気仙沼の唐桑にある民宿「つなかん」。
ここにサウナトースターがやってきて以来、
全国のサウナ好きが集まる
ちょっとした人気スポットになっています。
このたび、そんな「つなかん」が
クラウドファンディングで支援を募り、
新しいサウナをつくることになりました。
もちろん言いだしっぺは、
つなかん名物女将の菅野一代さん。
なんだかおもしろそうな話なので、
設計担当の斉藤道有さんもお呼びして、
みんなでいろいろおしゃべりしてきました。
そうそう、いま全国で公開中の
映画『ただいま、つなかん』のことも
あわせてうかがってきましたよ。
菅野一代(かんの・いちよ)
斉藤道有(さいとう・みちあり)
美術家、
東北ツリーハウス観光協会代表理事、
DMO気仙沼地域戦略理事。
1977年、気仙沼生まれ。
宮城教育大学美術教育専攻卒業。
2001年より現代美術作品の制作発表。
震災後「3月11日からのヒカリ」や
「東北ツリーハウス観光協会」の主催をはじめ、
「気仙沼クルーカード」による
気仙沼市の地域経営や
観光のデザインにも取組んでいる。
ほぼ日のこれまでの登場コンテンツ
「100のツリーハウス」
- 道有
- つなかんのある唐桑って、
先が海しかない半島なんです。
陸だけみると行き止まりの場所にある。
- ほぼ日
- はい。
- 道有
- そういう土地でああいう震災があって、
急にギャップのある若い世代が
ボランティアでたくさんやってきた。
そういう若者たちと交流する状況って、
それまでなかったと思うんです。
- ほぼ日
- やっぱり最初は戸惑いますよね。
- 道有
- 当時はそうもいってられないというか。
震災が目の前で起こって、
毎日が非日常だったから。
- 一代
- ほんとに外の人たちに
助けられたって感じだったからね。
自衛隊の人たちも4、5日ぐらいたって、
ようやく入って来られたくらいで。
- ほぼ日
- けっこう時間がかかったんですね。
- 一代
- 唐桑だけ遅かったんだよね。
唯一入ってこられる道がつぶれてしまって。
で、4、5日ぐらいして
自衛隊が安否確認で入ってきた。
そしたら避難所のばあちゃんたちが
「あぁ、これで助かるよ!」って。
自衛隊の人たちを見て、
「自衛隊が来たよー!」って。
もう仮面ライダーばりのヒーロー。
- 道有
- 道路もつくってくれたもんね。
がれきを撤去して、
最初の幹線道路を通してくれて。
あれ、1ヶ月後くらいじゃないかな。
- ほぼ日
- 道路の復旧は大きいですよね。
おかげでボランティアの人たちも、
ここまで来られるようになったわけで。
- 道有
- でも、それだけじゃないっていうか。
やっぱり一代さんのような人がいて、
迎え入れる「つなかん」があって、
それがよかったんだと思う。
自然と人が集える場所があったことは大きい。
- 一代
- わざわざ来てくれる人たちがいて、
なんにもないんだけれど、
やっぱりもてなしたいなって。
なにかじぶんたちができることで、
みんなに「ありがとう」ってきもちを伝えたい。
当時はほんとに必死だったからね。
- 道有
- 学生たちはご飯もよく食べるから(笑)。
- 一代
- あ、いまので思い出したけど、
うちの旦那なんかひどいんだよ!
- ほぼ日
- ひどい?
- 一代
- みんなここからすこしずつ
復興していこうってことで、
やっとの思いで北海道から「半成貝」という
ホタテの子供みたいなのを買ったの。
もうすごい貴重なもの。
それを海の中で「成貝」に育てるんだけど、
うちの旦那はその半成貝を学生たちに
「食べろ、食べろ」ってボイルにして。
- ほぼ日
- えぇーっ(笑)。
- 一代
- まだ小さいホタテだから、
みんなもバクバクバクバク食べるわけ。
「おいしい、おいしい」って感動してくれて。
当時ボランティアをしてたエマって子も、
あのとき食べたホタテが
いまでも忘れられないっていうの。
やっさんが夜遅くイカダに行って、
ホタテを食べさしてもらったって。 - そういう話をみんなで
映画を見ながらしたりしててさ。
私、やっさんにすごい怒ったんだよって。
あれ、いくらすると思ってんのって(笑)。
いまだからいえる思い出話だけど。
- 道有
- やっぱり女子大生の力だね(笑)。
- 一代
- やっさんの下心、見え見え!
