糸井重里は「ほぼ日」をはじめてから、
コピーの手法や技術についての話を
積極的に伝えようとはしてきませんでした。
でもやっぱり、一時代を築き上げた
広告コピーの話はじっくり聞いてみたい!
そんな機会をずっとうかがっていたら、
「前橋BOOK FES」の新聞広告で
糸井さんがひさしぶりにコピーを書くことに。
ほぼ日の編集者であるぼく(平野)は、
コピーライター出身なので興味津々です。
新聞広告を振り返りながら教わりました。
糸井さん、あのコピーってどう書いたんですか?
- ――
- この広告ができていくやりとりを
社内メールで見ていました。
かなりギリギリのスケジュール感で
ヒヤヒヤしていましたよ。
- 糸井
- いちばんタイトなやつは半日でつくったんですよね。
急遽、予定していなかった1本が増えたんです。
でも、だからと言って
そこで同じものを繰り返すわけにいかないし。
それまで綿密にやってきたのに、
同じのを繰り返すなんて冗談じゃないからね。
そこで、つくったのこれだっけ?
- ――
- 10月30日の朝刊。
ブックフェスの2日目にして
最終日でしたね。
- 糸井
- ダメ押しのタイミングなんだけど、
これはね、こうなるって読めたの。
つまり、先にぼくは前橋にいたから。
- ――
- 前乗りしていたおかげですか。
- 糸井
- 地元の人たちが言っていることを
ぼくは耳にしていたんです。
開催前のまだうまくいってもいないときから、
来年の話までしていたわけ。
それを耳にして「すげえな」と(笑)。
- ――
- なるほど(笑)。
- 糸井
- それもあって、当日はこのくらい
盛り上がるかなって見えはじめたんです。
それなら自分たちがやっていて
うれしいっていう気持ちを、
この広告に出すと自信が持てるなと思って。
- ――
- 急に生まれた一本なのに、
計算されていたかのようでした。
- 糸井
- 急に言われたおかげで
思いきりができたかもしれませんね。
そうやって、掲載の前日とか前々日に
コピーをつくることができたから、
様子見ができたんですよ。
新聞広告ではあるけれど、
インターネット広告のつくり方でしたよね。
- ――
- ふつうの新聞広告なら、1か月前とか、
もっと時間をかけて作りますもんね。
- 糸井
- そこに対応してくださった
上毛新聞のみなさんにはすごく感謝しています。
つまり、入稿のチェックがいくつか要素はあって、
事故が起こらないように注意するわけですよね。
新聞社のルールもあるし、
イベントを運営する側にとっても
言うべきことの決裁をとらなくちゃいけません。
「あれはダメだよ」とか「変更になったよ」とか、
「いまあんなこと言っちゃっていいの?」とか。
でも、その決裁って誰がするんだ?
って言うと、なんとおれだったんだよ(笑)。
- ――
- 糸井さんご自身が、
エグゼクティブプロデューサーだった。
なんと都合がいい!
- 糸井
- だから、クライアントがつくってるのと同じ(笑)。
でも、それは理想なんですよね。
広告の理想は社長がつくることなんです、
その社長がつくれるんだったらね。
- ――
- ああ、そうですよね。
- 糸井
- ほぼ日ではそれをやってきたわけですよね。
「それは違う」とか「まだそれを言うのは早い」とか、
ぼくが1人で夜中に、
ああでもない、こうでもないって考えればいいの。
とはいえ、「いいですね」って
言ってもらえるかどうかが重要です。
うちのデザイナーの廣瀬さんからデザインが来て
「いいんじゃないか」となったら、もう見せちゃう。
広告が出される前の日かな、
上毛新聞とJINSの田中さんに
同じくらいのタイミングで見てもらうんです。
- ――
- 糸井さんが最初の広告のときに、
廣瀬さんとやりとりをしていた
ラフがありましたよね。
- 糸井
- これは最初の原稿だよね。
演出コンテの下手な
ト書きみたいなことやっちゃったの。
最初に上がってきたデザインでは
もっと人が少なかったんだけど、
「こっちにこう列を長くしようぜ」って
指示をしているんです。
- ――
- 大行列になって、
おもしろくなりましたねえ。
- 糸井
- いいでしょう?
