
世界の感じ方が少し変わるかもしれない
旅があるなら、行ってみたいと思いますか?
いろんな地域の方と関わる「ほぼ日あっちこっち隊」。
北海道では、増えすぎているシカの話をきっかけに
道東の西興部(にしおこっぺ)村にたどりつき、
さまざまな方と仲良くさせていただいています。
狩猟、釣り、きのこ狩りや山菜採りなど、
豊かな自然とともに、思い思いに暮らす人々。
あいまのおしゃべり。都市とは違う時間の流れ方。
固まっていた考えがほぐれてゆきます。
この魅力をいろんな方に紹介できたらと思っていたら、
エゾシカ旅行社さんのツアーへの企画協力のかたちで、
ほぼ日も関わらせてもらえることになりました。
知らない方も多い土地だと思うので、
ずいぶんしっかりめに紹介してみます。
あなたもぜひ、西興部に出かけてみませんか。
(写真=幡野広志)
- さて、ここで西興部村のゲストハウス
「ガコッパー」オーナーの浅野和さんから聞いた、
ハンティングについての話を紹介させてください。
ツアーに直接関わる話ではありませんが、
「狩猟」について、新たな見方を
もたらしてくれるかな、と思います。
- ──
- 浅野さんが狩猟をはじめたきっかけは何ですか?
- 和
- ぼくはもう、バカな理由で(笑)。
エピソードが2つあるんですけど。 - 1つはアラスカのシャケ(鮭)、
もう1つは北海道のエゾシカっていう。
- ──
- シャケとエゾシカ。
- 和
- かなり昔ですけど、ぼくは自衛隊にいた経験があって。
そのとき鉄砲を持つこともあったんです。 - 当時は「そうなんだな」ってぐらいでしたけど、
やっぱり武器なわけじゃないですか。
その後、考えてみたら
「そういうものを持つってどうなのかな?」
という思いもあったんです。
生きていく上で、武器って必要なんだろうかと。
- ──
- たしかに。
- 和
- でもあるとき、アラスカをバイクで旅してたときに、
どしゃ降りの雨嵐に遭ったときがあって。 - 周りも真っ暗で見えなくなって、
どっかでビバーク(一時的野営)というか、
宿をとらなきゃならない。 - だけどそのとき、いい場所がなくて、
とにかく雨を避けようと橋の下に潜り込んだんです。
どしゃ降りの中、枝で火を起こして、
そこでずっと暖をとってたんですよ。 - だけど、来る日も来る日も雨がやまなくて、
動けなくて。
- ──
- へぇーっ。
- 和
- それで3日目、
「もう食器洗おう」とかって、川へ行って。 - 気づいたら、なじみの川の風景が
ちょっとうねって見えるんです。 - なんだろうと思ったら、それがもう全部
シャケの群れだったんですよ。
いっぱいすぎて、水もすごく浅くなってて、
川の形がうねってて。
ずっと岩だと思ってたものが、全部シャケ。
「こんなにいたの気づかなかった」
と思って、俺もう鳥肌立って。 - で、雨だし、自分の食い物もなくなってきてるし、
そのときもう、ただひたすら
「シャケ捕れるんじゃないかな」と思ったんです。
火は焚けるし、塩もあるし、焼けば食えるから。
- ──
- 「獲って食わなきゃ」というか。
- 和
- そう。だからTシャツをしばって、
網のような形にしてすくおうとするんです。
けど、ぜんぜん誰も入ってくれない。 - 川はこんな浅いのに、うまくいかない。
いろんな工夫をするんだけど、まったくダメで、
「うわ、やっと入った」と思っても、
上げようとするとピチャって逃げられる、みたいな。 - 「ヘタクソ! あ、俺、意外とダメなんだな。
サバイバル力ないんだなあ」とか思って。 - そのとき、昔どこかで見た
アイヌのシャケたたき棒みたいな道具を思い出して、
太い枝で水面を叩いてみたら、
1匹ポカンと浮いたんですよ。 - で、「やった!」と思って捕ろうとしたら、
またチュルンって逃げられて。 - 結局ナイフで槍みたいなのを作って
突き刺すことで捕れたんですけど、
たぶんそれが、自分のいちばん最初の
それなりに大きい狩猟体験。
どしゃ降りの橋の下、切羽詰まって、
やっと捕れたシャケ1匹みたいな。
- ──
- うわぁ。
- 和
- そのとき「うわーっ!」って、
すっごい感謝したんですよね。
「いろんな民族の人たち、昔から
こうやって捕獲して生き延びてきたんだ」
という思いが浮かんできて。
- ──
- そこで武器を持つ必要性を感じたというか。
- 和
- そう。行為自体が、
生活に即したものなんだなとわかって。 - そういうこともまた、
しばらくしたら忘れるんですけど(笑)。
- ──
- そして、もうひとつがエゾシカ?
