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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

13. 番組制作の優先順位

この連載の第4回目で、三宅恵介さんは、
「組織が大きくなればなるだけ、
 クリエイティブの力が
 反比例してなくなっていくと言われます。
 確かに、たとえば、昔は
 『あれやっといてよ』
 『これやりました』
 という感じでできたものが、
 『こっちに書類を持っていって、
  あっちに許可をもらって』と
 やっていかなきゃならない形になると、
 これはしょうがないことなので……」

とおっしゃいました。
テレビ局という大企業のなかで番組を作る──
そのときに、優先順位はどうなってゆくべきか?

三宅さんが、かつて
萩本欽一さんから教わった、
「ふつうは、こう考えるだろう?
 で、それがふつうなんだから、
 そうじゃないことを考えれば、
 笑いはぜんぶ生まれるんだ」
という言葉を思い出しながら、
テレビ局と優先順位についてのお話を、
どうぞ、じっくり、お読みくださいませ……。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

土屋 イベントや映画も、
非常にわかりやすく言えば、
視聴率と同じような
数字にぜんぶ換算されて、
「数字で結果をあげること」
が、やっぱりエライ。
確かに、エライんだけど……。
糸井 「獲物を捕ってきた」
ということですよね?
土屋 例えば
「儲かりゃいいってものじゃないよなぁ」
と誰かが言ったとすると、
「いや、でも、
 放送局も株式会社ですから、
 株主に対して誠実であるなら、
 さらに儲けようとするのが
 当たり前じゃないですか?」

という意見が出たりする……

そういうことに対して
「大筋はそうだろうけれど、
 それだけでもいけないんじゃないか?」
と感じるんです。
「一円でも多く稼ぐ」ということで、
失うものだってあると思いますから。

そういうのって、もしかしたら、
「おもしろい企画を作ればいい」
という気持ちは
隠れキリシタンのように抱いていて、
表では
「一円でもたくさん儲けますよ」と
言うべきなのでしょうか?
糸井 土屋さんの
言うとおりなんじゃないですか?

年を取ってからなんですけど、
「全員が建前で喋んなきゃなんない場所」
っていうのが、世の中には
どうもあるような気がしはじめたんです。

「お客さんのためを思っております」
という言葉は、一度でも
「思っておりません」と変えてはいけない。


そのあたりは、
言う側も言われる側も
わかっているウソなんです。

だから、例えば、
「長期的に稼ぐ方法と、
 中期的に稼ぐ方法と、
 すぐ稼ぐ方法があります。
 この方法は、短期的には損をしますが、
 今までの例とあわせると、
 こんなふうに発展した例に
 似ていると思うんです。
 ずいぶん先に、このぐらい
 稼ぐかもしれませんが、
 失敗した場合にはこのぐらい損します」

と、最初のごあいさつでは、
しっかり頭は下げておいて、
正しいことを
ちゃんと言っておくべきなのかもしれないね。
三宅 そうですよね。
糸井 損をする可能性を
ぜんぶやめちゃったら、
実際に会社の価値が下がるわけですから。

お金になる仕事って、
釣りで魚が釣れるようなたのしみがあるから、
つい、そっちばっかりやっちゃうんです。

肉体労働のように
たくさん魚が釣れるときって、
釣りのほんとうのおもしろさではないのに、
やっぱりウハウハしてしまう……。

だけど、お金にするのは
経営者の役目であるべきで、
たとえば、小さい会社で
クリエイティブな仕事をしているところなら、
社員に「おもしろくしてくれ!」と
言う以外の道ってないでしょう。


一般の会社の経営もまったくそうで、
「どこでいくら損するかもしれない
 可能性はあるけれども、これはやるべきだ」
ということを、どれだけ説得力を持って
説明できるかどうかにかかるんでしょうね……。

「これは失敗しませんからやります」
と言うよりは、時間も手間もかかるけど、
説明を早く終わらせようとしないで、
しつこい会議を開くことが、これからは
必要なってくるのかもしれないなぁ。

