土屋 |
イベントや映画も、
非常にわかりやすく言えば、
視聴率と同じような
数字にぜんぶ換算されて、
「数字で結果をあげること」
が、やっぱりエライ。
確かに、エライんだけど……。 |
糸井 |
「獲物を捕ってきた」
ということですよね? |
土屋 |
例えば
「儲かりゃいいってものじゃないよなぁ」
と誰かが言ったとすると、
「いや、でも、
放送局も株式会社ですから、
株主に対して誠実であるなら、
さらに儲けようとするのが
当たり前じゃないですか?」
という意見が出たりする……
そういうことに対して
「大筋はそうだろうけれど、
それだけでもいけないんじゃないか?」
と感じるんです。
「一円でも多く稼ぐ」ということで、
失うものだってあると思いますから。
そういうのって、もしかしたら、
「おもしろい企画を作ればいい」
という気持ちは
隠れキリシタンのように抱いていて、
表では
「一円でもたくさん儲けますよ」と
言うべきなのでしょうか? |
糸井 |
土屋さんの
言うとおりなんじゃないですか?
年を取ってからなんですけど、
「全員が建前で喋んなきゃなんない場所」
っていうのが、世の中には
どうもあるような気がしはじめたんです。
「お客さんのためを思っております」
という言葉は、一度でも
「思っておりません」と変えてはいけない。
そのあたりは、
言う側も言われる側も
わかっているウソなんです。
だから、例えば、
「長期的に稼ぐ方法と、
中期的に稼ぐ方法と、
すぐ稼ぐ方法があります。
この方法は、短期的には損をしますが、
今までの例とあわせると、
こんなふうに発展した例に
似ていると思うんです。
ずいぶん先に、このぐらい
稼ぐかもしれませんが、
失敗した場合にはこのぐらい損します」
と、最初のごあいさつでは、
しっかり頭は下げておいて、
正しいことを
ちゃんと言っておくべきなのかもしれないね。 |
三宅 |
そうですよね。 |
糸井 |
損をする可能性を
ぜんぶやめちゃったら、
実際に会社の価値が下がるわけですから。
お金になる仕事って、
釣りで魚が釣れるようなたのしみがあるから、
つい、そっちばっかりやっちゃうんです。
肉体労働のように
たくさん魚が釣れるときって、
釣りのほんとうのおもしろさではないのに、
やっぱりウハウハしてしまう……。
だけど、お金にするのは
経営者の役目であるべきで、
たとえば、小さい会社で
クリエイティブな仕事をしているところなら、
社員に「おもしろくしてくれ!」と
言う以外の道ってないでしょう。
一般の会社の経営もまったくそうで、
「どこでいくら損するかもしれない
可能性はあるけれども、これはやるべきだ」
ということを、どれだけ説得力を持って
説明できるかどうかにかかるんでしょうね……。
「これは失敗しませんからやります」
と言うよりは、時間も手間もかかるけど、
説明を早く終わらせようとしないで、
しつこい会議を開くことが、これからは
必要なってくるのかもしれないなぁ。
優秀な人の生活を聞いていると、
ものすごい
しつこいミーティングをしている人が
多いですよね。 |
三宅 |
ちょっと話が戻るんですけど、
『ひょうきん族』のときは、
大勢で打ちあわせをすることは、
一切なかったんです。
特番をやるときなんかは
ディレクターも作家も集まったけど、
おもしろいものって、割と、一対一の
個人的な関係で生まれることが多かった。
作家とディレクターの関係で生まれたり、
出演者とディレクターの関係で生まれたり。
大きな会議で、
「その企画のどこがおもしろいのよ?」
なんてなると、だんだん、
わからなくなっちゃうんです。
あの番組のたのしさは
「おもしろいな」と感じたことを、
すぐにやれたところなんです。
撮ってボツにするものも
けっこう多かったので、そこは、
今と違うところかなぁとは思いますけど。
バブルのときだから
できたのかもしれません。 |
土屋 |
『ひょうきん族』って、
ナイターが雨で流れたら
放送される番組でしたよね。
だからたぶん
「あんなもん当たるわけがないじゃないか」
と言われながら当たったものだと思うんです。
自分のことで言うと、やっぱり
『電波少年』がそういうものでした。
内部では「当たるわけがない」と
言われていたけど、実は当時の
高校生たちなんかが、支持してくれていた──
そうなると、
「テレビ局が、トータルとして、
どういう方針でソフトを出していくか?」
ということになるんですね。
さっき、糸井さんがおっしゃったことは
そのとおりだと思うんです。
「一円でもたくさん儲けます」
と言うべきところでは言って、
隠れキリシタンのように
やっていく方法もあります。
ただ、それを若い連中が見ていて
「あぁ、お金は稼ぐべきなんだろうなぁ」
と受けとめてしまうことも
あるじゃないですか。
そうすると、オトナとしては、
「若い連中にそう思われてしまっていいのか」
とちょっと感じるんです。 |
三宅 |
その気持ちも、わかります。 |
糸井 |
でもね、
ぜんぶはうまくいかないじゃない?
優先順位としては、
「若いヤツがそう思っちゃう」
ということについては、
後で考えましょう、
ってことじゃないかなぁ……。
いっぺんにいっぱい実行するよりも、
やることをひとつひとつ決めてはやっていく。
乗っているときの仕事って、
だいたいそうですよね。
それでいいんじゃないかなぁと。
『電波少年』で言うと、
あやまりにいく回数っていうのは
めちゃくちゃ多かったでしょうけど
「これからは、あやまらないでいこう」
と考えはじめたら、
番組の優先順位が
揺らいでしまいますよね?
何かをしたら、かならず
どこかはうまくいかないところがある。
だけど、いちばん大事なことが
何かについてだけは話しつづけるというのが、
理想のような気がします。 |