糸井重里は「ほぼ日」をはじめてから、
コピーの手法や技術についての話を
積極的に伝えようとはしてきませんでした。
でもやっぱり、一時代を築き上げた
広告コピーの話はじっくり聞いてみたい!
そんな機会をずっとうかがっていたら、
「前橋BOOK FES」の新聞広告で
糸井さんがひさしぶりにコピーを書くことに。
ほぼ日の編集者であるぼく(平野)は、
コピーライター出身なので興味津々です。
新聞広告を振り返りながら教わりました。
糸井さん、あのコピーってどう書いたんですか?

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5 ROCKとBOOKは似ている。

ーー
前橋のみなさんへの語りかけがあって、
次の広告が「歌」でした。
糸井
これは、開催の1週間前でしたね。
「好きな歌があるように、
好きな本が、見つかるといいね。」っていうのは、
これまた「本好き集まれ」ではない言い方です。
本はいっぱい読んだ人がえらいわけじゃないし、
あの歌、この歌、ヘタでも歌っていいの。
本との接し方のコンセプトを
歌になぞらえて出したものなんです。
これまで本についてずっと考えてきたけれど、
「歌みたいに」はすごくいいなあと思ったんです。
「こどものときにその本読んだよ」っていうのと、
「その歌、よく歌ったよ」って似ています。
あるいは、誰かが本の話をしているときに、
「読んでみようかな」とか「いいね、その話」みたいに、
本って、みんなが語れるものなんですよね。
そこに「おれはマンガだけどね」っていう人も
堂々とそこにいられるように書いたのが
このコピーなんで、けっこう重要な部分でしたね。

上毛新聞で10月22日に掲載された広告(クリックすると拡大画像が別ウインドウで開きます) 上毛新聞で10月22日に掲載された広告(クリックすると拡大画像が別ウインドウで開きます)

――
初期のロゴづくりから
ロックフェスに近づけていましたよね。
糸井
あっ、いいこと言うね。そうなんだよ。
ロゴタイプをカラビナみたいにして
「BOOK」の中に「ROCK」が
読めるようにつくったのも最初の仕掛けで、
これも、いいヒントになってましたね。
歌のROCK FESだとあんなに集まるのに、
本のBOOK FESだと集まったことがなかった。
本も歌もみんないいねって言うけど、
本だって、歌で集まるのと同じようなことなんです。
本と歌の2つはセットかもしれないね。

――
本と歌が。
糸井
前橋の人と外の人がごちゃごちゃになって、
「来年も来られるといいですね」って、
「来年も来ます」みたいなやりとりが
イベント中にあったじゃないですか。
ああいうやりとりは音楽が元だし、
ブックフェスでも、
ちょうど探していた本を見つけたとか、
人にすすめられてきたら、すごくよかったとか。
それって、本当に歌と同じですよね。
だから、ROCKとBOOKの話なんですよ。
まだ怖いんだけれども、
ぼくの中で自信を持ってやるしかないなって、
これを書いている頃にはできたのかもしれません。
――
これがイベントの1週間前、
10月22日でしたね。
糸井
そこに合わせて媒体が取れたのはすごいですよね。
この頃にぼくが、
前橋に前乗りしようって決めたんです。
――
開催の1週間前に、
糸井さんおひとりで前乗りしましたよね。
糸井
本当にやるかどうか、決めかねていたんです。
このコピーを書いた頃には、
もう行くって決めていたんじゃないかな。
「前橋は、はじめてですか?」っていうのを、
ぼくが言う側に回らないと
信用されないなと思ったんです。
やっぱりね、物事をはじめるときには、
自分が信用されていないかもしれないって
考えていたほうがいいんですよ。
それは謙虚とかじゃなくて、
勝ち戦をやりたいなら、本当に考えた方がいいです。
「どこかであいつ、気に入らないんだよ」
というのは、世論になるはずがないから。
――
「東京からやってきたけど、
1週間も前橋にいたんだよ」になるんですね。
糸井
そうそうそう。
前から来ていたらしいってわかれば、
「物好きだね」って言うかもしれないけど、
なんていうかさ、内輪の人になれるの。
それこそ、本が吉岡町の倉庫から
運送屋さんが運んでくるのを見に行ったり、
トラックが着いていっしょに運んだり、
そういうことをじぶんでやったんです。
そうすると、当日とか前日の夜に、
「どう?うまく行ってる?」って言いながら
暖簾をくぐってくるのと、ぜんぜん違うんです。
――
たしかに。
そういう人は信用できます。
糸井
それは、自分だったら
そういう人との方がやりやすいなと思ったから。
前橋に前乗りしようって決めちゃえば、
もっと気楽にできるなあって思ったんです。
今さらここで、ああしてくれと言ったって
できるわけないんだから。
あとは「たのしくね」っていうだけなんで。

