
シリーズ第18弾の今回は、
福岡市美術館の近現代コレクションを拝見。
ウォーホル、ロスコ、バスキアからミロ、
松本竣介、桂ゆき、吉田博、中園孔二、
カプーア、グルスキー、塩田千春‥‥
そして菊畑茂久馬など九州派の面々など。
きらめきの所蔵作品の数々でした!
同館には見事な古美術部門もあって、
今回は取材できなかったんですけど、
2024年の
「ミュージアムキャラクターアワード」で
銀メダルに輝いた、
かの「こぶうしくん」には会えました!
お話くださったのは学芸員の忠あゆみさん。
担当は「ほぼ日」奥野です。
※展示替え等により、
現在は展示していない作品もあります。
モナ・ハトゥム《+と-》1994/2024
- ──
- これはまた、おもしろい作品ですね。
ずっと見ていられるなあ。
つまり永遠に回転しているんですか。
- 忠
- はい。モナ・ハトゥムさんの作品です。
ロンドンを拠点に活動していて、
世界中で作品を発表されている方です。 - ここへは、2024年に設置されました。
作品名は《+と-》です。
- ──
- 床に埋め込まれているから、
ここからは、じゃ、動かないんですね。 - 永遠に回転し続けて、永遠に動かない。
- 忠
- この作品は、1994年に
福岡で国際芸術祭「ミュージアム・シティ・天神」
が開催されたときに
発表された作品をもとに再制作しています。
ハトゥムさんは、
戦争の傷など、
いろんなテーマの作品を発表していて。
- ──
- 生い立ちとかは‥‥。
- 忠
- ご両親がパレスチナ人で、レバノン出身。
内戦に巻き込まれた経験もあって、
いまはイギリスに在住されているんです。
- ──
- これって「砂」ですよね?
こんなに黄色い砂ってあるんですね。
- 忠
- はい、この黄色い砂にたどりつくのには、
けっこう苦労がありました。 - 作家の求めるきめ細やかさとか色の砂を
いろいろ探し求めて‥‥。
- ──
- え、美術館のみなさんで探したんですか。
- 忠
- そうです、いくつかのサンプルを準備し、
ちょうどわたしに
ロンドンへの出張があったので、
ハトゥムさんのもとへ持って行きました。 - そしてサンプルを見ながら、
「これは細かさはいいけど灰色すぎる」
とか、
「色はいいけど、ちょっと目が粗いね」
とかアドバイスをいただいて。
- ──
- そこは厳しいんでしょうね、きっと。
砂の質が
作品そのものを左右しますもんね。
- 忠
- 最終的には、福岡の造園業者さんから
取り寄せた砂の中から、
ちょうどいいものが見つかったんです。
園芸用の砂で、
この黄色は、もともとの素材の色です。 - 800キロくらいストックしてます。
- ──
- ってことはつまり、
徐々になくなっていっちゃうんですか?
- 忠
- 少しずつ、飛んでしまうんだと思います。
- 最後に再び、1年間を通じて変わらない
コレクションの展示です。
4つの部屋ごとにテーマを変えています。
最初の部屋は「絵画」がテーマ。
【右】ルイ・カーヌ《床/壁》1974
- ──
- ルイ・カーヌさん。
- 忠
- 歴史をふりかえると、さまざまな試みが、
「絵画」を舞台に行われてきました。
ここは、そんなテーマで構成しています。 - ルイ・カーヌは、フランスのアーティスト。
絵画自体を疑問視する、
絵画の概念をひっくりかえすような作品を
数多くつくってきました。
この作品もその流れの中にある作品で、
絵画といえば、
キャンバスに張られていて額縁があって、
という姿がふつうですが、
彼は、布を張りつけて、ただ折るだけ。
それが絵の最小限の構造というわけです。
- ──
- こういう作品を、たくさんつくってる?
- 忠
- はい。折り紙のような仕組みの作品で、
絵画の中心がない‥‥というような。
- ──
- きっと絵自体はお上手なんでしょうけど。
よくあるパターンでいうと。
- 忠
- そうですね。
最近は再び絵画に戻って来たりしてます。
- ──
- 何か感じたんでしょうか。絵を描いてて。
- 忠
- 美術の世界では、
絵画という形式自体に強い権威があるんです。
その権威を相対化したいという気持ちは、
あったのではないかなと思います。
- ──
- そして杉全直(すぎまた・ただし)さん。
- 忠
- 戦後すぐは具象を描いていた作家ですが、
1950年代になり、
日本にも抽象表現の時代がくると、
突然「六角形」にめぐりあったという方。
- ──
- 六角形に? 突然めぐりあった!
おもしろいなあ。 - で、先ほども話に出た九州派の田部さん。
もの派に影響を与えた斎藤義重さん。
そして辰野登恵子さん‥‥こちらの方は。
【左から2番目】辰野登恵子《Untitled 97-3》1997 西日本シティ銀行蔵 【右】田部光子 《魚族の怒り》 1959
- 忠
- 1980年代に、絵画の復権があったんです。
パフォーマンスをしたり、
ハプニングを起こしたりという動きが
いったん収まって、
やっぱり絵画でしかできないことがある、
という考えが出てきたんですね。 - その筆頭にいる方、といった感じですね。
- ──
- 何にしても揺り戻しって、あるんですね。
美術の歴史の本を読んでいても。 - ああ、この人は有名な人。元永定正さん。
たしか「具体」の人ですよね。
- 忠
- そうですね。絵本なども描かれていますね。
- このあたりからは色をテーマにしています。
この作品は、
パット・ホフィーという作家が、
フィリピンのサマールの職人さんに
ゴザをつくる技術で
「ロシア・アヴァンギャルドのポスター」
を編んでもらったものです。
パット・ホフィー《ロトチェンコ再び》2000
- ──
- たしか、亡くなったディン・Q・レさんも、
あちらはヴェトナムですけど、
織りによる作品をつくっていました。
ノンというヴェトナムの編み笠の織り方で、
戦争を考えさせるポスターを。
- 忠
- ああ、そうなんですね。
- もとになったロシアのポスターというのは
もちろん政治的な内容なわけですが、
その時代には
力を持っていたメッセージだったものが、
時代が変わって、つくり方が変わると、
最初に持っていた意味がなくなっていく‥‥
ということが、
核の部分にある作品だと思います。
- ──
- 見た目的には、とぼけた感じで、好きです。
- 忠
- いいですよね(笑)。
- ──
- 福岡アジア美術館で、ヴェトナム共産党の
プロパガンダのポスターを見たんですが、
お国柄なのか、
ヴェトナムのプロパガンダの表現って、
そこまで激しくないんだなあと感じました。 - ふつうイメージする共産圏のポスターって、
人民がガッツポーズをしてたり、
デッカいハンマーが描かれていたりとか、
「勇ましさ」を感じさせますけど、
そういう雰囲気とは何かがちがう、
どこか「柔らかさ」みたいなものを感じて。
- 忠
- わたしも物語を感じるような気がしました。
民衆の中心に「ホーおじさん」がいて‥‥とか。
- ──
- ああ、たしかに。
- ホー・チ・ミンは自国の独立宣言に
アメリカ独立宣言を引用しているくらいで、
共産主義という以上に
「ヴェトナムの人たちの統一」ってことが、
第一にあったからなのかなと思いました。
(つづきます)
2026-04-04-SAT