ほぼ日の「老いと死」特集は、
佳境に入ってきました。
入ったからにはこの方に
ご登場いただかなくてはなりません。
みうらじゅんさんです。
このインタビューの動画は、
ほぼ日の學校でごらんいただけます。
みうらじゅん
1958年、京都生まれ。イラストレーターなど。
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。
以後、作家、ミュージシャンなど、多方面で活躍。
1997年には「マイブーム」が
新語・流行語大賞のトップテンに選出。
「ゆるキャラ」の名づけ親でもある。
2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。
著書に『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』
『「ない仕事」の作り方』
『通常は死ぬ前に処分したいと思うであろう100のモノ』など。
- ──
- 世間では
「老後の三大不安」というものがあるらしいです。
それは病気・貧困・孤独です。
なかでも孤独について、
みうらさんはどう思われますか。
- みうら
- あぁ、よく「孤独死」とかって、
世間では言いますよね。 - 僕は以前、鬼怒川の
観光ホテルに泊まったことがありまして、
その下の階にね、
喫煙所があったもんで、ひとりで行ったんです。 - タバコを吸ってたら、そこにもうひとり、
おじいさんがタバコを吸っておられまして。
僕よりちょっと年が上の方だったと思います。 - 僕はタバコを1本吸いおわり、
喫煙所を出ていこうとしたら、その方が
「もう1本ぐらい吸っていきなよ」
と、呼びとめられたんです。
何かしゃべりたかったんでしょう。
僕は「じゃあ、1本だけ」とことわりを入れて、
タバコを取り出して火をつけました。
するとその方が、話しはじめたんです。 - 「家族で来てるの?」
「はい、僕だけタバコ吸うもんで、
下に降りてきたんですよ」
「俺はひとりで泊まりに来てるんだよ。
で、いまひとりで
タバコ吸ってるんだよ」
と、おっしゃいました。 - 僕はなんて返せばいいかわからなくて
黙っていると、その方は
「俺のことさ、寂しい奴と思ったろう?」
と訊くんです。
- ──
- えっ、怖いですね。
- みうら
- いや、やさしい口調でね(笑)。
「いやいやいや、思ってないですよ」
と僕はとっさに返したんですが。 - 「俺ね、ちっとも寂しくないんだよ、
いままで俺はずっと親の介護やってたし、
それでね、婚期も逃しちゃったんだよ。
親が亡くなって、ようやくいま、
フリーを満喫してタバコ吸ってるんだよ」
とおっしゃったんです。 - それに対して僕は
「そうだったんですか」
と言うしかないですよね。
タバコ吸い終わったんで、
帰ろうとしたところ、
その方はすでに次のタバコに
火をつけておられて、
僕にも「もう1本吸っていけば」と誘ってきました。
- ──
- どんどん‥‥。
- みうら
- しかたないですよね(笑)。
また1本、タバコをくわえたんですが、
そのとき
「孤独死ってあるだろう」
と、いきなりその話を振ってこられましてね。
- ──
- 急に立ちいったことを。
- みうら
- 「孤独死、ええ、訊いたことあります」
「あれさぁ、なんかイメージ悪いよな。
ひとりで死ぬと孤独死ってことになるんだけど、
俺はうれしいよ、そっちのほうが」
と、おっしゃいました。 - 「いままで充分なくらいに
面倒なことがあったからさ、
死ぬときぐらいひとりで死にたいと
思ってんだよね。
でもねぇ、孤独死っていう言葉がなぁ」
って。
- ──
- まぁ、たしかにおっしゃるとおり、
孤独ってマイナスイメージですね。
- みうら
- そこからもけっこう長かったんですけどね(笑)。
- ──
- えっ(笑)。
- みうら
- でもね、そのとき
そんな意見もあるんだなぁと
はじめて知りました。 - 孤独と決めつけるのも、
第三者なんじゃないかとね。
寂しいかどうかは本人に直接
訊いてみないとわかんないですもんね。
孤独死なんていうのも、
「ほかの人」が決めたことの場合が
あるってことです。
- ──
- そうですね、死後に言われてるわけですし。
- みうら
- 死後に言われたんじゃ、
言い返すこともできませんから。 - それで思ったことは、
いったい「孤独死」なんて言葉、
誰がつくったんだという話です。
孤独に死ぬことを、
未来の不安にさせられているんです。
そんなのあまりに普通じゃないですか、
それでは真のアウト老に
なれないと思うんですよね。
- ──
- 不安があるとアウト老にはなれないんですね。
- みうら
- そりゃ不安は誰しもあると思うんですけど、
不安を感じたとき、
あの合言葉を口にできるかどうか?
