絵本『ナージャの5つのがっこう』の作者
キリーロバ・ナージャさんは
ソ連(当時)レニングラード生まれ。
数学者の父と物理学者の母の転勤とともに
ロシア、イギリス、フランス、アメリカ、カナダ、日本の
6か国で地元教育を受けた経験があります。
映画『小学校〜それは小さな社会〜』の監督、
山崎エマさんはイギリス人の父と日本人の母を持ち、
日本で公立の小学校とインターナショナルの中高に通い、
アメリカの大学に進学した経験をお持ちです。
そんなふたりに日本の教育のいいところ、
ふたりの考える理想の学校とは何かをテーマに
話をしていただきました。

このときの動画はほぼ日の學校でご覧いただけます。

>山崎エマさん

山崎エマ(ヤマザキ・エマ)

東京を拠点に活動するドキュメンタリー監督。高校野球や小学校教育など、身近な題材を通して日本社会を見つめ、多文化の中で培った視点で物語を描く。代表作『小学校〜それは小さな社会〜』から生まれた短編『Instruments of a Beating Heart』は、2025年米アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門にノミネートされ、国際的な注目を集めた。

>キリーロバ・ナージャさん

キリーロバ・ナージャ(きりーろば・なーじゃ)

ソ連(当時)レニングラード生まれ。数学者の父と物理学者の母の転勤とともに、6か国(ロシア、日本、イギリス、フランス、アメリカ、カナダ)の各国の地元校で教育を受けた。広告会社に入社後、様々な広告を企画し、2015年の世界のコピーライターランキング1位に。最近の仕事は、困った人をアイディアで助けること。絵本作品に『ナージャの5つのがっこう』(市原淳・絵/大日本図書)、『からあげビーチ』『ヒミツのひだりききクラブ』『じゃがいもへんなの』(以上、文響社)、『6か国転校生ナージャの発見』(集英社インターナショナル)がある。

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第3回:思いやりの心を育む

ナージャ
フランスの学校では、
最近フランスに来たという子たちのクラスだったんですよ。
でも喋らないとフランス語は上達しないから、
先生が上手に刺激するんですよ。
みんなが盛り上がりそうなテーマを投げることで、
モチベーションが湧いてくるんです。
例えば植物の育て方を投げてきて、
各々が自分が正しいと思っていることを言い合う、
そして実際にやってみて、どれが正しかったか、
学ぶようなスタイルでした。
エマ
日本の子どもたちの今の教育制度のベースには、
モチベーションの大きなひとつに、
「自分のためよりは、誰かのために」
みたいなところからスタートしますよね。
日本だと毎週学級会が決められていて、
例えば来週何をして遊ぶかとか、
そういう話し合いが1年生の頃からあるわけです。
アメリカの友達に、学級会って、ひとつの授業分、
時間を取って話し合うんだよと言うと、
「なんでそんなに時間がかかるの?多数決だと数秒だよ」
と言われたことがあります。
それは、日本の学級会が例えば、
来週の遊びを「鬼ごっこ」に決めることが
授業の目的ではなくて、話し合っている間に、
ひとりも取り残さないというような、
どうしてもイヤだという子がいるのであれば、
その子の気持ちに耳を傾けて、
話し合って解決しようとするから時間を要するんです。
ひとつのことに決まりそうであっても、
この子がさっき、こう言っていたから、
もうちょっと考えましょうと言っている子が、
その授業の中で、いちばん評価される。
結果ではなく、過程が大切で、
鬼ごっこもやるけど、10分だけ、
その子の希望を叶えて、そのあと鬼ごっこにしよう
というような合意形成がなされます。

