糸井重里は「ほぼ日」をはじめてから、
コピーの手法や技術についての話を
積極的に伝えようとはしてきませんでした。
でもやっぱり、一時代を築き上げた
広告コピーの話はじっくり聞いてみたい!
そんな機会をずっとうかがっていたら、
「前橋BOOK FES」の新聞広告で
糸井さんがひさしぶりにコピーを書くことに。
ほぼ日の編集者であるぼく(平野)は、
コピーライター出身なので興味津々です。
新聞広告を振り返りながら教わりました。
糸井さん、あのコピーってどう書いたんですか?
- ーー
- 前橋のみなさんへの語りかけがあって、
次の広告が「歌」でした。
- 糸井
- これは、開催の1週間前でしたね。
「好きな歌があるように、
好きな本が、見つかるといいね。」っていうのは、
これまた「本好き集まれ」ではない言い方です。
本はいっぱい読んだ人がえらいわけじゃないし、
あの歌、この歌、ヘタでも歌っていいの。
本との接し方のコンセプトを
歌になぞらえて出したものなんです。
これまで本についてずっと考えてきたけれど、
「歌みたいに」はすごくいいなあと思ったんです。
「こどものときにその本読んだよ」っていうのと、
「その歌、よく歌ったよ」って似ています。
あるいは、誰かが本の話をしているときに、
「読んでみようかな」とか「いいね、その話」みたいに、
本って、みんなが語れるものなんですよね。
そこに「おれはマンガだけどね」っていう人も
堂々とそこにいられるように書いたのが
このコピーなんで、けっこう重要な部分でしたね。
- ――
- 初期のロゴづくりから
ロックフェスに近づけていましたよね。
- 糸井
- あっ、いいこと言うね。そうなんだよ。
ロゴタイプをカラビナみたいにして
「BOOK」の中に「ROCK」が
読めるようにつくったのも最初の仕掛けで、
これも、いいヒントになってましたね。
歌のROCK FESだとあんなに集まるのに、
本のBOOK FESだと集まったことがなかった。
本も歌もみんないいねって言うけど、
本だって、歌で集まるのと同じようなことなんです。
本と歌の2つはセットかもしれないね。
- ――
- 本と歌が。
- 糸井
- 前橋の人と外の人がごちゃごちゃになって、
「来年も来られるといいですね」って、
「来年も来ます」みたいなやりとりが
イベント中にあったじゃないですか。
ああいうやりとりは音楽が元だし、
ブックフェスでも、
ちょうど探していた本を見つけたとか、
人にすすめられてきたら、すごくよかったとか。
それって、本当に歌と同じですよね。
だから、ROCKとBOOKの話なんですよ。
まだ怖いんだけれども、
ぼくの中で自信を持ってやるしかないなって、
これを書いている頃にはできたのかもしれません。
- ――
- これがイベントの1週間前、
10月22日でしたね。
- 糸井
- そこに合わせて媒体が取れたのはすごいですよね。
この頃にぼくが、
前橋に前乗りしようって決めたんです。
- ――
- 開催の1週間前に、
糸井さんおひとりで前乗りしましたよね。
- 糸井
- 本当にやるかどうか、決めかねていたんです。
このコピーを書いた頃には、
もう行くって決めていたんじゃないかな。
「前橋は、はじめてですか?」っていうのを、
ぼくが言う側に回らないと
信用されないなと思ったんです。
やっぱりね、物事をはじめるときには、
自分が信用されていないかもしれないって
考えていたほうがいいんですよ。
それは謙虚とかじゃなくて、
勝ち戦をやりたいなら、本当に考えた方がいいです。
「どこかであいつ、気に入らないんだよ」
というのは、世論になるはずがないから。
- ――
- 「東京からやってきたけど、
1週間も前橋にいたんだよ」になるんですね。
- 糸井
- そうそうそう。
前から来ていたらしいってわかれば、
「物好きだね」って言うかもしれないけど、
なんていうかさ、内輪の人になれるの。
それこそ、本が吉岡町の倉庫から
運送屋さんが運んでくるのを見に行ったり、