- 和
- はい。そっちはいまのシャケの体験のあと、
「自分は武器無しで、もっと大きな
四つ足の獣を捕らえられるんだろうか?」
という興味がずっとあって。
- ──
- ああ、なるほど。
- 和
- それで登山で、日高山脈のポロシリ岳っていう
けっこう険しい山に挑戦してるときに、
中途半端な天候で、ずーっと天気待ちしてたんです。 - そのとき、別に腹が減ってたとかじゃないんですけど、
子鹿がいるのを見つけて。 - とにかくそこで
「武器無しで獣をつかまえる」ことへの
興味が思い出されて。 - もしここでいま、罠とか鉄砲とか、
使えるものが何もなかったとしたら、
自分に何ができるのかな、と思って。 - 「沢の水は飲めるけど、
炭水化物とたんぱく質は摂取できないな。
どうしよう‥‥子鹿だったらいけるかな」
みたいな思いが生まれてきて。
- ──
- すごい。
- 和
- 子鹿って、それまではいつも
近づくと逃げられてたんです。 - だけどそのときたまたま
「風下から行ったらいい」みたいな話を
聞いたことがあるのを思い出して、
やってみたら、ものすごく接近できたんです。 - ずーっと子鹿が向こうを向いてエサ食べてて、
「これいいの? 捕まえれるけど」みたいな。 - 「え、いいの? いいの?」とか思いながら
徐々に徐々に近づいて、
また最後、ワッとか行ったときに、
シャケと一緒でニュルっと逃げられて。
子鹿、めっちゃくちゃ素早くて。
しかも2発、身体に蹴りをくらって(笑)。
- ──
- うわぁ(笑)。
- 和
- すごくちっちゃいんですよ。
でもワッて行った瞬間に、
ニュルってなってドフドフッみたいな。
すっげー痛くて。 - 俺、その場で「うーっ」ってうずくまって、
その隙にもうぴょーんって行って、
「うわ、これやっぱ鉄砲いるかも‥‥」
みたいな感覚があったんです。
そのときからちょっと変わったかもしれないです。
- ──
- もともとはやっぱり
「鉄砲は持ちたくない」みたいな?
- 和
- 「鉄砲を持つ前になんとかできるはずだ」
と思ってたんです。
だけど実際やろうとしたら、全然できなかった。
だからそこで、しょうがないんだなと思ったというか。 - ただ、いまのぼくらって、
肉は買えば食べられる状況があるし、
わざわざ自分で撃つ必要ないじゃないですか。
だからその意味では、
やらなくていいと思うんです。 - でも、西興部村が特定猟域で、
「駆除に貢献する」ということで、
自分もやっていいかなと。
その機会があって、そういうことを体験できるのって、
なんだか恵まれてるなとも思いました。
- ──
- じゃあ猟銃を持ったのは、西興部に移住してから。
- 和
- してからですよ。
このシャケだ子鹿だとかは、全然もっと前の話です。
- ──
- そんな経験、ある人いない(笑)。
- 和
- もうバカですよ、ほんとに。
- でも、あのときもうほんとに
「あ、俺、勝てないんだな」と思って。 - 中型犬くらいの子鹿で、
向こう向いてずーっと草を食ってて、
「絶対いける!」と思ったんですよ。
脇をつかんだらそのまま引きずれるかなと。
だけどもうサクッと、ニュルっといって、
ドフッドフッですよ(笑)。 - もっと最初からワッと行けばよかったのか
‥‥わかんない。
いつか次があったらまたやろうって、
思ってるんですけど。 - ただ人間、いちど方法を覚えちゃうと
「楽しよう」みたいなところがあるから、
ハンティングをはじめちゃったいま、
あのときの純粋さで「わしづかみにいこう」とか、
できないかもしれないんですけど。
- ──
- 「シカを自分で捕まえる」という発想を
持ったことがなかったです(笑)。
- 和
- もうほんと、完全にただのバカですよ。
子どもが「カエルつかまえれるかな?」と
おんなじですから。 - だけど、あそこからやっぱり、
「鉄砲とか槍とかの道具が生まれたのって、
そういうことなんだ」と思って。
世界中、どこでもあるじゃないですか。
だからぼくも、自分で変な矢じりを
作ってみたりしてますけど。 - 剣とか弓とか槍とか、世界中で
同時多発的に発生したといいますし、
罠も世界中の民族が、同じように
掘って木を切って埋めてつくってますからね。
それがいちばん強くて簡単なんだと思うんですよ。 - そしてたぶんそのどれもが、
やっぱり生きるために登場してきたもの
なんだと思いますね。
(つづきます)
2026-04-07-TUE
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