今、演劇やコントで話題の「8人組」、知っていますか。
2020年に旗揚げすると、2022年から3年連続で
『ABCお笑いグランプリ』の決勝に進出し、
演劇とコント、年2回開催される
単独公演のチケットは即完売。
それが、「ダウ90000」です。なんだかすごそうですよね。
でもおもしろいのは、ここから。
じつはダウ90000、メンバー8人のうち7人が、
「役者志望」なんです。
7人を誘ったグループの発起人であり、
全てのネタを書き続けている蓮見翔さんだけが、
ひとり、本気の「お笑い志望」。
夢が違う7人と1人は、4年前、なぜ一緒に走り始めたのか。
そして、「8人組」のひとりとして
自分の人生がとてつもないスピードで加速していくなか、
漫才師を目指した青年と、役者を志した若者たちは、
今、いったい何を思っているのか。
チームのあり方としても、
それぞれの人生の選択としても、とっても不思議で。
この不思議な台風の真ん中に立つ
「蓮見翔」という人の眼差しを、知ってみたいと思いました。
あまりに正直な、全8回。聞き手は、ほぼ日のサノです。
- サノ
- じゃあ、7人の「役者志望」のみなさんは、
ある意味吹っ切れているというか、
「ダウ90000」のメンバーとして今の道を歩むことに、
もう、ためらいはない状態なんでしょうか。
- 蓮見
- いや、まさに今、ちょうど壁にぶち当たってると思います。
- サノ
- えっ。そうなんですか。
- 蓮見
- 今ダウ90000って、バラエティ番組に出るようになったり、
自分たちの冠番組が始まったりしてる時期なんですけど、
彼らはもともとそんな世界を目指してた子たちではないから。
やっぱり大変そうですね。
- サノ
- それは蓮見さんから見ていて、
具体的に、どういう大変さなんでしょうか。
- 蓮見
- 「素人でいちゃいけなくなった」っていう、
そこの葛藤がいちばんあると思います。
もちろん、まだ知名度も突き抜けきってはいないんで
素人っぽい立ち振る舞いでウケる現場もあるんですけど、
テレビに出るようになったらもう
観てる人には「素人」とは思われないから、
ちゃんと「プロとしてのコメント」が
できなきゃいけないじゃないですか。
そういう、「あれっ、ライブでは素人感でウケたのに、
テレビじゃウケないな」みたいなズレを、
それぞれが、一つひとつ気づいていってる時期だと思います。 - 「必要としてもらってる以上はしっかりやりたい」
って思いもきっとあるんだろうし、
でも、「自分にはバラエティなんてできないけどな」
みたいな気持ちもあるだろうし。
そこの狭間で、すごく葛藤している時期だと思う。 - で、そのへんに関しては、
僕は「出ないなら出ないって決めちゃったほうがいいよ」
と言ってます。
- サノ
- ああ。「頑張ってできるようになれ」ではない。
- 蓮見
- はい。べつにいいから。出なくても。
そもそも僕らは
「自分たちの公演をやりたい」ってことで組んでるんだし、
そういうことは俺がやるから、
苦手だったら無理にやらなくていいよっていう。 - でも、ちゃんとバラエティを頑張りたいメンバーもいるんで、
「他のメンバーがやってるのに自分だけ出ないのは嫌だ」
みたいなことも、きっとそれぞれに思ってたりとか。
今やっとそういうことを、
本気で考える時期に入ってる気がします、みんな。
- サノ
- なるほど。
ある意味、今、「ダウ90000の過渡期」なんですね。
- 蓮見
- うん。だと思います。
僕としては、もう、決めてほしいんです。
「一生素人でいる」のか、
「プロとして険しい道を進む」のか。
今が決めなきゃいけないタイミングだと思うんですけど、
まだ半々だと思いますね。
今必死にそこに向き合ってるところなので、
見守ってあげてほしい。
- サノ
- もはや、学校の先生が生徒を見守っているような。
- 蓮見
- 体感は、「妹」「弟」かな。
あんまりアドバイスするのもなと思って、
僕はもうあんまり何も言わないようにしてるんですけど。
「俺が8人いるだけ」になっちゃうのは
気持ち悪いなと思うし、
「自分で考えて頑張ってみたら」と思ってるので、
ここからだと思いますね、いろいろ変わっていくのは。
- サノ
- あの、蓮見さんご自身は、
今、どういう気持ちなんでしょうか。
今、楽しいですか?