- ほぼ日
- ははは。
- 一代
- でも、うれしかったんだと思う。
ああいう中高年のおじさんたちは、
もうそれで元気になるんだから。
若い女の子たちが来てくれたってだけで、
もうしょぼんとしちゃったのが、
みんななんか元気になるっていうね。
女の子たちが「ミニスカサンタ」の格好で
仮設住宅まわったときだって、
みんないきいきしてたもん(笑)。
- ほぼ日
- デレデレしてる顔が浮かびます(笑)。
- 一代
- だから、震災のときに
なにが必要ですかってよく聞かれたけど、
やっぱり若いパワーではないけれど、
そういう子たちが集まってくれるってのが、
なにより生きる力になるよね。
- 道有
- うん、そうだね。
- 一代
- 私、若葉の時期がいちばん好き。
よく若葉の季節って、
なんでこんなに元気になるっていうか、
ワクワクするんだろうって。
新芽が出て、なんかこう、
いまからっていうときがいちばん好き。
それって若い人たちを見ると
元気になるっていうのといっしょだと思う。
それが次につなげるもの、
希望っていうものなんだろうね。
子どもたちもそうだよね。
子どもたち見るとなんか元気出る。
- ほぼ日
- 出ます、出ます。
- 一代
- だってさ、100歳ぐらいの
お年寄り見ても元気は出ないよ。
パワーを吸いとられる気はするけど(笑)。
子どもたちを見ると元気が出るのは、
やっぱりそういうことだなって思う。
震災のときもそうだったもん。
そういう若い子たちが集まってきたとき、
あっ、希望はまだあるぞって思った。
- ほぼ日
- そういう話を聞くと、
ますます「つなかん」という場の
大事さがわかりますね。
ここを学生ボランティアに開放してなかったら、
もしかしたら唐桑全体が
いまとはぜんぜんちがったかもしれない。
- 一代
- あぁ、それはいえるかも。
ボランティアの受け入れをしてなかったら、
つなかんもなかったし、
私だって生きてたかどうかわかんない。
それを考えると、ほんとにそうだね。
- 道有
- こういう場所があるってのは、
ほんとに大事だよね。
- ほぼ日
- 次のサウナもそうなるといいですね。
- 一代
- でもさ、よく考えてみたら、
いまこんなことになってるのも、
もともとは糸井さんのひと言からだから。
- ほぼ日
- そうなんですか?
- 一代
- もともとはウェルビーの米田さんに
「サウナトースターっていくらするの?」
って糸井さんが聞いたんだって。
米田さんが「なんでですか?」って聞いたら、
「つなかんに置きたいんだよ」って。 - でも、サウナトースターって
世界に一台しかないし、
米田さんにとっても大事なもの。
なのに米田さんはその場で
「だったら、これ持って行きますか?」って(笑)。
- ほぼ日
- さすが米田さん(笑)。
- 一代
- で、すぐに糸井さんから電話あって、
「一代さん、サウナあったら困る?」って。
その電話、いまでも覚えてる。
「いやいや、困るって‥‥困りませーん!」って。
そのときはこんなに
サウナがブームになるとは思ってなかったけど。
- ほぼ日
- つなかんのサウナトースター、
いまや大人気ですもんね。
- 一代
- ほんとにそうなの。
土日はもうほとんど
サウナの人たちっていうくらい。
サウナトースターがなかったら、
ここまで泊まりに
来てくれることもなかっただろうし。
- ほぼ日
- サウナ小屋が完成したら、
ますます忙しくなりそうですね。
- 一代
- 完成したらみんなで入りましょうね。
海が見えるサウナ。
- ほぼ日
- はい、絶対また来ます。
一代さんの夢を実現させるためにも、
まずはクラファンですね。
- 一代
- まだまだこれからが勝負だ。
- 道有
- ここから2ヶ月半くらい。
そんなに時間はない。
完成予定は5月末だからね。
- 一代
- いちばんいい季節。
若葉がぐんぐん伸びる、
もういちばんいい季節だね。
そこにはみんなに遊びに来てもらいたい。
- 道有
- うん、ほんとに。
- ほぼ日
- がんばってください。
ほぼ日もみんなで応援してます。
- 一代
- うん、がんばる。
ほんとはドキドキだけどね(笑)。
でも、とにかくいまはたのしみ!
(最後まで読んでいただき、ありがとうございました!)
2023-03-14-TUE
-
東日本大震災後から約10年間、
長い年月をかけて一代さんを追い続けた
ドキュメンタリー映画が完成しました!
たっぷり約2時間、
一代さんの歩みが語られます。正直に言って、それは、
元気が出る話だけではありません。
思い出すのが苦しい場面もあります。
それでも、震災をきっかけに出会った
学生ボランティアとの交流、
民宿を営む決意、
海難事故からの一歩。
明るく元気な印象が強い一代さんが
心の奥底で抱えていたものが
映し出されていて、
それは風間研一監督がそっと見守るように
カメラを回し続けたからなのだと思います。
一代さんは監督を
「かざまっち」と呼んでいました。
カメラの存在を忘れてしまうほどの
いい距離感で、
撮られたのだろうなと感じます。
一代さんに導かれるように
気仙沼に移住してきた
学生ボランティアたちの姿も、
わくわくするものがありました。ナレーションは俳優の渡辺謙さん。
音楽は気仙沼出身の
ピアニスト・岡本優子さん。
劇中、糸井重里もすこしだけ登場します。
全国の劇場情報など、
詳しくは公式サイトをご覧ください。映画『ただいま、つなかん』
監督:風間研一