気仙沼の唐桑にある民宿「つなかん」。
ここにサウナトースターがやってきて以来、
全国のサウナ好きが集まる
ちょっとした人気スポットになっています。
このたび、そんな「つなかん」が
クラウドファンディングで支援を募り、
新しいサウナをつくることになりました。
もちろん言いだしっぺは、
つなかん名物女将の菅野一代さん。
なんだかおもしろそうな話なので、
設計担当の斉藤道有さんもお呼びして、
みんなでいろいろおしゃべりしてきました。
そうそう、いま全国で公開中の
映画『ただいま、つなかん』のことも
あわせてうかがってきましたよ。
菅野一代(かんの・いちよ)
斉藤道有(さいとう・みちあり)
美術家、
東北ツリーハウス観光協会代表理事、
DMO気仙沼地域戦略理事。
1977年、気仙沼生まれ。
宮城教育大学美術教育専攻卒業。
2001年より現代美術作品の制作発表。
震災後「3月11日からのヒカリ」や
「東北ツリーハウス観光協会」の主催をはじめ、
「気仙沼クルーカード」による
気仙沼市の地域経営や
観光のデザインにも取組んでいる。
ほぼ日のこれまでの登場コンテンツ
「100のツリーハウス」
- ほぼ日
- 映画の撮影期間って、
ぜんぶで何年くらいでした?
- 一代
- 10年。
- ほぼ日
- おぉー、10年。
- 一代
- 10年もカメラかついで。
もうね、ほぼストーカー(笑)。
- ほぼ日
- ははは。
- 一代
- でも、かざまっちはすごいよ。
「ストーカー来たよ」とかいわれても、
ぜんぜんへこたれない(笑)。
そういうのに耐え抜いたんだから。
- 道有
- 「かざまっち」というのは、
今回の映画の監督さんね。
- ほぼ日
- 風間研一さんですね。
- 一代
- でも、最初はそんな感じでも、
やっぱりだんだん家族になっていくね。
「あんた、また来たの?
じゃあ、こっちでごはん食べな」みたいな。
- 道有
- そうだね。
- 一代
- かざまっちじゃなかったら、
たぶん無理だったんじゃないかな。
黙って片隅でずっとカメラまわして。
あの気にならない存在感が、
またよかったのかもしんない。
- 道有
- ちょっと物静かっていうか。
- 一代
- そうそう。
- ほぼ日
- 完成した映画をご覧になって、
率直にどんなふうに思いましたか。
- 一代
- やっぱり記憶って薄れるんだなぁって。
- ほぼ日
- あぁ。
- 一代
- つらい記憶とかは
いつまでも忘れないんだけれど。
でも、ああ、この人たちに
助けられたんだよなとかって思うと、
絶対忘れてはいけない記憶っていうのは
あるんだなって思った。 - ああやって映像で見てると、
当時のことが鮮明に思い浮かぶから、
それがやっぱり怖いよね。
見たくないっていうのもあるんだけど、
それも含めて尊い記憶だなって。
- ほぼ日
- それはつらい記憶も含めて。
- 一代
- そう、このときのことは
絶対に忘れずにいようって思った。
ちょっと忘れようと
思ってた時期もあったからね。
ああ、ダメだなって。
これも含めてぜんぶ忘れちゃったら
ダメだなって思った。
- ほぼ日
- 最初の映像が、
たしか2012年でしたよね。
- 一代
- 12年の2月だったかな。
それからあの顔をずっと見てる(笑)。
そのうち手伝ってみたいな感じになって。
お客さんじゃないのね、もう。
早くそのカメラ置いて、
こっちを手伝ってみたいな(笑)。
- 道有
- ふふふ。
- ほぼ日
- 道有さんはどう思われましたか。
映画をご覧になられて。
- 道有
- なんか、思い出のアルバムを
ずっと見てる感じがしましたね。
付き合いがない人にとっての見え方と、
ぼくみたいな一代さんと付き合いがある人だと、
見え方も変わるとは思います。
- ほぼ日
- やっぱり当事者だと、
客観的には見られないですよね。
じぶんや知り合いの顔が
スクリーンに映ったりするわけで。
- 一代
- だから鼻が出そうだよ、ほんと(笑)。
- 道有
- シワまでキッチリ出る(笑)。
- 一代
- やめてよって、ほんとにもう!