そうです、「不安タスティック!」と叫んで
蹴散らす呪文です。
「あの人ほんとうバカなんじゃないか」
と言われるくらいの勢いで叫べるかどうか?
- ──
- となると、アウト老になる手前に、
「不安タスティック!」をとりいれるのは
必須事項ですね。
- みうら
- そうなりますね。
「不安タスティック!」を
呪文のように唱え、
魔物を払いのけ、
けもの道を行く。
それがアウト老ですから。
- ──
- 魔物を払いながら‥‥結局けもの道なんですか。
- みうら
- というか本来、けもの道ですからね。
- ──
- そうなんですか?
- みうら
- アウト老はね(笑)。
あの方はどうかわかりませんが、
自由業の自由とは、けもの道のことを言います。 - 僕が40年以上も歩いてるとこには、ふつうに
イノシシとか出てましたから。
「こいつ猪突猛進すぎるな。
それでは持たないんじゃないか」
などと他人のけものを見て我がけものを直す、
みたいなこともたくさんありました。 - だから、けもの道の恐ろしさは、
充分知ってるつもりです。
やはりそんなときは
「不安タスティック!」の呪文です。 - 鏡で自分の顔を見ながら
「不安タスティック!!!」
と、言ってきました(笑)。
- ──
- えっ、鏡で、声に出して‥‥?
- みうら
- ごめんなさい。
ちょっと嘘入ってます(笑)。
ま、思っているだけではダメだってことです。
- ──
- 鏡も必要なんでしょうか。
- みうら
- ルック・アット・マイセルフには、
鏡がいいでしょう。
よく居酒屋のトイレには
鏡があるでしょ?
あれはね、
「酔ってる」か「酔ってないか」を
確かめるためのものですからね。
- ──
- 酔いをチェックするのが、鏡‥‥?
- みうら
- そうです、酔いチェックミラーです。
居酒屋さんのトイレに行って鏡を見ると、
いい調子の自分の顔が映ってるわけです。
きっと調子よくなって、クドいてるとか、
説教をたれているんでしょう。
鏡にはぶざまな己が写っていて、そこで
「これはいかん」と気づくか、気づかないか、
そこですよね。 - それと同じように、
「不安タスティック!」と言えば、
「まだ言える、これはほんとうの不安ではない」
と確かめられるわけです。
- ──
- ふだんから「不安タスティック!!」と
となえておけば、
ほんとうの不安が来たときにも蹴散らし慣れて、
乗り越えられるかもしれないですね。
- みうら
- だと願ってます(笑)。
やはりふだんからやっておくのが重要なんですよね。 - 「どうすんの、今後。
最近、元気もなくなってきたし。
不安タスティック!!」
と、そのときどきで口癖のように
言えればサクセスです。 - そういう癖をつければ、
いざ友人に相談したときでも
「お前、いつも不安タスティック言ってるじゃないか。
大丈夫だよ」
と軽くあしらわれること間違いなし。
大丈夫です。
- ──
- 大丈夫でしょうか。
- みうら
- 大丈夫に持っていくんです、
こちらから(笑)。
「あいつに不安は似合わない」
「しょうがない人だ」の称号をもらうことは
アウト老にとってとても重要なことですから。
- ──
- 世間から認知されるほど、ですね。
- みうら
- そうです。
「ミスターアウト老」って言われて
みたいじゃないですか(笑)。
(明日につづきます)
2024-11-15-FRI