廣瀬さんの机に行って「どれどれ」って見て、
いいんだけど、もっと集まるって思った方が
人は勇気が出るなあと思ったんです。
前橋の町って観光地じゃないから、
お客さんを迎え入れることが
基本的にはないんですよ、あんまりね。
その意味でも、
「そんなに来るんだったら手伝わなきゃ悪いな」
みたいな気持ちになるような人数が見えたくて、
行列を伸ばしてもらって、
「ホントにはじまるよ」って言ったんです。
- ――
- 前橋のみなさんからしても、
まだ、「本当にやるのかな」という状況で。
- 糸井
- あとは「ホント」の「ホン」と本が重なって、
本、本、本、本と言ってるっていう。
っていうことで、なんだか知らないけど、
本のことで人が来るみたいだねって思ってほしかった。
でも、ぼくらは正直に言って、
全国から集まる人の数は読めなかったわけだから、
地元の人がこう思いながら来てくれることが
核になると思ってたんです。
群馬県以外の人が読んでいない上毛新聞に出した
このメッセージは重要だったんです。
- ――
- 前橋の商店街といえば、
シャッター街として有名だったんですもんね。
- 糸井
- その意味では、「ええっ? 人来るの?」っていう。
前橋まつりとか、だるま市だって、
外の人が来るんじゃなくて
地元の人が集まっているわけですからね。
「普段は人がいないけど、こんなにいるんだ」
というのを確かめる場所になっていたんです。
でも、「前橋BOOK FES」では、
前橋に他人が来ることがものすごく大事でした。
「この町に何を見にくるの?」って、
地元の人が疑っているところで、
なんだかわからないけど、本で来るっていうね。
だから、「本と外の人が来ちゃうぞ」というのが
ぼくが最初に考えたメッセージでした。
- ――
- 糸井さんが広告づくりに携わる前の、
1回目、2回目の広告は、
本好きな人が集まるイベントに見えましたが、
3回目からは「賑わいがやってくる」っていう、
前橋の人に向けたことばになりましたね。
- 糸井
- そうです。
- ――
- 本のやりとりを目的にしていなくても、
自分も関係者なんだなって思えるような。
- 糸井
- うん、平野はさすがに内輪の人間だから
よくわかってるよね(笑)。
- ――
- あはは。
- 糸井
- 何度か公にも言っていることですけど、
「本好きの人」が集まるっていうのは、
神田の古本まつりもそうだし、
いろんなところで本の集いってやっていますよね。
でも、本に関係したい人が集まるものだから、
それで大きな賑わいをつくったり、
地方の町を活性化させるようにやるのは
本当にむずかしいと思ったんです。
音楽のロックフェスならできても、
本で同じことをするとしたら、
本好き以外の人も来てくれないと
盛り上がらないんですよね。
カジュアルさも含めて、
インテリの集まりになっちゃうんです。
- ――
- 「本好き、集まれ」ではダメだと。
- 糸井
- 本好きの人が集まっている場所に、
そんなに本が好きじゃない人がいると、
「おれにはむずかしいこと言ってるな」って
見えちゃうのがすごく嫌だったんです。
だから、なんにもわかんないけど、
「あ、マンガもあった」とか、
そういう場にしたかったんですよね。
その意味でもヨシタケさんの絵はちょうどよくて、
全体のムードをつくってくれましたね。
「本が大好きだ」とかは1つも書いてなくて、
「本で元気になろう。」とだけ書いたんです。
そこは、コンセプトとして重要な部分でしたね。
- ――
- 「ホント、ホントにはじまるよ」があって、
そこから次に展開していきますよね。
(つづきます)
2023-02-23-THU