だって、カメラで撮ってるけど、
こっちは映画になるなんて思ってもないし。
- ほぼ日
- もともとはそうですもんね。
報道番組の特集だったわけで。
- 一代
- だから別にいいやと思って、
ずっとそのまんまだったから。
映画にするならもっとちゃんとしたのに(笑)。
- ほぼ日
- 先にいっといてくれたら(笑)。
- 一代
- 映画にするんなら、
それなりに着るものだって
気をつけなきゃいけないしとか。
でも、そのまんまだもん。
ま、しかたないなって感じ。
- ほぼ日
- 映画に出てた学生ボランティアのみなさんも、
いまはもう立派な大人になってますよね。
当時19歳の方とかもいましたけど。
- 一代
- 大学生だったからね。
エマもそうか。
- 道有
- いちばん若い子だとそうだね。
- 一代
- 拓馬なんか笑っちゃったもんね。
- 道有
- うん(笑)。
加藤拓馬って子がいて。
- ほぼ日
- ああ、はいはい。
映画にも出ていた方ですよね。
気仙沼に移住して、
若手のリーダー的存在になってると。
- 一代
- そうそう、
すごいがんばってるんだよ。
あのときの拓馬はとんがってたけど。
- 道有
- このへんにもいないぐらい
青くさい感じでさ。
昔の映像見ると、
もうツッコミどころ満載なの(笑)。
- 一代
- みんなツッコミどころ満載だった。
でも拓馬が出てきたとたん、
もうみんなで大爆笑(笑)。
- ほぼ日
- みなさんでいっしょに見たんですか?
- 一代
- そう、試写会させてもらって。
私もやっぱり見るのも
怖いしなって思ってたんだけど、
みんながいっしょに見てくれるっていうから、
じゃあ見ようと思って。
あとにも先にもその1回だけ。
かざまっちがDVDをもってきてくれて、
それでつなかんに集まって、
ここのテレビでみんなで見た。
- ほぼ日
- あ、つなかんで。
- 一代
- うん、やっぱりなんだろう。
それぞれみんな思うこともあるし、
映ってて恥ずかしいのもあるし、
やっぱり悲しいっていうのもあるし‥‥。
でも、それを打ち消す拓馬の髪型(笑)。
- 道有
- ははは。
- 一代
- それでみんな大爆笑。
それからみんな、ほら、
やっぱり10年っておっきいから、
みんないろいろツッコむわけよ。
- 道有
- ギャルっぽいとかね。
見た目もだいぶ変わってるから。
- 一代
- 変わってるしね。
それでそっちに気を取られちゃって、
おかげで真ん中が入ってこない(笑)。
でも、それでよかったのかな。
やっぱり真ん中が入ってくると、
みんなもドヨーンって悲しくなるから。
- 道有
- まあ、そうだね。
- 一代
- あ、そうそう、
映画の応援コメントを
糸井さんが書いてくれたじゃない?
- ほぼ日
- はい。
公式サイトにも掲載されてますよね。
※糸井の応援コメントはここで読めます。
- 一代
- あのことば、ほんとにうれしかった。
かざまっちも映画会社の人も、
みんないってた。
ほんとに何回読んでも、
糸井さんのはやっぱりすごいって。
- 道有
- うん。
- 一代
- ああ、沁みるなっていう。
長生きしなきゃダメだねって思った。
そうだね、糸井さん、
いっしょに長生きしましょうって。
あれ読んで、ほんとにそう思った。
(つづきます)
2023-03-13-MON
-
東日本大震災後から約10年間、
長い年月をかけて一代さんを追い続けた
ドキュメンタリー映画が完成しました!
たっぷり約2時間、
一代さんの歩みが語られます。正直に言って、それは、
元気が出る話だけではありません。
思い出すのが苦しい場面もあります。
それでも、震災をきっかけに出会った
学生ボランティアとの交流、
民宿を営む決意、
海難事故からの一歩。
明るく元気な印象が強い一代さんが
心の奥底で抱えていたものが
映し出されていて、
それは風間研一監督がそっと見守るように
カメラを回し続けたからなのだと思います。
一代さんは監督を
「かざまっち」と呼んでいました。
カメラの存在を忘れてしまうほどの
いい距離感で、
撮られたのだろうなと感じます。
一代さんに導かれるように
気仙沼に移住してきた
学生ボランティアたちの姿も、
わくわくするものがありました。ナレーションは俳優の渡辺謙さん。
音楽は気仙沼出身の
ピアニスト・岡本優子さん。
劇中、糸井重里もすこしだけ登場します。
全国の劇場情報など、
詳しくは公式サイトをご覧ください。映画『ただいま、つなかん』
監督:風間研一