糸井 |
ドキュメンタリーは、
放っておいても撮れないものですよね。
たとえば、動物園にも、
元気のない動物を見たい人は
いないわけですよね。
動物園の飼育係が、
動物を元気づけるように、
演者を動機づける腕が必要になる……
そこが三宅さんのすごさだと思います。
『おそく起きた昼は…』の
あの三人も、ただ放っておいたら、
きっといつかは気のゆるみが出て、
つまらなくなってしまうはずなんです。
ああいう番組って、
放っておくとダメになる理由が
いくつもあるんです。
だけど、ずっと見ていても、
ダメになっていない。
それがすばらしいなぁと思いました。 |
三宅 |
あの番組は、年に1回
「オンステージ」として、
3人で舞台をやってるんです。 |
土屋 |
池袋サンシャインですよね。 |
三宅 |
はい。
そこに、ほんとに
お客さんがいっぱいになるんですよね。
六〇歳過ぎた方が、
北海道からひとりで来たり、
幅広いお客さんたちで。
それがすごいうれしかったんです。
あの三人を、
娘みたいに思ってる人もいたり……
どこかで、感情移入するんでしょうね。
貴理子さんは、最近さらに
忙しくなっているんですけど、
おかげさまで
「悩んでいるときに、
この番組の撮りがあるとホッとする」
と言ってくれているんです。
こちらにとっては、
すごくありがたいことなんですよ。
昔、ひょうきん族でも
そういうことがありました。
当時のたけしさんやさんまさんが、
ドラマとか、外で思うようにいかないときに
『ひょうきん族』に帰ってくると、
うっぷんをぜんぶ出すから、
すごくおもしろくなるんですよね。 |
土屋 |
『ひょうきん族』のすごいところは、
やっぱり、
「たけしさんが
ズル休みをすることはおもしろい」
という、
テレビとしてはありえないルールを、
作っちゃったところだと思うんです。 |
三宅 |
いや、ほんとに来ないんですよね。 |
糸井 |
芸人さんって、
単純にいい気になる時代があるから、
それを上手に
ドキュメンタリーにしてたわけでしょう? |
三宅 |
そうです。 |
糸井 |
今は、そこの余裕が、
もうなくなってきたと思うんだ。 |
三宅 |
ああ、それはありますね。 |
糸井 |
芸人さんって、
「いい気になるから芸人」なのにねぇ。 |
三宅 |
もちろん、そうです。
さんまさんも言うんですけど、
絶対に、一度は天狗になったほうがいいって。 |
糸井 |
なったほうがいいですよね。
それを、まわりは、どうやって許したり、
登らせすぎないというか……。
たけしさんが
いい気になったであろう時代って、
自分自身がいい気になった時代と重なるわけです。 |
三宅 |
そんな時代、あったんですか? |
糸井 |
ふりかえってみると、
天狗になっていたと思う。
お笑い番組の
審査員みたいなことをしていて、
袖にイヤホンを通して
野球のラジオ中継を聞いてたんですから。
今だったら、失礼だから
絶対にやりませんよね。
でも、いい気になっていた時代には
できるんです。
たぶん、
「そこまでしなくてもいいじゃない?」
という
芸人さんの風俗遊びみたいなものも、
その時期にしかできないものであって……
だから、たけしさんも、
ほんとにズル休みだったんでしょうね。 |
三宅 |
朝、入り時間の十分前ぐらいに来ないと、
現場のマネージャーが
そわそわしはじめるんです。
そうすると、さんまさんなんかもう、
「ああ、今日、お休みね」
とわかっていらっしゃるんですけど(笑)。
それで、
たけしさんの出ないぶんだけを撮って、
そのぶん早く終わったから飲みに行くと、
飲み屋で会ったりするわけです。
そうすると、もう
たけしさんもバツが悪いわけです。
本人にしてみれば、収録の時間は
確かにつらかったんだろうと思うんです。
だけど、寝ていれば元気になって、
元気になったらヒマだから飲みにいって……
いちばんおかしかったのは
「オバケが出たから
こわくて眠れなくて休んだ」
という話でした。 |
糸井 |
昔は、それを許す余裕があった。 |
三宅 |
まあ、しゃあないですもんね。
だからひねりだす……。 |
土屋 |
当時、
テレビ局に入ったばかりだったから
ひょうきん族のそういうシーンを見て
「こういうことがテレビになるんだ!」
と驚いたことは、
自分なりの夢につながりましたよね。 |
糸井 |
土屋さんは、ただ単なる
「休んでもいい」
という方法論としては
受け取っていないですよね。
そこがポイントだと思うんです。
さっき、
大事にしたいものがあって、
破りたくない約束があるからこそ、
壊すのがドキドキするという
話が出ていたけど、それと同じで、
「たけしさんが来なかったらどうしよう?」
という、すごいセコイ心があるから、
おもしろいわけですよね? |
土屋 |
ええ。 |
糸井 |
いいんだよ、休んでも、ってなったら、
次は紳助さんが休みますもん。 |
三宅 |
そうですよね。 |
土屋 |
困って困って、
もうこうするしかないじゃんっていう
おもしろさですよね。 |
三宅 |
そうです。 |
糸井 |
一生懸命やってると、
生まれるんですよね。 |