気仙沼の唐桑にある民宿「つなかん」。
ここにサウナトースターがやってきて以来、
全国のサウナ好きが集まる
ちょっとした人気スポットになっています。
このたび、そんな「つなかん」が
クラウドファンディングで支援を募り、
新しいサウナをつくることになりました。
もちろん言いだしっぺは、
つなかん名物女将の菅野一代さん。
なんだかおもしろそうな話なので、
設計担当の斉藤道有さんもお呼びして、
みんなでいろいろおしゃべりしてきました。
そうそう、いま全国で公開中の
映画『ただいま、つなかん』のことも
あわせてうかがってきましたよ。

>菅野一代さんについて

菅野一代(かんの・いちよ)

「唐桑御殿つなかん」女将。

1963年生まれ、岩手県久慈市出身。
22歳のときにカッパ姿のやっさんに惚れて、
3ヶ月後に結婚。唐桑に嫁ぐ。
2013年10月、民宿「唐桑御殿つなかん」を開業。
2023年2月から、一代さんの10年を追った
映画『ただいま、つなかん』が全国で公開中。

ほぼ日のこれまでの登場コンテンツ
牡蠣の一代さん。
気仙沼の、あの人。」

>斉藤道有さんについて

斉藤道有(さいとう・みちあり)

美術家、
東北ツリーハウス観光協会代表理事、
DMO気仙沼地域戦略理事。

1977年、気仙沼生まれ。
宮城教育大学美術教育専攻卒業。
2001年より現代美術作品の制作発表。
震災後「3月11日からのヒカリ」や
「東北ツリーハウス観光協会」の主催をはじめ、
「気仙沼クルーカード」による
気仙沼市の地域経営や
観光のデザインにも取組んでいる。

ほぼ日のこれまでの登場コンテンツ
100のツリーハウス

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第4回 若葉の季節。

道有
つなかんのある唐桑って、
先が海しかない半島なんです。
陸だけみると行き止まりの場所にある。
ほぼ日
はい。
道有
そういう土地でああいう震災があって、
急にギャップのある若い世代が
ボランティアでたくさんやってきた。
そういう若者たちと交流する状況って、
それまでなかったと思うんです。
ほぼ日
やっぱり最初は戸惑いますよね。
道有
当時はそうもいってられないというか。
震災が目の前で起こって、
毎日が非日常だったから。

一代
ほんとに外の人たちに
助けられたって感じだったからね。
自衛隊の人たちも4、5日ぐらいたって、
ようやく入って来られたくらいで。
ほぼ日
けっこう時間がかかったんですね。
一代
唐桑だけ遅かったんだよね。
唯一入ってこられる道がつぶれてしまって。
で、4、5日ぐらいして
自衛隊が安否確認で入ってきた。
そしたら避難所のばあちゃんたちが
「あぁ、これで助かるよ!」って。
自衛隊の人たちを見て、
「自衛隊が来たよー!」って。
もう仮面ライダーばりのヒーロー。
道有
道路もつくってくれたもんね。
がれきを撤去して、
最初の幹線道路を通してくれて。
あれ、1ヶ月後くらいじゃないかな。
ほぼ日
道路の復旧は大きいですよね。
おかげでボランティアの人たちも、
ここまで来られるようになったわけで。
道有
でも、それだけじゃないっていうか。
やっぱり一代さんのような人がいて、
迎え入れる「つなかん」があって、
それがよかったんだと思う。
自然と人が集える場所があったことは大きい。
一代
わざわざ来てくれる人たちがいて、
なんにもないんだけれど、
やっぱりもてなしたいなって。
なにかじぶんたちができることで、
みんなに「ありがとう」ってきもちを伝えたい。
当時はほんとに必死だったからね。

道有
学生たちはご飯もよく食べるから(笑)。
一代
あ、いまので思い出したけど、
うちの旦那なんかひどいんだよ!
ほぼ日
ひどい?
一代
みんなここからすこしずつ
復興していこうってことで、
やっとの思いで北海道から「半成貝」という
ホタテの子供みたいなのを買ったの。
もうすごい貴重なもの。
それを海の中で「成貝」に育てるんだけど、
うちの旦那はその半成貝を学生たちに
「食べろ、食べろ」ってボイルにして。
ほぼ日
えぇーっ(笑)。
一代
まだ小さいホタテだから、
みんなもバクバクバクバク食べるわけ。
「おいしい、おいしい」って感動してくれて。
当時ボランティアをしてたエマって子も、
あのとき食べたホタテが
いまでも忘れられないっていうの。
やっさんが夜遅くイカダに行って、
ホタテを食べさしてもらったって。
そういう話をみんなで
映画を見ながらしたりしててさ。
私、やっさんにすごい怒ったんだよって。
あれ、いくらすると思ってんのって(笑)。
いまだからいえる思い出話だけど。
道有
やっぱり女子大生の力だね(笑)。
一代
やっさんの下心、見え見え!
ほぼ日
ははは。
一代
でも、うれしかったんだと思う。
ああいう中高年のおじさんたちは、
もうそれで元気になるんだから。
若い女の子たちが来てくれたってだけで、
もうしょぼんとしちゃったのが、
みんななんか元気になるっていうね。
女の子たちが「ミニスカサンタ」の格好で
仮設住宅まわったときだって、
みんないきいきしてたもん(笑)。
ほぼ日
デレデレしてる顔が浮かびます(笑)。
一代
だから、震災のときに
なにが必要ですかってよく聞かれたけど、
やっぱり若いパワーではないけれど、
そういう子たちが集まってくれるってのが、
なにより生きる力になるよね。
道有
うん、そうだね。
一代
私、若葉の時期がいちばん好き。
よく若葉の季節って、
なんでこんなに元気になるっていうか、
ワクワクするんだろうって。
新芽が出て、なんかこう、
いまからっていうときがいちばん好き。
それって若い人たちを見ると
元気になるっていうのといっしょだと思う。
それが次につなげるもの、
希望っていうものなんだろうね。
子どもたちもそうだよね。
子どもたち見るとなんか元気出る。
ほぼ日
出ます、出ます。
一代
だってさ、100歳ぐらいの
お年寄り見ても元気は出ないよ。
パワーを吸いとられる気はするけど(笑)。
子どもたちを見ると元気が出るのは、
やっぱりそういうことだなって思う。
震災のときもそうだったもん。
そういう若い子たちが集まってきたとき、
あっ、希望はまだあるぞって思った。