ナージャ
それを小さい頃から繰り返しやっていることは、
すごいことですよね。
エマ
私の映画の中でも、
1年生が遠足で住宅街を歩いてる時に、
先生が「赤ちゃんが寝ているかもしれないから
静かに歩きましょう」と、
6歳の子どもたちに、赤ちゃんへの配慮を求める。
しかも赤ちゃんがそこにいるとかじゃなくて、
いるかもしれないというところに象徴される、
他者を慮る気持ち。
これは、私たちが今慣れている日本の社会の
自転車でお互いに譲り合って避け合うような空気。
この部分は、日本のいいところだなあと思います。
ナージャ
ほんとですね。
私は中学でカナダに行ったら、
授業で課題が出たんです。
答えがないから、どうしたら面白くできるか、
自分で工夫しなきゃいけない。
超人見知りで、喋らない子だったんですが、
先生から喋らないと存在している意味がないと言われ、
自分が前に出ずとも、サバイブするには、
どうしたらいいか考えました。
たぶん私は、いつも浮いていたから、
逆に、日本の学校の話とか、
海外の人にとっては知らない世界を作文するだけで、
かなり褒められるんですね。
そこでアイデアや工夫で乗り切れることを発見して、
うまくいったんです。
これは日本で、周りを観察して、
そこで、どういう風に振る舞うといいかを
すごく学んでいたからできたんじゃないかと思います。

エマ
国が変われば、学校が変われば、
違う考え方があるんだってことに気づけずに、
学校が人生の全部って思って
苦しくなっている子がいるとしたら、
あくまでも、それはひとつのやり方なんだよって
教えてあげたいなと思います。
中学生って、世界中で、
いちばん大変な時期だと思うんですが、
子どもは、与えられた箱、学校や教室、
大人が決めたやり方に、染まっていく。
だからこそ現場の先生だけじゃなくて、
大人側が常にアップデートして、
社会全体で考えていくことが必要だなと思います。
たとえば多様性の考え方がスタートして、
今その子たちが大人になって社会に出た時に、
私の予想ですが、たぶん宅配便は
2時間の受け入れができなくなる気がします。
教育が変化したことにより、
今もしかしたら私たちは気づけていない、
こんなところまで変わっちゃうの?
というところが出てくる可能性があるということです。
でも私は、日本の電車が
時間通りに来るということは変わってほしくなくて、
だから、今の日本の教育のいいところに気づいて、
変えないでいる部分も必要な気がします。
ナージャ
いやあ、なんか、すごく大事なことですよね。
こういう子どもたちを育てようという思想があって、
学校の教育ができると思うんですよ。
電車の時間や、電車の前の整列とか、
日本は、すごくきちんとしているじゃないですか。
それは時間を守るとか、物事がスムーズに動くために
どうしたらいいかを考えることができるように、
子どもたちを育ててきたから。
海外の電車なんて、14時半と言ったら、
14時〜15時の間に、1本来るのねという
ノリのところも多くて。
それは違う国は違う価値観を大事にしているから、
時間通りに来ないんですよね、きっと。
教育って、どういう子どもを
社会のために育てたいかということだから、
時代とともに、もちろん変わるべきだし、
今のいいところは残したいけれど、
そしたらこっちができなくなりますよねと、
自分たちでわかる必要が結構ある気がしています。
エマ
日本はすぐに自己批判をしてしまいがちだけれど、
今の日本の学校のやり方をぜんぶ捨てて、
新しい教育をスタートするとか、
全然しなくていい!
ナージャ
ほんと、全然しなくていい!!!

(つづきます)

2026-04-05-SUN

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  • 『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』

    山崎エマさんが今まで
    自分自身のアイデンティティと向き合って、
    何度も何度も自分自身の再構築をしてきたこと、
    無理だよと言われても諦めずに動いてきたことに、
    きっと今悩んでいる人たちは
    心が救われるのではないかと思いました。
    エマさんが今までつくってきた作品が、
    どのような想いでつくられたのかも心が動かされました。
    これからのエマさんのご活躍もたのしみです。
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  • 『ナージャの5つのがっこう』

    ナージャさんの体験を元につくられている絵本で、
    ロシア、日本、イギリス、フランス、アメリカの
    学校の違いが、わかりやすく描かれています。
    「違い」のおもしろさを感じながら読み進めると、
    もっといろんな「教室」について考えるところがあります。
    自分だけで妄想するもよし、友達や家族と話し合うもよし、
    アイデアがどんどん出てきて、元気がもらえる絵本です。
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