トラックが着いていっしょに運んだり、
そういうことをじぶんでやったんです。
そうすると、当日とか前日の夜に、
「どう?うまく行ってる?」って言いながら
暖簾をくぐってくるのと、ぜんぜん違うんです。
- ――
- たしかに。
そういう人は信用できます。
- 糸井
- それは、自分だったら
そういう人との方がやりやすいなと思ったから。
前橋に前乗りしようって決めちゃえば、
もっと気楽にできるなあって思ったんです。
今さらここで、ああしてくれと言ったって
できるわけないんだから。
あとは「たのしくね」っていうだけなんで。
- ――
- 糸井さんが実際に前橋に行ったことで、
あのイベントに関係する人たちの
士気も上がった感じがしたんです。
しかも現場で見たことがちゃんと
「今日のダーリン」に反映されていましたし。
- 糸井
- そう、リアルタイムだったからね。
ぼくはリアルタイムで前橋にいたし、
ほぼ日もリアルタイムで使いましたよね。
読者の中には、ブックフェスの話ばっかりで
嫌だなっていう人も
いるかもしれないなぁと思ったけど、
ぼくの頭の中がこれでいっぱいだったんで、
それはもうしょうがなかった。
- ――
- そのころに書かれていたことで、
「自分は18年間しか前橋にいなかったけど」
ということを「すごい短い」と
表現していましたよね。
でも、よくよく考えてみたら、
ぼく自身も地元にいた期間って同じで、
大学で上京した人はみんな18年なんですよね。
- 糸井
- そうなんだよ。
- ――
- ぼくの年齢だと
「人生の半分を過ごした」地元になるので、
いつかその18年間を短いと
思うようになるんだなってハッとしたんです。
- 糸井
- 平野は静岡出身だっけ?
- ーー
- はい、静岡の浜松です。
- 糸井
- いいよねえ、風光明媚で。
- ーー
- はい、観光も特産物も恵まれていまして。
- 糸井
- ぼくは小さいときから前橋を見ていたから、
前橋の不利みたいなものもよくわかってるんです。
「何々があるからおいでよ」っていうものが
本当にない街なんですよね。
景色がいいって言われても、どこのこと?
目を遠くして山並みを見るとか、川を見るんです。
でも、いつまでもそれじゃダメですよね。
いま、JINSの田中さんたちが
ドン・キホーテ的に開拓しています。
「バカって言われてもやります」なんてことを
言いながら活動する人がいたのを見たから、
ぼくも気づかされて、
「山と川を見てたんじゃしょうがねえな」って(笑)。
- ――
- 大学の同級生に前橋高校出身の友人がいて、
「上毛かるた」ぐらいしか
誇れるものがないって言っていました。
- 糸井
- なあ、そうだろう?
いつまでもそうしているんだったら、
新しい上毛かるたをつくるべきだよね。
- ――
- 新しいかるたですか(笑)。
- 糸井
- カタカナにしてさ、
「シン・ジョウモウカルタ」。
- ――
- シン・ウルトラマンのように。
- 糸井
- 平気な顔してつくれるよ、きっと。
毎年替わるシン・ジョウモウカルタ(笑)。
今回の「前橋BOOK FES」では、
名物があろうがなかろうが、
「薪を配ればキャンプファイヤーができるよ」っていう、
その自信がちょっとでもついてくれると
いいなあと思ったんですよね。
まあ実際、前橋には気の短い方々が多いんで、
「来年はどうなの?」っていうのは、
本当にあった話なんですよね。
- ――
- (笑)
- 糸井
- 「この場所で、こうやったらいいんじゃないの?」
「来年もやってくれるんだろうね」って言うんです。
それは、前橋のあなたたちがやるんですよ(笑)。
今回、ぼくたち「ほぼ日」は
たくさんの人と時間をかけて協力しました。
地元の人だけでとは言わないけど、
そういうネタを撒くことができた気はするので、
「次はどうやればいいんだろう?」というのが、
この広告の中にも
ヒントがあるような気がするんですよね。
(つづきます)
2023-02-25-SAT