- 蓮見
- ああー、むずかしい質問だな。
まず、前提、めちゃくちゃ楽しいです。
コント書いてるのはもう、めちゃくちゃ楽しい。
テレビ出てるのも、僕はめっちゃ楽しいです。
めっちゃ楽しいからストレスもなにもないんですけど、
まあ、ひとつちょっとあるとすれば、
「俺がやらなくても、もっと面白い人はいっぱいいるけどな」
とは思いながらやってますね。これはもう、ずっとですけど。
- サノ
- ああ‥‥。
あの、蓮見さんのインタビューをいろいろ見ていると、
「くっきー!さんみたいな、生き様そのものが
お笑いのような『ザ・お笑い芸人』には自分はなれないし、
ラーメンズの小林賢太郎さん、大好きだけど、
この時代に、ああいったカリスマにも自分はなれない」、
みたいな言葉をたびたび見かけるんですよ。
- 蓮見
- はい、どっかで言ってると思います。
- サノ
- なんか、言葉があってるかわかんないんですけど,
蓮見さんってものすごく、なんというか‥‥
「勘違い」をしない人だなと思うんです。 - 「絶対この道を成功させるぞ」
みたいな熱量ももちろん感じるんですけど、
どこかでものすごく冷静な印象が、話していてあります。
- 蓮見
- そこはそうかもしれませんね。
そう言われてみると、
あんまり勘違いできるようなタイミングは
なかったかもしれないなあ。
ずっと冷めてるのかもしれないですね、そういう意味では。
僕、お笑い芸人になること自体、
中学生の時点で一回諦めてたりもするんで。
- サノ
- あっ、そうなんですか。
思春期、真っ只中に。
- 蓮見
- 小学生のころは、めちゃめちゃ憧れてたんですよ。
たぶん、初めてちゃんとなりたいと思ったものが
「お笑い芸人」で。 - 小3ぐらいのときに、
『モヤモヤさまぁ~ず』の再放送かなんかを見たのかな。
お昼頃に見て、のめり込んで、
さまぁ~ずさんの単独ライブを、TSUTAYAで全部借りて。
- サノ
- 小学生3年生が。
そのときはもう、本気なんですか。
「将来、芸人だ」っていうのは。
- 蓮見
- うん。めちゃめちゃなりたいと思ってたんじゃないですかね。
面白そうだし、楽しそうだし。 - ただ、中学生になって、深夜バラエティーと出会って。
めちゃくちゃ観だしたんですよ。
『ざっくりハイボール』とかそのへんを、
たぶん、週に30本ぐらい録画して。
で、観てるうちに、
「ちょっとこれは面白すぎるな」と思っちゃったんですよね。
「自分には無理だろうな」って。
- サノ
- でも、本来中学生ってなんというか、
大いに「勘違いできる」時期でもありますよね。
僕なんかは完全に、イタイ「勘違い」側だったんですけど。
- 蓮見
- いやいや、
中学生なんて、絶対そっちのほうがいいと思う。
健全ですよ、勘違いできたほうが。
- サノ
- どうして蓮見さんはそういう時期に、
冷静な「憧れとの距離の取り方」ができたんでしょうか。
- 蓮見
- うーん‥‥これが全部かはわかんないですけど、
僕、父親が「ギタリスト」なんですね。
で、自分なりに考えてみると、
父親がギタリストってことが、ちょっと、
「あこがれとの距離の取り方」に関係してたのかもしれない。
- サノ
- どういうことですか?
- 蓮見
- 今思えば、ギタリストという仕事だけで
子ども2人を育てるって相当すごいと思うんですけど、
当時の僕はすごく雑に、
「テレビに出てないから売れてない」と思ってたんですよ。
育ててもらっておいてほんとに失礼な話ですけど(笑)。 - まあ、なんにもわかってなかったんです。
「生活をする」ということと
「テレビにいっぱい出る大スター」みたいなことは
本当はまったく別軸のことなのに、
「ギターこんなにうまいのに、有名になれないんだ」
ぐらいに思ってたというか。 - そういう子どもだったんで、
「ちょっと面白いぐらいで、夢が叶うわけない」
みたいな距離の取り方をしてたのかもしれません。
- サノ
- なるほど。
では、そんなある意味「冷めていた」蓮見さんが、
今「ダウ90000・蓮見翔」になっているというのは、
どういうことなんでしょうか。
- 蓮見
- まあようは、「諦めきれてなかった」んでしょうね、結局ね。
ずーっと、「諦めなきゃなあ」って思ってた。
「諦めなきゃなあ」って、全然諦められてないんで。 - だから、
「芸人にはなれないかもしれないけど、
せめて『脚本を書く』っていう行為ができたら
ネタを書いたりするのに近いのかな」とか思って、
気づいたら日芸に入っちゃってたし。
諦めきれずにズルズルきちゃったんだと思いますね。
自分のことを騙しながら。
- サノ
- 騙せていたつもりだけど、
ずっと引力は働いていて、引き寄せられていた。
- 蓮見
- そうだと思います。
で、8人で組んでからはもう、
「やらなきゃしょうがないからな」って
ずっと思ってるだけだと思います。
「もっと面白い人はいっぱいいる」とか、
「もともと漫才師になりたかった」とか、まああるけど、
「これで走り出したんだから、もうやるしかない」っていう。
で、気づいたら今、
「あっでも、楽しくできてるわ」っていう感じですね。
(つづきます)
2024-10-24-THU