――
糸井さんが実際に前橋に行ったことで、
あのイベントに関係する人たちの
士気も上がった感じがしたんです。
しかも現場で見たことがちゃんと
「今日のダーリン」に反映されていましたし。
糸井
そう、リアルタイムだったからね。
ぼくはリアルタイムで前橋にいたし、
ほぼ日もリアルタイムで使いましたよね。
読者の中には、ブックフェスの話ばっかりで
嫌だなっていう人も
いるかもしれないなぁと思ったけど、
ぼくの頭の中がこれでいっぱいだったんで、
それはもうしょうがなかった。
――
そのころに書かれていたことで、
「自分は18年間しか前橋にいなかったけど」
ということを「すごい短い」と
表現していましたよね。
でも、よくよく考えてみたら、
ぼく自身も地元にいた期間って同じで、
大学で上京した人はみんな18年なんですよね。
糸井
そうなんだよ。
――
ぼくの年齢だと
「人生の半分を過ごした」地元になるので、
いつかその18年間を短いと
思うようになるんだなってハッとしたんです。
糸井
平野は静岡出身だっけ?
ーー
はい、静岡の浜松です。
糸井
いいよねえ、風光明媚で。
ーー
はい、観光も特産物も恵まれていまして。
糸井
ぼくは小さいときから前橋を見ていたから、
前橋の不利みたいなものもよくわかってるんです。
「何々があるからおいでよ」っていうものが
本当にない街なんですよね。
景色がいいって言われても、どこのこと?
目を遠くして山並みを見るとか、川を見るんです。
でも、いつまでもそれじゃダメですよね。
いま、JINSの田中さんたちが
ドン・キホーテ的に開拓しています。
「バカって言われてもやります」なんてことを
言いながら活動する人がいたのを見たから、
ぼくも気づかされて、
「山と川を見てたんじゃしょうがねえな」って(笑)。
――
大学の同級生に前橋高校出身の友人がいて、
「上毛かるた」ぐらいしか
誇れるものがないって言っていました。
糸井
なあ、そうだろう?
いつまでもそうしているんだったら、
新しい上毛かるたをつくるべきだよね。
――
新しいかるたですか(笑)。
糸井
カタカナにしてさ、
「シン・ジョウモウカルタ」。
――
シン・ウルトラマンのように。
糸井
平気な顔してつくれるよ、きっと。
毎年替わるシン・ジョウモウカルタ(笑)。
今回の「前橋BOOK FES」では、
名物があろうがなかろうが、
「薪を配ればキャンプファイヤーができるよ」っていう、
その自信がちょっとでもついてくれると
いいなあと思ったんですよね。
まあ実際、前橋には気の短い方々が多いんで、
「来年はどうなの?」っていうのは、
本当にあった話なんですよね。
――
(笑)
糸井
「この場所で、こうやったらいいんじゃないの?」
「来年もやってくれるんだろうね」って言うんです。
それは、前橋のあなたたちがやるんですよ(笑)。
今回、ぼくたち「ほぼ日」は
たくさんの人と時間をかけて協力しました。
地元の人だけでとは言わないけど、
そういうネタを撒くことができた気はするので、
「次はどうやればいいんだろう?」というのが、
この広告の中にも
ヒントがあるような気がするんですよね。

(つづきます)

2023-02-25-SAT

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