
昨年の夏の終わりに糸井重里が
ロサンゼルスを訪れたのは、
知人に招かれてドジャースタジアムで
大谷翔平を観るためだったのですが、
じつはもうひとつ、目的がありました。
それは、『MOTHER2』の英語版である
『EarthBound』のローカライズを担当した、
マーカス・リンドブロムさんと会うこと。
30年前、『MOTHER2』のことばを
「『EarthBound』のことば」に翻訳した
マーカスさんと糸井重里が、
はじめて会って話しました。
知らなかったことがいろいろありましたよ。
>マーカス・リンドブロムさん(Marcus Lindblom)
マーカス・リンドブロムさん(Marcus Lindblom)
30年以上にわたるゲーム業界でのキャリアを任天堂でスタートし、
一番有名なプロジェクトはEarthBoundの英訳のローカライズ。
その後、さまざまなパブリッシャーや
デベロッパーの会社でプロデューサーとして活躍。
Partly Cloudy Gamesというゲームコンサルティング会社を
10年間共同経営し、現在はゲーム業界での次の冒険を探している。
この対談は日本語・英語でお読みいただけます。
- マーカス
- でも、発売から30年経っても、
このゲームをみんながプレイしているとは
思わなかったです。
- 糸井
- 思わなかったですね(笑)。
- マーカス
- それで、よかったなと思うのは、
ローカライズしていたとき、
当時、流行っていたことばを
なるだけつかわないようにしていたことです。
作業していたのは90年代だったんですけど、
アメリカのカルチャーそのものは感じさせても、
「90年代のもの」というふうには
感じさせないようにしたかった。
- 糸井
- ああ、はい、それはすばらしいですね。
ぼくもまったく同じ姿勢です。
- マーカス
- ああ、よかったです。
そもそも、糸井さんのオリジナルのシナリオから、
そういう気持ちが伝わってきたんです。
- 糸井
- はい、とても気をつけているところでした。
それは、音楽と似てますよね。
昔のポップスをいま聴くといい、みたいに、
いまを感じさせないもののほうが、
かえって素敵になるんですよね。
- マーカス
- ああ、なるほど。
でも、『EarthBound』が発売されるまでは、
日本のゲームは直訳されることがふつうだったので、
ああいうふうに翻訳することに、
すごくプレッシャーは感じていました。
結果的に、失敗しなくてよかったと思います。
- 糸井
- とてもいい成功例になったと思いますよ。
ちなみに、『MOTHER2』というタイトルを
『EarthBound』と訳したのは、
マーカスさんの仕事なんですか?
- マーカス
- 私ではないんです。
- 糸井
- ああ、そうなんですか。
- マーカス
- ご存知かと思いますが、
ファミコンで発売された一作目の『MOTHER』は、
アメリカで発売されなかったものの、
英訳はされていたんです。
そのときのタイトルがすでに
『EarthBound』だったんです。
- 糸井
- ああ、そうか、そうか。
- マーカス
- 『MOTHER2』がローカライズされるときは、
そのタイトルをそのままつかいました。
一作目を『EarthBound』と
翻訳したのが誰かはわかりません。
- 糸井
- なるほど。でも、いいタイトルですよね。
- マーカス
- はい、そう思います。
- 糸井
- もうひとつ、質問があります。
ぼくがもとのシナリオをつくるときに、
けっこう無理矢理にやったことがあって、
なにかというと街の名前なんです。
オネット、ツーソン、スリーク、フォーサイド。
これ、日本人の感覚ででたらめに、
1、2、3、4と訪れる順番に
数字を組み込んでいったんですね。
そういうのは、違和感なかったのかしら。
- マーカス
- ああ、それは大丈夫でした。
ひとつひとつのことばがどうだというより、
ゲームのなかのさまざまな要素がおもしろかったから、
スーッとぜんぶを受け入れた感じです。
- 糸井
- あ、大丈夫?
- マーカス
- そういうことに最初は気づかなくて、
「あ、この街も数字だね」という感じです。
- 糸井
- ほかにも、アイテムの名前とか、
変な名前をつけたものがたくさんありました。
翻訳に苦労したんじゃないかな。
- マーカス
- すでにアメリカで商標的にある名前は、
同じものをつけないようにしました。
- 糸井
- ああ、そうか、そうか。
法務的なチェックは厳しかったでしょうね。
- マーカス
- 印象に残っているのは、
ダンジョン男のなかにある黄色い潜水艦ですね。
あれは、個人的に、そのまま
「イエロー・サブマリン」という表記にしたかった。
だって、「黄色い潜水艦」ですし(笑)。
- 糸井
- ああ、ありがとうございます。
まあ、『MOTHER』シリーズは、
ビートルズへのリスペクトが
あちこちに込められていますから、
残してくださってうれしいです。
ぼくとしては、ビートルズの要素を散りばめるのって、
友だちを探しているようなことなんですよね。
- マーカス
- 友だちを探している‥‥?
- 糸井
- それがあってうれしい、
という人と会いたいんですよ。
だから、セリフのなかにちょっと入れたり、
誰かの名前にしたりして。
どこかで誰かが
「あ、これ、ビートルズかな?」って
思うだけでぼくはうれしいんです。
- マーカス
- ああ、とても素敵です。
実際、ぼくもうれしかったですし。
- 糸井
- よかったです。
まあ、タバコを吸ってるキャラクターが
吸わないようなグラフィックになったり、
そういうのはしかたないと思うんですけどね。
- マーカス
- そうですね。
タバコ、お酒、宗教という要素については、
グラフィックやことばを修正しました。
フォーサイドにあったバーが
カフェになったのをご存知ですか?
- 糸井
- 「ボルヘスの酒場」?
- マーカス
- はい、あそこはカフェになりました。
だから、赤い顔をした酔っぱらいが
コーヒーを飲んでいる(笑)。
- 糸井
- (笑)
- マーカス
- セリフも、酔っぱらいのことばではなく、
コーヒーを飲んでいても
成立するようなセリフにしました。
個人的に残念だったのは、マジカントですね。
もともとはマジカントに行ったネスは
裸になってるんだけど、
『EarthBound』では無理でした。
- 糸井
- ああ、なるほど。
どうなってるんでしたっけ。
- マーカス
- ネスはパジャマを着ています。
- 糸井
- そうか、ローカライズには
たんにことばを翻訳するだけじゃなくて、
そういう仕事もあるんですね。
- マーカス
- そうなんです。
(つづきます)
2025-04-02-WED