ほぼ日乗組員、向江夢(むかえ ゆう)は、
「喫茶店のマッチ」を集めています。
その数、現在300個以上。
世の中にはもっとすごいマッチ収集家がいるのでしょうが、
彼女(現在22歳)はこれを4年で集めています。
コレクションの3分の2は、
じぶんが実際に行った喫茶店でもらったものだとか。
しかも、「行ったお店にマッチが無い」
というケースがほとんどなのだそうです。
なのに、約200個を手に入れている。
いったい彼女は何軒の喫茶店の扉をくぐったのか‥‥。

そこまで本気な向江夢が、
好奇心ひとつをひっさげて、
「喫茶店マッチ」にまつわるあれこれをめぐります。
最終的には、オリジナルマッチをつくっちゃうんですよ?

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第3回 神保町の老舗喫茶 「ミロンガ ヌオーバ」でマッチの話を。

こんにちは、「喫茶店マッチ」を集めるのが好きな、ほぼ日のです。

ほぼ日の本社がある神保町には、
たくさんの喫茶店があります。
そんな喫茶店の街の中でも、レンガ調の外観が
ひときわ目をひく「ミロンガ ヌオーバ」の店内には、
きらめくマッチ箱がたくさん並んでいるんです。
開店前におじゃまして、
マッチのお話はもちろん、お店の歴史についても、
店長の浅見加代子さんにお聞きしました。

むかえ
きょうは開店前のお忙しい時間にすみません。
浅見さん
いえいえ、あわただしくてすみません。

「ミロンガ・ヌオーバ」の店長・浅見加代子さん。 ▲「ミロンガ・ヌオーバ」の店長・浅見加代子さん。

むかえ
あの、こういう、取材といいますか、
インタビューということが
じつは初めてでして‥‥。
いたらないところがあると思いますが、
どうぞよろしくお願いいたします。
浅見さん
まあ、そうなんですか。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
マッチを、集めてるんですか? 
むかえ
そうなんです、わたしが「喫茶店マッチが好き」
というだけではじめた企画でして。
神保町のご近所にすてきな喫茶店があって、
何度かわたしもお店に来ていましたので、
ぜひ最初にお話をうかがいたくて。
浅見さん
ありがとうございます。
わたしもほぼ日さんのビルの1階にある、
TOBICHIさんへお買い物に行きました。
むかえ
わ、そうでしたか! 
ありがとうございます。
それで、こちらのお店の壁に、
「喫茶店マッチ」が並んでるなぁ、
とずっと思っていたんです。
浅見さん
並んでますよね(笑)。

レリーフの下にずらりとマッチが。店内の他の場所にも並んでいます。 ▲レリーフの下にずらりとマッチが。店内の他の場所にも並んでいます。

浅見さん
でも、いただいたものが多いんです。
あとはスタッフが趣味で集めたものとか。

むかえ
スタッフさんが趣味で。
ということは、浅見さんも集めている? 
浅見さん
わたしも好きなので集めていたんですが、
集めすぎてしまって、処分しちゃいました。
むかえ
いくつくらい持っていたんですか? 
浅見さん
忘れちゃいましたねぇ。
ずいぶんありましたよ。
わたしの場合は喫茶店だけじゃなくて、
いろいろなお店のマッチを集めていたし。
洋食屋さんとか、ホテルとか‥‥
でもやっぱり飲食店が多かったと思います。
むかえ
でも処分された。
浅見さん
集めすぎて、
「これはいかん」と思って(笑)。

むかえ
もったいないです(笑)。
じゃあこのお店にあるのは
浅見さんのマッチではない? 
浅見さん
ええ。
わたしがこのお店ではたらく前から、
すでにけっこうあったんです。
むかえ
そうでしたか。
浅見さん
飾りきれてないのもまだあるんです。

むかえ
どんどん集まるんですか。
浅見さん
いまはそうでもないんですけど、
こうして飾っていると、
お客さんが持ってきてくれるんです(笑)。
むかえ
ええー(笑)、いいですねぇ。 
浅見さん
あとはそうですね、
スタッフたちもマッチが気になっているので、
どこかに出かけて見つけると
持って帰ってきます。

むかえ
なるほど、だからいろいろな場所のマッチが。
わたしは関西出身なんですけど、
大阪や京都のがあるな、と思ってました。
浅見さん
京都の「六曜社」さんとか。
むかえ
はい。
知らないマッチが並んでいて、わくわくします。

浅見さん
これ、おもしろいですよ。
青森の「マロン」という喫茶店なんですけど、
マッチと見せかけて‥‥。
むかえ
見せかけて?
(箱の中身を取り出す)えー! 
たたまれた紙が出てきました。
浅見さん
広げてみてください。
むかえ
(広げる)なにか小冊子のような‥‥。
記事の内容が「特集マッチ」!
これ、めっちゃかわいいです! 