ほぼ日
そういう話を聞くと、
ますます「つなかん」という場の
大事さがわかりますね。
ここを学生ボランティアに開放してなかったら、
もしかしたら唐桑全体が
いまとはぜんぜんちがったかもしれない。
一代
あぁ、それはいえるかも。
ボランティアの受け入れをしてなかったら、
つなかんもなかったし、
私だって生きてたかどうかわかんない。
それを考えると、ほんとにそうだね。
道有
こういう場所があるってのは、
ほんとに大事だよね。
ほぼ日
次のサウナもそうなるといいですね。
一代
でもさ、よく考えてみたら、
いまこんなことになってるのも、
もともとは糸井さんのひと言からだから。
ほぼ日
そうなんですか?
一代
もともとはウェルビーの米田さんに
「サウナトースターっていくらするの?」
って糸井さんが聞いたんだって。
米田さんが「なんでですか?」って聞いたら、
「つなかんに置きたいんだよ」って。
でも、サウナトースターって
世界に一台しかないし、
米田さんにとっても大事なもの。
なのに米田さんはその場で
「だったら、これ持って行きますか?」って(笑)。
ほぼ日
さすが米田さん(笑)。
一代
で、すぐに糸井さんから電話あって、
「一代さん、サウナあったら困る?」って。
その電話、いまでも覚えてる。
「いやいや、困るって‥‥困りませーん!」って。
そのときはこんなに
サウナがブームになるとは思ってなかったけど。

ほぼ日
つなかんのサウナトースター、
いまや大人気ですもんね。
一代
ほんとにそうなの。
土日はもうほとんど
サウナの人たちっていうくらい。
サウナトースターがなかったら、
ここまで泊まりに
来てくれることもなかっただろうし。
ほぼ日
サウナ小屋が完成したら、
ますます忙しくなりそうですね。
一代
完成したらみんなで入りましょうね。
海が見えるサウナ。
ほぼ日
はい、絶対また来ます。
一代さんの夢を実現させるためにも、
まずはクラファンですね。
一代
まだまだこれからが勝負だ。
道有
ここから2ヶ月半くらい。
そんなに時間はない。
完成予定は5月末だからね。
一代
いちばんいい季節。
若葉がぐんぐん伸びる、
もういちばんいい季節だね。
そこにはみんなに遊びに来てもらいたい。
道有
うん、ほんとに。
ほぼ日
がんばってください。
ほぼ日もみんなで応援してます。
一代
うん、がんばる。
ほんとはドキドキだけどね(笑)。
でも、とにかくいまはたのしみ!

(最後まで読んでいただき、ありがとうございました!)

2023-03-14-TUE

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  • 東日本大震災後から約10年間、
    長い年月をかけて一代さんを追い続けた
    ドキュメンタリー映画が完成しました!
    たっぷり約2時間、
    一代さんの歩みが語られます。

    正直に言って、それは、
    元気が出る話だけではありません。
    思い出すのが苦しい場面もあります。
    それでも、震災をきっかけに出会った
    学生ボランティアとの交流、
    民宿を営む決意、
    海難事故からの一歩。
    明るく元気な印象が強い一代さんが
    心の奥底で抱えていたものが
    映し出されていて、
    それは風間研一監督がそっと見守るように
    カメラを回し続けたからなのだと思います。
    一代さんは監督を
    「かざまっち」と呼んでいました。
    カメラの存在を忘れてしまうほどの
    いい距離感で、
    撮られたのだろうなと感じます。
    一代さんに導かれるように
    気仙沼に移住してきた
    学生ボランティアたちの姿も、
    わくわくするものがありました。

    ナレーションは俳優の渡辺謙さん。
    音楽は気仙沼出身の
    ピアニスト・岡本優子さん。
    劇中、糸井重里もすこしだけ登場します。
    全国の劇場情報など、
    詳しくは公式サイトをご覧ください。

    映画『ただいま、つなかん』
    監督:風間研一