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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

9. 視聴率主義について

テレビ番組の
おもしろさの基準を語り続ける企画……。
だからこそ、今日は、
避けることのできないテーマのひとつである
「視聴率」について、話しはじめてゆきます。
さらに濃さを増してゆく会話を、
テレビを好きな人も、仕事論として読む人も、
できたら、ゆっくり、読んでみてくださいね。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

土屋 毎分の視聴率を、
コンマ1でもあげていく日テレの手法が、
この十年間では視聴率という面で
いちおう勝っていたわけです。

この前の年度で、フジテレビが
プライムタイムでうちを抜きましたが、
「コンマ1でも…」
の視聴率主義の勝利が
このまま続いていたとしたら、
テレビはもっと
ヤバイことになっていたと思うんです。

だから、三宅さんが
フジの中で広げようとしている
「やっぱり、おもしろいものがいいんだ」
という潮流みたいなものが、
間に合ってよかった……という気持ちは、
ちょっとあるんです。

こんなこと、本当は
言っちゃいけないんだろうけれども……。
三宅 ありがとう。

そういうのを
日テレの方から言われるのは、
うれしいですよ。

今でも若い連中が、
さんまさんと番組をやりだしたり、
『水10!』の連中にしても、
『めちゃイケ』の連中にしても、
ここ半年ぐらいで、フジが
いい雰囲気になってきていることは確かです。
土屋 ただ、この前たまたま見た
『お台場 明石城』では、
さんまさんにプレゼンをする
ディレクターたちが、
テレビの悩みやはらわたを、
出しきっちゃってる感じがしたんです。
三宅 うん。
土屋 「なんかそこは、
 がんばって見せないようにしようよ」

とは思いました。
三宅 わかります、わかります。
土屋 さんまさんに対して、
フジテレビのバラエティを作りたい連中が、
テレビを使ってプレゼンをする。
そこのことを、会社として
場まで作って許してしまっていることには
「あれ?」という気持ちが、正直ありまして……。
三宅 おっしゃること、わかります。
あれは若手が企画を出す番組ですし、
ぼくは制作にタッチしてないんですけど、
まぁ、見には行ってるので
アドバイスはするんです。
糸井 「見には行ってる」んですか(笑)。
タフだなぁ。
土屋 (笑)
三宅 見て、いろいろ言うんです。

若手はがんばって
企画を作っているんですけど、
企画をおもしろくしちゃ
いけないんですよね。あれは、
「若手ディレクターが
 さんまさんに企画を出す番組」
と捉えてやっていればいいわけですから。

「企画を出すという雑談」
しないといけないんですよね。
大マジだと恥ずかしいし……。
土屋 やっぱりどこかで、
バラエティの作り手や
テレビの作り手って、
しいたげられていないと
いけないような気がするんです。


「きみたちディレクターには
 こういう場が与えられているから、
 さんまさんと
 一緒に出演してみたらどうですか?」

という番組を作って、
その場に部長とかがちゃんといて、
見守っちゃっている構図が見えている。

しかもそれが
メシの種として成立しているというと、
ぼくは
「そんなに甘やかしちゃいけないでしょう」
と思っちゃうんです。
三宅 たぶん、そういうふうに映るのは、
そこに出てくる
若いディレクターや部長役の港が、
役に徹していないんですよね。
糸井 なるほどね。

(註:この取材の後、三宅ディレクターは
   「明石城」に大目付という役で
   出演するようになり、
   三宅ディレクター役をこなしている)
三宅 『反省会』とか、
スタッフが出る場でも
ぼくはよく言うんだけど
「おまえら、出演者なんだから」
という一言なんですよ。

つまり、ふつうの部長ではなく
「港部長役」をやらなきゃいけないし、
ふつうのディレクターではなく、
「若手ディレクター役」を、やるべきでしょう。
糸井 うわぁ、
この三宅ディレクターは、やっぱりすごいね。
土屋 あー、なるほど。
三宅 だから、土屋さんのおっしゃるのは、
そのとおりなんです。
反省会でも、出る以上は出演者ですから。
糸井 三宅さん、仕事してましたもんねぇ。
土屋 ええ。
ちゃんと「三宅ディレクター役」でした。
三宅 ぼくは、やっています。
なんかひっかかることをやっていかないと、
ただの素人ですからね。

それじゃ、演者さんに
失礼なことだから、ダメなんです。
糸井 役割は、
そこにあるわけですからね。
それを素人なりにでも、
演じないといけないわけですね。

「さんまさんだけは、
 どの場面でも必ずカタチにしてみせます」

というところで、つい
ぼくはあの番組を見ちゃうんだろうなぁ。
三宅 あそこにも
いいキャラクターはいるんです。

小さいときに親に逃げられて
父親がいないというディレクターがいる。
だったら、それが
そいつのキャラクターだから、
そこをつっこんで
「父をたずねて何千里、
 という番組をやりたいです。
 実は自分は……」
と企画にすれば、成立するんですよね。

自分のほんとうにやりたいことなんて、
どうでもいいことなんだから、
「あの番組の中で成立するおもしろい企画」
にしないといけない。


そこをみんなが
マジでやっちゃっているから、
土屋さんが見たように
映るんだろうなぁと思いました。
糸井 演じることって、
どういうものでしょう?
……たとえばぼくたちは、
本職はテレビに映る人ではないのに、
人に知られているじゃないですか。

「三宅さんのことは、
 ひょうきん族の頃から、
 存じあげています」

「土屋さんのことは、
 電波少年のT部長として
 存じあげています」

存じあげられちゃってることが、
おかしいですよね?
三宅 糸井さんには、
ひょうきん族のときに
出ていただいたのですが、
ただ、あのときも、絶対に、
糸井さんには
「演じていただいていたはず」なんです。
糸井 そうなんですか?

例えば、T部長はいいんです。
「後ろ姿」という約束を作ってあるし、
土屋さんなのに「T部長」という
名前にしたじゃないですか。

ペンネームがついたおかげで
できることがあるでしょう?
ぼくは本名のままで来ているから、
たまにテレビに出ていても、
いつでも、
演じているかどうかがわからないんです。
三宅 いや、絶対に
演じてないといけないんですよ、たぶん。
もちろん、本業のときは本業でしょうけれど。

今日の仕事論:

「毎分の視聴率を、
 コンマ1でもあげていく日テレの手法が、
 この十年間では視聴率という面で
 いちおう勝っていたわけです。
 この前の年度で、フジテレビが
 プライムタイムでうちを抜きましたが、
 『コンマ1でも……』
 の視聴率主義の勝利が
 このまま続いていたとしたら、
 テレビはもっと
 ヤバイことになっていたと思うんです。
 だから、三宅さんが
 フジの中で広げようとしている
 『やっぱり、おもしろいものがいいんだ』
 という潮流みたいなものが、
 間に合ってよかった……という気持ちは、
 ちょっとあるんです。
 こんなこと、本当は
 言っちゃいけないんだろうけれども……」
             (土屋敏男)

※「演じるということ」についての話は、
 糸井重里が次に発言する、
 「ぼくの特色って、すごい真剣に、
  人が聞いてもいい裏ばなしをすることだとは思う」
 という話に、つながってゆくんです。
 その後につながる、「ADの頃からの心得」のような
 三宅恵介さんの仕事論に、つづきます。おたのしみに!
 
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 今後も、シリーズ鼎談として続いてゆく連載なので、
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2004-06-25-FRI

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