優秀な人の生活を聞いていると、
ものすごい
しつこいミーティングをしている人が
多いですよね。
三宅 ちょっと話が戻るんですけど、
『ひょうきん族』のときは、
大勢で打ちあわせをすることは、
一切なかったんです。

特番をやるときなんかは
ディレクターも作家も集まったけど、
おもしろいものって、割と、一対一の
個人的な関係で生まれることが多かった。


作家とディレクターの関係で生まれたり、
出演者とディレクターの関係で生まれたり。

大きな会議で、
「その企画のどこがおもしろいのよ?」
なんてなると、だんだん、
わからなくなっちゃうんです。

あの番組のたのしさは
「おもしろいな」と感じたことを、
すぐにやれたところなんです。
撮ってボツにするものも
けっこう多かったので、そこは、
今と違うところかなぁとは思いますけど。


バブルのときだから
できたのかもしれません。
土屋 『ひょうきん族』って、
ナイターが雨で流れたら
放送される番組でしたよね。

だからたぶん
「あんなもん当たるわけがないじゃないか」
と言われながら当たったものだと思うんです。

自分のことで言うと、やっぱり
『電波少年』がそういうものでした。
内部では「当たるわけがない」と
言われていたけど、実は当時の
高校生たちなんかが、支持してくれていた──

そうなると、
「テレビ局が、トータルとして、
 どういう方針でソフトを出していくか?」
ということになるんですね。

さっき、糸井さんがおっしゃったことは
そのとおりだと思うんです。
「一円でもたくさん儲けます」
と言うべきところでは言って、
隠れキリシタンのように
やっていく方法もあります。

ただ、それを若い連中が見ていて
「あぁ、お金は稼ぐべきなんだろうなぁ」
と受けとめてしまうことも
あるじゃないですか。

そうすると、オトナとしては、
「若い連中にそう思われてしまっていいのか」
とちょっと感じるんです。
三宅 その気持ちも、わかります。
糸井 でもね、
ぜんぶはうまくいかないじゃない?
優先順位としては、
「若いヤツがそう思っちゃう」
ということについては、
後で考えましょう、
ってことじゃないかなぁ……。

いっぺんにいっぱい実行するよりも、
やることをひとつひとつ決めてはやっていく。
乗っているときの仕事って、
だいたいそうですよね。
それでいいんじゃないかなぁと。

『電波少年』で言うと、
あやまりにいく回数っていうのは
めちゃくちゃ多かったでしょうけど
「これからは、あやまらないでいこう」
と考えはじめたら、
番組の優先順位が
揺らいでしまいますよね?

何かをしたら、かならず
どこかはうまくいかないところがある。

だけど、いちばん大事なことが
何かについてだけは話しつづけるというのが、
理想のような気がします。

今日の仕事論:

「『ひょうきん族』のときは、
 大勢で打ちあわせをすることは、
 一切なかったんです。
 特番をやるときなんかは
 ディレクターも作家も集まったけど、
 おもしろいものって、割と、
 一対一の個人的な関係で
 生まれることが多かった。
 作家とディレクターの関係で生まれたり、
 出演者とディレクターの関係で生まれたり。
 大きな会議で、
 その企画のどこがおもしろいのよ?
 なんてなると、だんだん、
 わからなくなっちゃうんです。
 あの番組のたのしさは
 おもしろいなと感じたことを、
 すぐにやれたところなんです。
 撮ってボツにするものも
 けっこう多かったので、そこは、
 今と違うところかなぁとは思いますけど」
             (三宅恵介)

※次回は、
 「そばにいるから、わかること」
 という、制作者どうしの交流を、語ります。
 おもしろいものが生まれるときには、
 よく「磁場がある」などと言われるものだけど、
 そういう「おもしろい」現場についての話なんです。

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2004-07-01-THU

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