むかえ
‥‥すみません、ついマッチの話ばかりで。
ちょっと冷静になります。
お店のお話を聞かせてください。
「ミロンガ ヌオーバ」さんは、
何年に創業されたんですか? 
浅見さん
1953年創業です。
昨年が70周年でした。

むかえ
70周年ですか。
浅見さん
もともと、同じ神保町内にある
「ラドリオ」という喫茶店が
1949年の創業なんです。
その後もう一店舗やらないかって声がかかって、
はじまったのがこのお店です。
むかえ
すぐ近くにある「ラドリオ」さんとは
系列店のようなご関係だったんですね。
浅見さん
そうなんです。
この建物も、もともとは
「ラドリオ」があった場所なんですよ。
以前はここから40mくらいの店舗で
営業をしていたんですけど、
2023年にこの場所へ移転してきました。

2024年現在の「ミロンガ ヌオーバ」 ▲2024年現在の「ミロンガ ヌオーバ」

むかえ
ここ、以前はラドリオだったんですね‥‥。
移転してきて1年で
建物から老舗の雰囲気を感じるのが
不思議だなと思っていました。
浅見さん
もちろん新しい部分もあるんですけど、
移転のときなるべく雰囲気を変えないよう、
ずっとお店を知ってくださっている方が
内装を手掛けてくださいました。
むかえ
そうなんですね‥‥。
「ミロンガ」さんといえば、
店内に飾られているレリーフも特徴的です。

浅見さん
レリーフは、彫刻家の
昆野恒(こんのひさし)さんの作品です。
これも前のお店から飾ってあります。
むかえ
きれいで、おちつきます。

浅見さん
お亡くなりになった作家さんなのですが、
オーナーが懇意にされていた方で、
そのご縁で。
‥‥ちょっと失礼します。
(レコードプレーヤーに向かい、
別なレコードに交換して針をおろす)

むかえ
‥‥ずっとタンゴが流れている、
このムードも大好きです。
浅見さん
ありがとうございます。
「ラドリオ」がシャンソン喫茶だったので、
「ミロンガ」はタンゴ喫茶にしたそうです。
むかえ
スピーカーも、前のお店のものを? 

浅見さん
そうですね。
もともと壁に埋め込み式の
スピーカーだったんですけど、
ここに運んでくるときに箱を作ってもらって。
むかえ
たくさんのレコードは、ぜんぶタンゴですか。

浅見さん
基本的にアルゼンチンタンゴで、
フォルクローレがちょっとだけ混ざってます。
※フォルクローレ/ラテンアメリカ諸国の
民族音楽等を基礎にした大衆音楽
むかえ
浅見さんはいつごろから
「ミロンガ」の店長になられたんですか。
浅見さん
わたしは最初「ラドリオ」で働いていたんですよ。
むかしから神保町が好きで、
神保町の喫茶店で働きたいってすごく思ってました。
今思えば、かなり強い
思い込みだったんですけど(笑)。

むかえ
いえ、わかります。
神保町の喫茶店で働きたいという気持ち、
すごくわかります! 
浅見さん
「ラドリオ」で働いて、
しばらくして「ミロンガ」にうつり、
今は店長をしています。
むかえ
「ミロンガ ヌオーバ」って、
一度聞いたら中々耳から離れない店名だなと、
ずっと思っていました。
どのような由来があるのでしょう。
浅見さん
もともと、創業当時は
「ミロンガ」だったんです。
「ミロンガ」というのは、
タンゴの前進の音楽スタイルのことです。
それで、店舗を1995年に改装したときに、
イタリア語で「あたらしい」という意味の
「ヌオーバ」をつけたみたいです。
なぜかスペイン語じゃなくて、
イタリア語なんですけど。
むかえ
だから「ヌオーバ」が入っていない
マッチがあるんですね。

浅見さん
そうなんです。
「ミロンガ」だけのマッチは、
1995年以前のものですね。
歴代のマッチ全てはここにないんですけど、
前のデザインは紙だけ残ってるんですよ。
むかえ
紙だけで、ですか。
浅見さん
倉庫を整理していて見つけたんです。
もしかしたら、紙だけを印刷して
じぶんたちで無地のマッチ箱に
貼っていたのかな、と。

むかえ
なるほど。
ちなみにこのお店で、
マッチは現在も配っているのでしょうか? 
浅見さん
じつはすこし前に、
お配りするのをやめちゃったんです。
もう残り50個くらいしかないので、
販売しているTシャツにつけたり、
特別なときにお渡ししています。
むかえ
もう、マッチは作らないのでしょうか。
浅見さん
うーーん、そうですね。
お店で喫煙ができたときは、
お渡しする意味があったんですが、
いまは禁煙ですし‥‥。
それは、どこの喫茶店でも同じだと思います。
むかえ
そうですよね。
時代の流れもありますし、
マッチを置くお店は減っていて、
それは仕方のないことだと‥‥。
‥‥わわ、もうこんな時間! 
ごめんなさい、オープンですよね。

浅見さん
大丈夫です、ゆっくりお支度ください。
むかえ
浅見さん、お話をありがとうございました。
またお店に来ます! 
浅見さん
ありがとうございました。
「喫茶店マッチ」企画、たのしみにしてます。

70周年記念のTシャツを買って、マッチをもらいました! ▲70周年記念のTシャツを買って、マッチをもらいました!

2024年10月現在、残り約50個のマッチ。 ▲2024年10月現在、残り約50個のマッチ。

「ミロンガ ヌオーバ」

東京都千代田区神田神保町1-3-3
営業時間
平日 11:30~22:30(LO. 22:00)
土日祝 11:30~19:00(LO. 18:30)
※水曜定休

(次回、オリジナルマッチのデザイン到着!)

2024-12-15-SUN

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  • 関連企画のお知らせ

    イラストレーター・福田利之さんが、
    このコンテンツ「喫茶店マッチが好きだから。」のために
    一枚の絵を描きおろしてくださいました。
    その絵を印刷した、オリジナルマッチを作成。
    渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で開催中の
    「大福田展」でお渡しします。
    会場内の「純喫茶 大福」をご利用ください。
    おひとり様に1個、差し上げます。
    (ご用意した数が無くなり次第終了)

    また、TOBICHI東京のワンコーナーでは、
    「喫茶店マッチが好きだから。」に登場している
    向江夢のマッチコレクションを展示します。
    ちいさな展示ですが、
    オリジナルマッチのために描かれた、
    福田利之さんの原画もご覧いただけます。