうございます。なんていうか、
手塚治虫さんの描くキャラクターみたいに書けたらいいな、
と思って書いてるんですけどね。
手塚治虫さんのお描きになる少年少女って、
あんまり性別がないっていうか、
あの、クリッとしてますよね。
で、非常に柔らかくて、キャラとして動きがあって。
だから、男の子を書くときは、
男の子ではあるんですけど、中性的なポジションで、
物語をこう引っ張ってってくれる
キャラクターになってくれればいいなと思って。 |
坂本 |
僕は印象に残っているのは、
『魔術はささやく』に出てきた男の子。
すいませんお名前は忘れてしまったけども。 |
宮部 |
ええと、なんていったっけ?
私も忘れちゃった(笑)。 |
坂本 |
すごくなんか、いいなって。
あと、最近読んだ中でいうと、
じつは僕、時代物を読んでなかったんですよ。
それで最近『あかんべえ』を読んで。 |
宮部 |
あ、ありがとうございますー! |
坂本 |
そしたら、おりんに惚れてしもうて。 |
宮部 |
わぁー、よかった(笑)。 |
坂本 |
最後のね、おりんの生い立ちのところで、
電車の中で思わず、ウルッときてしもて。
そしたら、正面にいるオッサンが
じいっとこっち見てるんですよ(笑)。 |
宮部 |
どうしたんだろうって(笑)。 |
坂本 |
そうそう(笑)。
いやあ……おりん……
おりんですよ……鈴虫のおりん。 |
── |
感慨にふけっているところおじゃましますが、
僕は、坂本さんの作った
『カードヒーロー』の主人公と
『ブレイブ・ストーリー』の主人公が重なるんです。 |
坂本 |
ああ、はいはいはい! |
宮部 |
わぁ、そうなんですか。 |
坂本 |
『カードヒーロー』っていうゲームはご存知ですか? |
宮部 |
名前は知っているんですけど、
まだプレイしたことはないです。 |
坂本 |
ちょうど、今日、持ってきてるんで、
もし遊んでいただけたら、と。
ゲームボーイのソフトなんですけど。
(ダッシュで移動し、ソフトを持ってくる) |
宮部 |
わぁー! かわいいですね。
これは、ひさしぶりに
ゲームボーイカラーを出してきて、やろーっと。
ありがとうございます。
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坂本 |
いえいえ、今日はとても楽しかったです。 |
宮部 |
こちらこそどうもありがとうございました! |
坂本 |
……ホント、この仕事をやってきてよかった。 |
一同 |
(笑) |